鉄道カメラマンが観た『僕達急行』

「鉄<テツ>」を極めた最高峰(?)ともいえる、“鉄道カメラマン”という職業。
彼らが見た、映画『僕達急行 A列車で行こう』の魅力とは……。

おそらく最初の「鉄チャン映画」ではなかろうか

南 正時 MASATOKI MINAMI

写真

A列車な1枚

食パン電車
映画から想起したのがこの作品。鉄道、そして鉄道ファンが持つ力強さ、ひたむきさ、イキオイをイメージして(ひたちなか海浜鉄道車内より中根駅付近)。
※写真をクリックすると、大きい画像で見ることが出来ます。

 試写会のシートに座ったとき、はじめて北海道へ向かう「急行八甲田」のシートに座った時のようにワクワクした。のっけからマニアックな表現で申し訳ないが、鉄道写真家という職業柄、そう感じたのだ。まぁ、あの森田芳光監督の最新作で、テーマが「鉄道」である時点で、あたりまえなのだけれど。

 映画は始まったと同時に、テンポ良く進んでいく。いい意味でわかりやすく期待を裏切らないストーリーと、森田監督ならではの優れた人物描写で、グイグイと画面に吸い込まれる。特に、笹野高志演じる小玉哲夫、ピエール瀧演じる筑後雅也、圭が赴任する九州支社の面々などのコミカルな描写は絶妙だ。

 またいわゆる「鉄道オタク」のデフォルメ感がいい。「オタク」=「キモイ」「ダサイ」ではなく、オタク描写に愛が感じられるのだ。たとえば”超”オタクである主人公の2人も、社会や異性と関わりながらきちんと成長していく。何もかもがスマートになり、熱中することがダサイといわれる今、何かに没頭することが持つパワーを、鉄道オタクを使って表現しているのだ。そしてそれは、森田監督自身が鉄道を愛しているからこそできることだなと実感することができた。

 この映画は監督が十数年間温めてきた企画だと聞いた。期せずして「遺作」になってしまったのは残念だが、森田芳光という一人の男が、渾身の想いと男のロマンを抱いて作り上げた作品を、美しい映像と共に楽しんでいただければと思う。

プロフィール

南 正時 MASATOKI MINAMI
1967年東京都出身。成蹊大学法学部を卒業後、東京写真専門学校を経て鉄道写真家、真島満秀氏に師事。1996年に独立、2000年にレイルマンフォトオフィスを設立。車両だけにこだわらない独自の視点から、「1日1鉄!」や「ゆる鉄」など新しい鉄道写真のジャンルを生み出した。著書「中井精也の鉄道スナップ撮影術 ゆる鉄」 (アスキーフォトレシピシリーズ)、「世界一わかりやすいデジタル一眼レフカメラと写真の教科書」(インプレスジャパン)など多数。JPS((社)日本写真家協会)会員。JRPS(日本鉄道写真作家協会)副会長。
ブログ「1日1鉄
『トレたび』のコンテンツでは、「こどもと撮る鉄道写真~家族で行きたい列車旅

TOPへ戻る