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鉄道が嫌いじゃない貴女におくる、女子力アップのヒント集『鉄子の部屋』 近頃認知度急上昇中なのが、女性鉄道ファン・通称“鉄子”。男性鉄道ファンに比べると、マニア度や緻密度においてはひけを取るかもしれませんが、情熱や遊び心は全く負けてない! 『鉄子の部屋』は全く新しい、女子のための楽しく明るい鉄道エッセイです。(注)鉄道が好きな女性を愛称で“鉄子”と呼びます。

*第3鉄* 列車を降りたらバーベキュー『比羅夫駅のホームでジンギスカン、丸太の風呂に入り、そのまま駅に泊まる。Part2』

含まれる鉄分
★貫通扉 ★振り子式車両 ★函館本線 ★駅舎の宿 など

文=神田ぱん

かつて駅員が寝泊まりした部屋

「いや、全然。大丈夫ですよ!」と中年女の無礼を明るく笑ってくれた心の広い男性は、羊蹄山へ登りに来た東京在住の公務員Tさん。テレビ番組で『ひらふ』のことを知り、「駅舎に泊まるなんて面白そうだなーと思って」やって来たという。今晩Tさんが泊まるのは、かつて実際に駅員が寝泊まりしていた部屋だ。押し入れっぽい作りつけの2段ベッドが、いかにも駅の施設って感じ。
 といっても鉄ちゃんではなく、空路で小樽回り。「飛行機なら1時間半ですからね。もっと時間があればのんびり鉄道でもいいんですけど、忙しくて」。いま会ったばかりの人と、しみじみそんな話をして、バーベキューも山盛りでうまいしビールもある。世は統べて事もなし。
 浮かれていたら猫が来た。白ベースの茶トラだ。待合室には「しまじろう」と書いてあったので「しまたん」と呼ぶと「ニャ」と短く鳴いてスリスリしてくる。よし、しまたんにおチャカナ焼いてあげまチュよー、おいちいでチュよー。などと媚びていたら「ニャ」とハナで笑ってホームを降り、線路脇の草むらに入っていった。その草むらには「売地」の立て看板。謎。こんな土地の広いとこで、わざわざ線路沿いに家とか建てるか?
 楽しい食事のあとはお風呂。ここのお風呂は、巨大な丸太をタテにくりぬいた丸太風呂だ。しかも灯りはランプだけ。H岩は「も、ちょ~いいですよっ!」と大興奮。私も、あまりの気持ちよさに、風呂で眠りこけそうになった。

鉄道ファンなら一度はおいで

 それにしてもオーナーさんは、なんでここに宿を造ったのだろう? もしかして鉄?
「いや、僕は自転車とかバイクの方が好きですね」。そっか。オーナーは京都出身の南谷吉俊さん。
「宿を造ったのは前オーナー。1982年から比羅夫(ひらふ)が無人駅になって、雰囲気のある駅なのに取り壊されたらもったいないとJRにかけあって、1987年にここができたそうです」
 そして1989年。南谷さんが駅寝をしようと訪れた比羅夫駅ではホームでバーベキュー中。
「何やってるんやー? て思ったら宿になってるっていうから泊まって。その後、会社辞めてこっちへ仕事探しに来た時、前オーナーがコテージ造ったりする仕事を本格的にやりたいから、やってみないかって、12年前に僕が引き継ぎました」
 登山客や旅人のみならず、駅舎に泊まれるということで訪れる鉄道ファンも多い。
「あの列車が1日でこっち行っていつどこでどう戻ってくるーとかよく話してますよ、すごいですよね。鉄道ファンの間では、ぜひ1回は泊まらなあかんみたいなこともいうてくれてる。でも去年、自宅を建てるまでは僕らが2階にいたんで、あんまりお客さんは通さなかったんです」  おー。今度来る時は、絶対あの部屋にしよう! でも、ですね、万一廃線になったら? 「新幹線が来たら廃線かな、30年後とか言ってますけど。長万部~小樽間はなくなりそう。江差線なくなるらしいし、ここも同じ運命でしょう」

始発列車の乗客はたった3人

 翌朝は、6時35分の始発に乗ろうと、宿を6時35分に出た。夜のうちに宿代の精算は済ませてある。パッとホーム。パッと乗車。あり得なーい! 部屋は落ち着いたログコテージだし、夜はほとんど列車の往来がなく静かだったけど、私たちホントに駅で泊まったんだね! と実感。
 しかし、始発列車は我々以外にお客は一人。運転士さんに聞くと「いつもこんなもんですよ」と言う。ローカル線は厳しいなあ。長万部駅の待ち合わせ時間に外へ出てみたら、「心ふれ愛おしゃまんべ ようこそドライブインの町へ!」という看板があった。ドライブインの町かよう。そこには「長万部駅“駅部調査”決定!」の文字も。駅部調査とは、新幹線建設の調査のことらしい。 北海道の鉄道旅は、時間がないと難しいが、いつか青春18きっぷで1ヵ月ぐらいじっくり乗ってみたい。だから、新幹線を造ってもローカル線は残してください! お願いJR。

主な“鉄子”

神田ぱん
1963年生まれ。おひつじ座のO型。茨城県日立市出身。三児の母。ミニコミ『車掌』(内容は非鉄)の営業部員という顔も持つ。「ケータイ国盗り合戦」ではまだ武将止まり、目指せ太閤。文筆業。
屋敷直子
1971年生まれ。おとめ座のO型。川崎市生まれ、福井市出身。故郷を愛するあまり「ふくいブランド大使」に登録。会員番号05121359。特技はピアノ。0系新幹線ラブ。文筆業。
さくらいよしえ
1973年生まれ。てんびん座のA型。大阪府交野市出身。『日刊ゲンダイ』で連載。著書に『立ち飲み天国』(ライブドアパブリッシング)『読みキャベ』(交通新聞社)。転換クロスシート愛好家。文筆業。
H岩美香
1972年生まれ。しし座のA型。東京都目黒区出身。株式会社弘済出版社(現交通新聞社)入社後、時刻表編集部、月刊『散歩の達人』を経て、月刊『旅の手帖』編集部へ異動。忘年会はお座敷列車希望。サラリーマン。

書籍紹介

鉄子の部屋
『JR時刻表』『交通新聞』『鉄道ダイヤ情報』などでおなじみの交通新聞社が、満を持してお届けする、女子による女子のための鉄道エッセイ&ガイド本。
●定 価 1,365円(税込)
●仕 様 A5版160ページ

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