『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

鉄道が嫌いじゃない貴女におくる、女子力アップのヒント集『鉄子の部屋』 近頃認知度急上昇中なのが、女性鉄道ファン・通称“鉄子”。男性鉄道ファンに比べると、マニア度や緻密度においてはひけを取るかもしれませんが、情熱や遊び心は全く負けてない! 『鉄子の部屋』は全く新しい、女子のための楽しく明るい鉄道エッセイです。(注)鉄道が好きな女性を愛称で“鉄子”と呼びます。

*第11鉄* 3泊4日の長野欲ばりコース せっかく長野に行くのなら、あらゆる路線のあらゆる車両に乗らなくてはと思ったのだ。Part2

含まれる鉄分
★小海線 ★ハイブリッドこうみ ★JR鉄道最高地点 ★しなの鉄道 ★上田電鉄別所線 ★別所温泉駅 ★丸窓電車 ★長野電鉄 ★ゆけむり号(旧ロマンスカー)など

文=屋敷直子

小海線を後に、しなの鉄道へ

 翌朝、中込(なかごみ)を10時25分に出て小諸へ向かう。昨日の雲たちはどこかへ行って、気持ちよく晴れている。途中の佐久平駅は新幹線が停まる駅で、急にひらけてくる。大きなショッピングセンターや、新しくて大きな家があるが、駅を過ぎると、また元の田園風景に戻る。小諸の二つ手前の乙女駅では、車内から駅名表示板の写真を撮る。なんとなく、はずせない気がしたのだ。

 小諸は、駅を降りるとすぐご城下で、というより駅がご城下にある。城跡は懐古園となっていて、動物園や遊園地のほか、藤村記念館、郷土博物館などがあって広大。展望台から見下ろすと、町が千曲川に囲まれているのがよく分かる。一番楽しいのが動物園で、夫と一定の距離を保ちたい嫁優位のライオンの夫婦や、どうしてもかゆいところに手が届かずに転げ回るツキノワグマは、いつまでも見ていられた。

 小諸から上田は、しなの鉄道。長野新幹線が開通したときに、JRから移管された第3セクターで、軽井沢~篠ノ井間を結んでいる。この移管で、信越本線が分断されてしまったり、軽井沢から各駅停車で長野へ行くときに青春18きっぷが使えなかったりと、いろいろややこしいことになってしまった。今に、新幹線では繋がっているけど、普通列車はいろいろな会社が入り乱れるようになって、青春18きっぷなんて意味をなさなくなるかもしれな い。すると、安くてのんびり鉄道で旅ができなくなるじゃないか……などと悶々としていると、女性の車掌さんがやってきた。グレーのパンツにベレー帽。制服も笑顔も、とてもかわいい。心が晴れる。

上田電鉄別所線、そして豪雨

 上田駅は、久しぶりの大きな駅で、きょろきょろしてしまう。とはいえ、上田電鉄のりばへ行く人は少ない。「残そう! 上田電鉄別所線」とポスターが張ってあって、ここも存亡の危機なのかと寂しく思う。上田電鉄は、以前、丸窓電車と呼ばれたモハ5250形が走っていて、終点の別所温泉駅には当時の車両が保存されている。その車両の写真があまりに素敵で、実物を見たかった。だから、今回の旅では、別所温泉が目当てというよりは、別所線に乗って保存車両を見に行くことが目当て、というほうが正しい。

 上田駅に入ってきた電車は、当時を模しているのか、白×紺で丸い窓が付いている。と思ったけど、丸窓はふつうの四角い窓に丸抜きのシールを貼っているものだった……。でも雰囲気は出ている。十分だ。2両編成、席はロングシートで、乗客は温泉客がほとんどの様子。みんな今夜の宿への期待で気もそぞろな空気が漂っている。誰も、保存車両への期待で気もそぞろな鉄子が同乗しているとは思うまい。

 別所線は、稲穂が黄金色に実る田んぼを横切り、コスモス畑をすり抜け、ところどころにある民家を遠くに見ながら、心地よく進む。カーブが多く、右へ左へ揺れながら、青空の下を走り抜ける。極楽だ。途中の駅もツタがからまっていたり、小屋のような駅舎だったりで趣深い。なんていい路線なんだ。と、うっとりしていたら、終点に近づくにつれて雲行きがあやしくなってくる。電車が減速し始める頃には雨が降り出し、駅に降り立つ頃には煙が上がるほどの豪雨。何の因果か、再び。

  魅惑の保存車両を見る間もなく、宿の車に乗せられて移動。宿は、渡り廊下で部屋が繋がっていて、有形文化財に登録されているほどの美しい木造の建物。渡り廊下は屋根があるだけのつくりなので、雨が近い。露天風呂は、ほぼ打たせ湯だったが、それも風流と強引に入る。明日は晴れて、丸窓電車に会えますようにと願いながら寝る。

次回に続く

主な“鉄子”

神田ぱん
1963年生まれ。おひつじ座のO型。茨城県日立市出身。三児の母。ミニコミ『車掌』(内容は非鉄)の営業部員という顔も持つ。「ケータイ国盗り合戦」ではまだ武将止まり、目指せ太閤。文筆業。
屋敷直子
1971年生まれ。おとめ座のO型。川崎市生まれ、福井市出身。故郷を愛するあまり「ふくいブランド大使」に登録。会員番号05121359。特技はピアノ。0系新幹線ラブ。文筆業。
さくらいよしえ
1973年生まれ。てんびん座のA型。大阪府交野市出身。『日刊ゲンダイ』で連載。著書に『立ち飲み天国』(ライブドアパブリッシング)『読みキャベ』(交通新聞社)。転換クロスシート愛好家。文筆業。
H岩美香
1972年生まれ。しし座のA型。東京都目黒区出身。株式会社弘済出版社(現交通新聞社)入社後、時刻表編集部、月刊『散歩の達人』を経て、月刊『旅の手帖』編集部へ異動。忘年会はお座敷列車希望。サラリーマン。

書籍紹介

鉄子の部屋
『JR時刻表』『交通新聞』『鉄道ダイヤ情報』などでおなじみの交通新聞社が、満を持してお届けする、女子による女子のための鉄道エッセイ&ガイド本。
●定 価 1,365円(税込)
●仕 様 A5版160ページ

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