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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化もされた『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。足掛け2年をかけて東京から大阪までを散歩した近著『野武士、西へ 2年間の散歩』(集英社)が発売中。

内房線 うちぼうせん

蘇我(千葉市)から安房鴨川(鴨川市)までの全30駅。119.4km。東京から館山までは特急「さざなみ」が直通運転していて、2時間弱で到着する。今回歩いたのは館山市と南房総市。房総半島の、くびれ部分。

 翌日は6時に起きて朝湯をつかう。天気もよく、明るい大浴場は最高だ。朝食のあと、部屋に戻ってちょっと横になったら、またぐっすり寝込んでしまった。起きたらチェックアウトの10時直前! せっかく早起きしたのに! 体が完全休暇気分。ダメだ。

 慌てて身支度して、出かける。目の前は海岸で内房の海が広がっている。砂浜を歩く。波は穏やかだ。館山は小さな湾になっていた。海水浴客こそいないが、マリンスポーツを楽しむ若者は多く、早くもビーチでバーベキューの準備をしているグループがいる。早くも、ではない。オレが遅いのだ。

 なにやら南仏とかそういうのをイメージしたような駅舎を抜け、向こう側の道を線路に沿って歩き始める。古そうな呉服店、理髪店、洋傘店。この街の歴史を感じる。市街地は線路につたい歩くのが難しく、あっちに行き過ぎ、こっちに戻り、行き止まりになって戻ったりした。これを苦にしていては、つたい歩き散歩は楽しめない。幅1mほどの垣根道を歩きながら、こんな道普通の旅人は絶対に歩かないぞ、とほくそ笑む。


これぞつたい歩き。並んで直線。
線路との間に柵も何もない

お宮踏切。なんともカワイイ。
こういう風景になかなか会えないぞ

 昭和を感じる古い家屋がちらほらしてきて、お地蔵さんが登場すると、田んぼが見えてきた。稲刈りが終わったところも多い。ビニールハウスも現れた。そして、線路の横をピッタリ歩く道に入れた。道と線路の間に柵もなく、文字どおり線路につたい歩ける。空は晴れ、大きな雲がきれいだ。踏切の脇に焚き火の煙が上がっている。いいなぁ、焚き火。

 線路脇の農道を歩く。草の道だ。遮断機もない小さな踏切があって「お宮踏切」と名前が付いている。その名のとおり、渡ったすぐ先に小さなお宮が樹々に囲まれていた。

 楽しい農道つたい歩きも、お昼頃終わって、道は舗装道路に吸収され、舗装道路は2車線の自動車道に繁がった。車がビュンビュン走っている。でも一応線路とは並行している。「鴨川26km 和田13km」という標識が出た。千倉まではどのくらいなのだろう。

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