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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化もされた『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。足掛け2年をかけて東京から大阪までを散歩した近著『野武士、西へ 2年間の散歩』(集英社)が発売中。

内房線 うちぼうせん

蘇我(千葉市)から安房鴨川(鴨川市)までの全30駅。119.4km。東京から館山までは特急「さざなみ」が直通運転していて、2時間弱で到着する。今回歩いたのは館山市と南房総市。房総半島の、くびれ部分。

 だんだん家が増えてきた。古い家、古い商店が多い。それがだんだん新しい家ばかりになってきて、千倉駅到着。時間を見るとちょうど2時。約4時間か。さすがに少し疲れた。でも休む間もなく、海に向かう。

 途中「くじらのたれ 大阪屋商店」があり、あれ? と思い、すぐに思い出す。20年ほど前、テレビの「そこが知りたい~自転車の旅」で、レポーターとしてここ、来ました! なんだか感激。「たれ」とは、鯨の肉の天日干しで、ちょっとビーフジャーキーに似ている。そうそうこの店だ。屋上で干しているたれを、ステレオカメラで3-D写真に撮った。

 道は一本道でふいに冷たい風が吹いてきたと思ったら海が見えた、外房だ。手放しで感激してしまった。
 海だ海だ。やはり外房は違う。内房より砂が白い。波も高い。遠くの、もっと波の高いところにはサーファーの姿がたくさん見えた。海藻が打ち上げられていて微かに磯の匂いもする。

 それよりドーンという外海の開放感がスバラシイ。胸の中まで広くなるようだ。静岡あたりの太平洋岸とどこが違うのかわからないが、とにかくこっちのほうが海が広く感じる。どうしてだろう?

 我慢できなくなって、靴を脱ぎ、靴下も脱ぎ、ジーパンの裾を膝までまくり上げて、海に歩いて行き、波に足を洗わせる。気持ちいい! 水は冷たくない。これなら泳げそうだ。波の音。海の風。空も広い。ああ久しぶりだ。全身で海と対峙した。それから水の中の砂に映った自分の影を写真に撮る。


自分入れ込みで海を撮る。いい天気で日焼けした。この後、海に入る

思わず入ってしまった千倉の海。水がキレイ。水の中の砂の上にボクの影

 もっとずっとここにいたかったが、帰りの電車があるので、海岸で足を拭き、靴下や靴を履いて、駅に戻る。今度は外房線で帰ることになるんだろう、と思っていたら内房線のほうが早いようで、千倉からふた駅電車で戻り、館山発「新宿さざなみ4号」で帰った。歩き疲れと日に焼けた疲れで、乗車して電車が動き出す前に眠ってしまった。

※「旅の手帖」2013年11月号より掲載しました。

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