『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。あれこれ考えない“野武士的な“食べ方にあこがれる筆者のひとりメシエッセイ、『野武士のグルメ』(普遊社)が、土山しげる作画によるマンガ版で幻冬舎より発売。

岳南電車 がくなんでんしゃ

富士山麓の工場地帯を走る、ローカルな私鉄。吉原から岳南江尾(いずれも富士市)までの10駅。9.2km。工場内を走る一風変わった路線だ。土・日曜・祝日に使える1日乗車券は大人410円とかなりお得。

 

 もちろんそのあとも、終点まで歩いた。全然つたい歩きはできなかったけど、午後になってますます暖かく春めいた陽気の中、ノンビリ歩いた。途中、何度か富士山が頂上を覗かせた。デカイ。神々しい。岳南の岳というのは、富士山のことで、富士の南の地という意味だそうだ。
 線路に沿って東に歩いて行くと、工場がなくなり、茶畑が現れた。やはりここは静岡だ。4年前もこうして風景がゆっくり変わっていくことで、「別の地域に入ったな」と感じたりしたものだ。


巨大な富士山が姿を現した。さすが、岳南

比奈駅でひと休み。自分を撮ったらピンボケ。
でも構内シブイ

帰りの岳南電車内。春の日差しに和む。
ずっと乗っていたい

 シブイ駅舎の比奈駅構内の古い古い木のベンチでひと休み。背中が汗ばんでいる。

 淡々と歩くと、さらに畑が広がり、空が大きくなった。道路の上を新幹線がまたいで通った。ものすごいスピードだ。そこからすぐ終点の岳南江尾(えのお)駅に到着。午後2時半。

 ホームにオレンジの車両と、ちょっと緑がかった濃い水色の車両が並んでいた。鉄道マニアがふたり、大きなカメラで執拗に写真を撮っていた。そういう人にも人気なんだ。
 駅は無人駅。電車に乗り込むと、車内も懐かしい感じで、春の日差しが注ぎ込み、座った瞬間からもう眠くなった。でもボクがつたい歩けなかった場所をどう走って行くのか見届けなければ。電車がゴトゴト動き出した。やはり工場の間を通って行くのだな。ずっと乗っていたいような心地よさだったが、電車はわずか21分で吉原駅に到着した。

 レトロ感ある跨線橋を渡ってJR吉原駅のホームに降り、振り返ると、かの小さな一両車が向こうのホームにじっとしていて、なんだかいじらしいようだった。

※「旅の手帖」2014年5月号より掲載しました。

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