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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。土山しげる作画による『野武士のグルメ』マンガ版が幻冬舎より好評発売中。

鳴門線 なるとせん

池谷から鳴門(いずれも鳴門市)までの7駅。8.5km。全線鳴門市内を走る路線だが、高徳線へ直通運転しており、徳島方面へ行くのが容易。終着の鳴門駅からバス20分の鳴門観光港からは観潮船も出る。

 

 鳴門駅の周辺には意外なほど食べ物屋が少なく、ちょっと歩き回って自動車道路沿いに「あそこ食堂」の矢印看板を見つけ、イチかバチか向かう。手打うどんと書いてあり即決して入る。ガラッと引き戸を開けて、目に飛び込んできたのはそこに置かれたガラスケースにあふれんばかりのオビタダシイおかず群。


あそこ食堂の入口。このおかず量!

 かき揚げ、カレイの煮付け、サバ煮、お刺身、イイダコ煮、竹の子、お新香、ポテトサラダ、卵焼き、タコ酢……。これを勝手に取ってテーブルに着く方式らしい。ここで大正解。最高の締めくくりだ。ボクは油揚げを煮たのとおでんのごぼう巻きと蒲鉾と青菜煮の盛り合わせ小鉢でビールを1本。歩いた後の春の昼ビール、これはコタエラレナイ。

 白髪のおじいさんが入ってきて、イワシの煮たのを取り、冷蔵庫から一升瓶を出し、小上がりに横座りに座って、コップにどくどくと注いで、瓶を座卓にドンと置き、酒をスイッと一口やって、横にあったスポーツ新聞をバッと広げた。流れるような所作。もう何十年の客なんだろう。
 すでに顔を真っ赤にして飲んでるふたり連れの客もいる。ご飯だけ食べている人もいる。店のおばちゃんとおじいちゃんもすごく感じいい。テレビでニュースをやっている。外が明るい。ゆったりした空気の中で、ジーンと酔いが回る。ああ、今日のつたい歩きはよかったなぁ、徳島、こういうところだったのか、と思う。

 ビールをゆっくり飲んで、最後にわかめうどんを食べた。実は昨夜「徳島のうどんは、讃岐と違って、あんなにコシがなくてひょろひょろ細いんだけど、機会あったらぜひ食べてください」と、居酒屋の女将に言われていたのだ。たしかに麺が細くチヂレとネジレがあり、コシはさほど強くないが、実に普通にウマい! ワカメももちろんおいしく、汁もいい。帰る時ミカンまでもらってしまった。


帰りに車窓から撮った吉野川鉄橋

 乗って帰る列車も楽しかった。一気に徳島まで。途中、吉野川の鉄橋を出たところの写真が撮れた。ラッキー。ビバ春の徳島。

※「旅の手帖」2014年6月号より掲載しました。

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