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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。7月からテレビ東京系でドラマ『孤独のグルメ』の第4シーズンが放映決定。

八戸線 はちのへせん

八戸(青森県八戸市)から久慈(岩手県久慈市)までの24駅64.9km。昨年5月に三陸復興国立公園に指定された種差(たねさし)海岸ほか、三陸沿岸を行く路線。土日中心に走る観光列車「リゾートうみねこ」も人気。

 

 そこをずーっと歩いていくと砂浜が見えた。なだらかな階段を浜に下りる。砂のせいで、足取りが少しだけ重くなる。でもそれも心地よい。誰もいない。あらためまして、コンニチハ太平洋。波は静か。人の足跡はたくさんついている。犬と鳥の足跡もある。

 波打ち際に近づくと、砂が細かくなってやや硬く、歩きやすい。青空だが薄く雲が張り、日差しが柔らかいのが助かる。さすが北国、5月でも海風は冷たいが、歩いているので全然寒くない。海は心を解放してくれる。淡々と歩く。遠くにアリのように見えたサーファーが近づいてくる。この長い砂浜(戻って調べたら大須賀海岸という。約1.5㎞)で、会ったのは彼だけ。まだ少年っぽい若者だ。
  波を見つめ、時折短いサーフボードを抱え海に駆け込んでいくが、2~3mとボードに立っていられない。こんな波のない海でも、出て来ずにはいられなかったのだろう。ボクはサーフィンはしないけど、彼の気持ちがわかるような気がする。青春だぜ。


ロンリー・サーファー。浜にはボクと彼だけ

 約45分歩いて、川に行く手を阻まれ、道路に戻る。川のむこうの浜は白浜海水浴場というらしい。カップルが代わりばんこに岩に乗って写真を撮り合っている。道路を行くとすぐ踏切があり、八戸線と再会。今度は線路の陸側を歩こうかと思ったが、もう少し海沿いに行くと小さな漁港があるようなので、海の道を行く。

 思ったよりそばに小さな小さな漁港があった。ふーんと思って坂を上っていくと一艘の漁船が草の上に固定されていて「2011.3.11 大津波生き残り舟」と書いてある。そうか。ここも被災地だった。身が引き締まる思いで思わず船に手を合わせる。この船に呼ばれたのかもしれない。


「3.11 大津波生き残り舟」と書いてあった

 海岸沿いにまた遊歩道が造られていて、そこを行く。岩場の奇岩が猛々しく、道のまわりの草の中に咲き続くタンポポとの対比が面白い。遊歩道が終わって今度こそ線路つたい歩きに戻る。県道1号だ。「八戸から13㎞」と標識。あちこち道草食っているから、ボクは15㎞くらい歩いているだろう。東京から遥か青森の八戸を、ただ意味もなく線路につたってひたすら歩いている自分が痛快な気分。

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