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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。7月からテレビ東京系でドラマ『孤独のグルメ』の第4シーズンが放映中。

鹿児島本線 かごしまほんせん

門司港(もじこう)から新八代(しんやつしろ)までの232.3km81駅と、肥薩おれんじ鉄道を挟んで川内(せんだい)から鹿児島までの49.3km14駅。今回は北九州市の小倉から門司港、関門海峡付近を歩いた。

 

 門司駅に行って、自分の早合点に気づく。門司駅と門司港駅があるのを知らなかった。ボクが目指しているのは門司港駅だった。ふた駅先だ。まだずいぶんある。線路つたい歩き、そんなに軽くはない。せっかくなので駅の向こう側に渡る。駅は新しい。線路はたくさんあって、古そうなのから最新型まで、いろいろなタイプの列車が停まっていた。そういえば長い貨物列車も見た。九州はなぜか列車が似合う。国道は車や大型トラックも多かった。関門海峡に向けて、船も車も列車も多いところなのだな、と実感。

 駅の山側が町の中心部のようだった。ここも坂の多い町だ。大通りを少し入ったところに「やなぎ湯」という古い銭湯を発見。入りたくなるが、まだやってない。先月の八戸(はちのへ)とは違う。淡々と歩いて、小森江(こもりえ)駅前に着く。小さな無人駅。ここでまた海側に渡る。

 関門海峡だ。山口側は意外なほど近い。そこを船がどんどん行き来している。外国船らしい船も多い。線路脇の柵にヒルガオが絡んで、花を咲かせている。

 暑くなってきた。港があるせいか道沿いに古い倉庫も多い。でも海側の道は民家もなくどうも退屈なので、また線路の向こう側に渡る。こうやって気ままにジグザグ歩くのも、線路つたい歩きの醍醐味だ。最初国道を歩いていたが、ふと一本裏の細い道に入ると、ここがなんとも古い家々の間の道で風情がある。道はなだらかな坂を上り下りしながら、ゆるやかに曲がりくねっている。


路地の向こうはすぐ鹿児島本線、そして車道、さらに貨物船

 錆びたコカコーラの看板。一軒一軒名字まで書かれた町内会地図。洗濯物。干された子供の運動靴。並んだ鉢植え。くすんだモルタル壁。そんな家々の間をひょいと覗くと、向こうの海を大きな貨物船が通る。タマリマセンよこの道は。

 2階建ての長屋みたいな家もある。小さな路地も坂になっていて、小さなコンクリートの階段がある。大きな白いユリが並んで咲き誇っている。右手には低い山が迫っている。山肌には家が這い上がるようにひしめいている。どこもとても絵になる。ここで、貧乏だけど明るく元気な子供が縦横無尽に駆け回る映画を撮りたい。

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