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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。テレビ東京系でドラマ『孤独のグルメ』の第4シーズンが絶賛放映中。

南武線 なんぶせん

川崎から立川までに、浜川崎支線と呼ばれる浜川崎から尻手(しって)を加えた39.6km30駅。京王、小田急、東急と、多くの線と交差する路線。今回は川崎市の登戸から平間までを歩いた。

 

 そこから少し歩いて宿河原の駅前に出た。小さな商店街をひと通り見たが、食べるところは中華料理店と、ランチもやっている2階の喫茶店しかない。どちらも「これはシブイ!」というボク好みの古い店ではなかったが、腹ぺこなので中華料理店に入る。暑くて、冷やし中華しか食べる気がしなかった。

 出てきた冷やし中華の写真を撮ろうとしたら「保存メディアがありません」とカメラの液晶画面に表示される。え! と思ってカメラを開けるとSDカードが入っていない! ショック。馬鹿は俺だ。今日猛暑の中撮った写真は1枚も残っていない。最初から表示は出ていたのだ。でもあまりの明るさに、読めなかったらしい。登戸駅前の古い居酒屋写真や、灼熱釣り堀の写真がない。

 食べ終わって、祈るような気持ちで近所のコンビニに入ったら、SDカード、売ってた! 買って挿入、食べた店を撮る。2階の喫茶店のほうがメニューが充実しておいしそうに見える。ハンバーグデミグラスソース定食には目玉焼きも添えられている。サラダと味噌汁付き950円。なんだか悔しい。

 ここまでの写真は諦め、新たな気持ちで歩き出す。威風堂々たる銭湯が姿を現す。「宿河原浴場」と書いてある。が、まだやっていない。やっていたら験直(げんなお)しに飛び込んでひと風呂浴びたかったところだ。


宿河原駅前の昼下がり。
暑い日だ。影が濃い

夏草が線路脇まで茂る。真夏はこれからだ。
宿河原を過ぎた踏切より

 道は狭く、武道具店や和菓子屋もあり、ボクの知らない生活圏に潜り込んだ気分。踏切があったので渡ってみると、線路のまわりに夏草が茂っている風景が、東京の外に出た南武線らしい。


農業用水路は今や遊歩道。
涼しくて生き返る

涼しい用水沿いの遊歩道脇を走る南武線

 まわりを遊歩道に造り込んだ小さな川が現れる。木陰に入ると涼しい。説明看板があり「二ケ領(にかりょう)用水竣工400年記念」と書いてある。慶長14年(1611)から地域の農民が協力してなんと14年かけて造った用水で、米の収穫量を大幅に伸ばしたそうだ。今はどこにも水田は見えない。水辺に降りる道もあり、石に座って休んでいる人もいる。いい遊歩道。すぐそこに南武線が通るのも見えた。川崎市緑化センターの門が開いている。奥に大きな温室も見える。川の向こう側は川に沿った細長い、結構広い公園になっているようだ。

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