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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

弥彦線 やひこせん

東三条(三条市)から弥彦(弥彦村)までの17.4km、8駅。
今回は上越新幹線が停車する燕三条から新潟平野の水田地帯を抜け、越後一ノ宮・彌彦神社の境内にある弥彦までを歩いた。

 

 大きなマップがあり、神社はまだここから10分ぐらい歩くようだ。腹も減ったし歩き疲れた。神社方面に歩きながら、いい店があったら入ろう。と歩き出したら、道からちょっと入った駐車場に、黄色に輝く巨大なイチョウの大木が見えた。思わず路地を入る。これは見事だった。レモンイエローから山吹色にグラデーションを作りながら青空に向かって何千何万というイチョウの葉が沸きたっている。立て札もしめ縄もない、無名のイチョウ。だが皆感嘆の声を上げ、写真を撮っている。感動した。疲れを忘れ、元気が湧いてくる心地がした。


弥彦菊まつりの富士山。さすがにビックリ

 道に戻ると白い湯気を出す店の温泉まんじゅうに観光客が行列を作っていた。食べながら歩いている人も多い。いろんな店を吟味したが、迷って歩いて行くうち神社の入口に着いてしまった。仕方なく人の流れに乗って参道に入る。それほど混雑していた。両脇で菊祭りをやっている。きれいだけど興味ない。だが、数十万の菊花で作った富士山にはさすがに圧倒された。でもここ弥彦山だけど。


まるで神社のような弥彦駅。列車は1時間に1本

 神社はさすがに立派で、弥彦山を背負ってでーんと構えていた。そのまま歩いて行くと、弥彦山頂に向かうロープウェイがあるようだ。でも時間がないのでやめて戻る。古い茶屋が並び、おでんのいい匂いがする。ところてんも名物みたいだ。温泉旅館もあるが、すっと入れる日帰り入浴の宿が見つからない。食べ物屋も「ここはウマそう!」という決定的な店がない。だんだん面倒くさくなって、温泉も食事もどうでもよくなり、古そうなそば屋に入って、座敷に上がる。弥彦駅に着いてから、混雑の中で気疲れした。

 おでんを頼んでビールを飲んだら、やっと気持ちが落ち着いた。そのあと天ざる。味はまあまあ。期待してなかったので十分。

 駅に向かうと、次の電車まで40分もあった。ちょっと戻って弥彦公園もみじ谷をのぞく。ここがまた紅葉の盛りで、小さな谷が真っ赤。ちょいと儲け物だった。電車の時間まで軽く流して戻る。帰りの弥彦線の中で、でもあの一本のイチョウの木の方が今日は感動したな、と思って、ボクは目を閉じ思い出した。

※「旅の手帖」2015年1月号より掲載しました。

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