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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。4月から原作を手がけたマンガ『食の軍師』がTOKYO MXでドラマ化。

宇野線 うのせん

岡山(岡山市)から宇野(玉野市)までの32.8㎞、15駅。瀬戸大橋の開通以前は、高松へ渡る宇高連絡船への接続で活躍。
宇野からは現在もフェリーで高松・直島などへと行ける。

 道は舗装された自動車道だが、すっかり山道になった。車が少ないのは助かる。道はぐにゃぐにゃ曲がっているが、傾斜は緩やかで歩いて息が切れることはない。いろいろな鳥がさえずるのが聴こえる。「ホーーーホケキョキョ」と、字余りみたいにうぐいすが鳴いた。ほかにも数種類の鳴き声。その他はまったく静か。


まさに峠を越える手前の風景。そこが一番上。楽勝だった

 上り始めて15分。峠の頂上らしきところに着く。なんだ、楽勝だった。四角い石に馬頭観音が彫ってある。昔は道ももっともっと細くて凸凹で、峠越えは短くてもすごく大変だったのだと、その馬頭観音が伝えているような気がした。ここに着いた時はホッとしたのだろう。

 そこから道はゆっくり下り始めた。さらに数分歩くと山の向こうに家々が低く見えた。さて、見失った宇野線はどこに出てきたのだろう。樹々の間から町が見えるたびに探すが見つからない。なにしろ向こうはトンネルに入ってしまったのだし、こっちはグニャグニャ道を歩いてきたのだ。しばらく歩くと右手のずいぶん向こうの山沿いにそれらしき電線が見えた。「いた」と思いちょっと安心。

 どんどん下って、平地に出た。すっかり市街地。さて、線路探しだ。県道を外れ、住宅地を当てずっぽうに右手に歩いて行く。時々小さな用水路が水音を立てている。春の小川といった雰囲気。まさか通り過ぎてないよなあ、と思っていると、予想もしなかった高い場所にホームのようなものが見えた。近寄るとJR備前田井(たい)駅と書いてある。もう大丈夫だ。沿って歩いていると、線路の方が降りてきた。線路脇は遊歩道になり、歩きやすい。


山頂に巨岩がゴロゴロ。どうしてあんなふうになったのか

 町の向こうの低い山の上に、大きなまるっこい石がゴロゴロむき出しになった山が続いている。これはけっこう奇景と言えるのではないか。名所だろうか?

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