『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

小野田線 おのだせん

居能(山口県宇部市)から小野田(山陽小野田市)までの11.6㎞、9駅と、通称・本山線の支線2.3㎞、2駅。大正4年(1915)、石灰やセメント運搬のため小野田~小野田港(旧駅名セメント町)間で開業し、今年11月に100周年を迎える。今回は小野田から長門本山(山陽小野田市)まで歩いた。

 ここからは終点まで線路はほぼまっすぐ、道も並行して続いているから気が楽だ。古い住宅地の中のような道。地方に行くと、民家の屋根が少しずつ違うのが面白い。屋根瓦は黒が多く、尾のツンと尖ったシャチホコがついている家が多い。しかし日陰がないのが辛い。この日3本目のミネラルウォーターがすでにお湯だ。時々梅塩キャンディーも舐めてきた。熱中症には油断ならない。

 ゆるやかな坂を上ると海が見えた。下ると長門本山駅到着。14時40分。もちろん小さな無人駅。時刻表のスカスカっぷりに笑う。次の電車は18時37分。4時間もある。どうする。座って、冷たいものでも飲みたい。だが駅前にはなんにもない。誰もいない。

 でも、海に向かって右手に行くときららビーチというのがあり、左手に行くと本山岬公園というのがあるようだ。両方ともここから徒歩20分とある。ビーチに行ってビールでも飲んだらもう終了しそうなので、公園に向かう。売店か茶店でもあると思ったが公園には自販機すらなかった。

 浜に降りると、くぐり岩というのがあって干潮時はくぐれる。くぐったがなんということもなし。靴を脱いで海に足を浸すと、かなりぬるかった。でも岩陰の風は冷ややかで心地よく、砂に腰を下ろし、しばし波の音を聞く。だが他にすることもなく、駅経由でビーチに向かう。今回、終点から歩き過ぎ。でも時間はまだまだあるのだ。


くぐり岩。満潮になるとくぐれなくなる。
岩陰がスゴく心地よかった

 浜はとても整備されていて、たくさんの人が海に入っていた。そこにあったお洒落なカフェに入り、ビールを飲む。冷房が効いていて、天国。たっぷり休んだあと、夕暮れるビーチの芝生で、さらに30分寝転がる。


炎天下を歩き抜き、冷房の効いたカフェでビールのご褒美。
天国

 ようやく時間がきたので駅に戻る。ビーチ帰りの女の子が3人。列車が来るとさすがにたくさんの人が降りてきた。でも降りて、駅や列車の写真を撮ったら、またその電車に乗って帰るという男性客が、4人もいた。


長門本山駅発の最終電車がやってきた。
海水浴帰りの女の子3人が待っていた

※「旅の手帖」2015年10月号より掲載しました。

前のページへ
旅の手帖mini

散歩の達人MOOK

バックナンバー

このページのトップへ