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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

美濃赤坂線 みのあかさかせん

正式線名は東海道本線。通称・美濃赤坂線と呼ばれる。大垣駅から美濃赤坂駅(ともに岐阜県大垣市)までの5.0km、3駅。石灰石などの積み出しのため、大正8年(1919)に開通した。

 車道がつまらないので、路地に入って美濃赤坂線に近づく。静かな住宅街。2階の窓に干し柿がいっぱい吊るしてある家がある。


住宅地歩きで見かけた干し柿。
秋の日差しをいっぱいに受けている

 キャベツ畑越しに、線路が見えた。まだこの辺は美濃赤坂線と東海道本線が分岐していない。少し歩くと、列車の音がして、貨物列車がやってきた。「JRF」のマークがあるコンテナを長く連ねている。小さい頃、山梨の祖父の家の窓から、中央本線の貨物列車の数を数えたのを、いくつになっても思い出す。更地の分譲地越しに、オレンジラインの入った列車が見えた。長いから東海道本線だろう。美濃赤坂線はたぶん1両か2両だ。

 歩き始めて1時間ちょっとで、ようやく美濃赤坂線と思われる線路とぶつかる。東海道本線からカーブして北にまっすぐ延びている。大きな小学校があった。大垣市立宇留生小学校。うるせえ小学校、と読んでニヤケル。戻って今調べたらうるう小学校だった。大きな小学校で、校庭に立派な屋根のある土俵があって驚く。校庭の桜が紅葉している。桜の紅葉、大好きなのでうれしい。

 小学校に並んで、美濃赤坂線唯一の途中駅である荒尾駅があった。もちろん無人駅。せっかくなのでホームに上がる。小さなカワイイ待ち合い室を持つ木造駅舎がある。


唯一の途中駅、荒尾のホームに出たら、
音もなく貨物列車が現れた

 写真を撮っていたら、いきなり大垣方面から貨物列車がやってきた。なんのアナウンスもなかったのでちょっと驚いた。石灰石専用と書かれたレンガ色の貨車を長々と連ねている電気機関車。ホームから見送る。列車が去ると、畑で焚き火をしている人が見えた。煙が線路にたなびいている。秋の匂いがした。柿の木に実がいっぱいなっている。

 踏切があったので渡ってみる。線路は一直線に北に向かっていた。思わず消失点に向かって線路を歩きたいと思ったが、無理な話だ。あたりは新興住宅地になった。小さな公園の紅葉が青空に映え、目にしみるようだ。田んぼも少し残っている。昔はこのあたりはきっと全部水田だったのではないか。

 安楽寺という寺がある。普段は寺にも神社にも立ち寄らないが、今日はもうすぐ終点の美濃赤坂に着いてしまうような気がして、寄り道してその階段を上ってみる。境内には誰もいない。でも本堂は立派で、鐘楼などもあった。


安楽寺と美濃赤坂線踏切。
この石段の上から大垣の町が一望できた

 思い切り「ゴーン」と撞きたい衝動に駆られる。「ゴーンゴーンゴーン!」と鳴らしまくったら、坊さんたちが血相を変えて飛び出してくるだろうか。撞きたい! と思う自分は幼稚な大人だ。大きなしだれ桜が植わっているが、もうあらかたの葉は落ちていた。

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