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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

三角線 みすみせん

宇土駅(熊本県宇土市)から三角駅(宇城市)までの25.6㎞、9駅。明治32年(1899)に開通し、特別輸出港であった三角港からは福岡や長崎、天草、島原への汽船と接続していた。現在はジャズが流れバーカウンターがある特急「A列車で行こう」が人気だ。


このイカ天はのしイカを揚げたもの。
駄菓子感覚でおいしい

 また歩き出し、午後1時、網田海岸で干潟を見ることができた。水平線がエメラルドグリーンに変わった。美しい。
 また少し行くと、カフェと土産物屋が合体した施設が海沿いにあり、そこに大きく「イカ天うどん実演販売」とあったので、お昼を食べることにする。うどん屋はカフェの隣の簡素な建屋で、表で注文したら、素っ気ないバイトの休憩所みたいな部屋で食べるのだった。ここのイカ天は、のしイカを揚げたものだった。ワカメとカマボコが入っていて、麺はかなり細い。でも一味をふって食べると、駄菓子っぽいおいしさで、一心不乱に食べきった。車で来た年配客が多かった。

 さらに海沿いの道を歩いて行くと、赤瀬というバス停があった。赤瀬駅からまた列車に乗り、トンネルで山越えしてまた歩く計画だ。そろそろ駅か。歩いて行くとジャリの海岸があり、さらに行くとジャリが大粒になって石の海岸になった。その石が確かに赤っぽい褐色。だから赤瀬なのだろうか。しかし歩けども全然駅がない。それどころか線路もいつの間にか消えて、道の向こうはすぐ山だ。

 いつの間に通り過ぎたのか? と思って戻っていくと、バス停の近くに「赤瀬駅→」という小さな看板があった。これは見落とす。しかも指された道は軽自動車しか上れないようなコンクリートの細い坂道。とても駅があるとは思えない。最初は道脇に民家もあったが、上るうち何もない山道になり、二股に分かれたりしているのに、何の表示もない。どんどん上る。汗ばんできた。海が見えたが、駅はない。キツネにつままれた気持ち。しかたなしにiPhoneのGPSを見る。驚いたことに、駅の示された場所は、道の脇のやぶの中だ。「どういうこと?」声に出した。しかもここはかなり高所だ。どこかで地下駅に下りる階段でもあったのか?


相当古そうな赤瀬トンネル。
ボクの先生は故・赤瀬川原平さん

 あたりを見回しながら歩くと、まっすぐな細道の100mほど奥に白い軽のワンボックスカーが停まってる。iPhoneの示す駅の場所とはずれているが、近づいてみると「赤瀬駅→ホーム」と書いてある。しかもその字が退色して消えかかっている。矢印のほうを見ると、あった。道がダイレクトにホームに繋がっている。こんな場所、ありえない。もちろん無人駅。右手を見るとレンガ造りの廃墟のごとき古いトンネル。横に「赤瀬」と書いてある。なんじゃこの駅は。細いホームを歩く。

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