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駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

えびめし エビの風味豊かな郷土の味を駅弁に 出水駅・鹿児島中央駅・川内駅

 八代海南部の沿岸では、風力で底引き網を引いてエビを獲る「ケタ打瀬(うたせ)漁」が行われている。300年以上の歴史をもつ伝統漁法で、帆船が海に浮かぶ様子は、八代海の冬の風物詩として有名だ。鹿児島県の家庭では、獲れたエビを正月の雑煮に入れたというが、そのエビをイメージしてつくった駅弁が「えびめし」である。

 トンネル型の容器に仕切りを設けて、ご飯とおかずを区別した。ご飯は、刻みエビをたっぷり混ぜた炊き込み飯で、その上にむき身のエビがのる。おかずは鶏の揚げ煮、じゃがいもの衣で包んだ和風エビフライ、だし巻き卵、さつま揚げ、そして煮物と郷土色豊か。エビの旨みが濃厚な炊き込み飯と、薄味仕立てのおかずとのバランスのよさが抜群で、文句なしにおいしい。「九州の駅弁ランキング」で堂々の2位入賞という好成績の実績もあり、毎年トップ10に入るという納得の仕上がりだ。

 まずは煮物を肴に日本酒をちびり。ほろ酔い加減になったら、えびめしをかき込む。これぞ駅弁通の食し方といえそうだ。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

ほかにもあるエビのおいしい駅弁 日本全国駅弁の旅
  • 価格:900円
  • 種類:炊き込み
  • 調製元:松栄軒
  • 電話:0996-62-0617

桜海老とじゃこの海物語 青実山椒入りのじゃこと茶飯の相性が抜群 小田原駅

 サザンオールスターズのヒット曲をもじったようなネーミングに、思わずニヤリ。その名のとおり、桜海老とじゃこが主役の駅弁だ。

 醤油で味付けしたご飯の上には、桜海老の炒め物、野菜と桜海老のかき揚げ、青実山椒入りのじゃこのほか、梅干、くるみ、大根塩漬などの付け合わせが隙間なく詰められている。バリエーションに富んだ内容だが、じゃこの完成度がことのほか素晴らしい。茶飯との相性を考慮した薄味仕立てで、ときおり口に入ってくる青実山椒の爽やかな刺激がほどよいアクセントになって食べ飽きることがない。ぱりっとキレのよい食感を残す桜海老の炒め物は、海老ならではの甘みを感じさせてとてもうまい。持ち帰って家で食べる場合は、残り半分になったところでお茶漬けにするのがお勧め。桜海老やじゃこのひと味違った豊かな風味を楽しめる。

 調製元は、1888(明治21)年に東海道本線で初めての弁当販売を国府津駅構内で行ったといわれる東華軒。老舗ならではの熟練の味わいを堪能できる駅弁だ。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

小田原名物といえばコレも!  激ウマB級グルメ旅
  • 価格:880円
  • 種類:揚げ物系
  • 調製元:(株)東華軒
  • 電話:0465-47-1186

磯の漁火 海の幸満載。酒量も上がるおつまみ駅弁 直江津駅

 駅弁のおかずを肴にビールや地酒を楽しみたい。「磯の漁火」は、そうした左党に至福のひとときをもたらす駅弁だ。

 漆黒に塗られた二段重ねの容器に掛け紙を巻き、ヒモで縛っている。上段にはスルメ一夜干し、殻付きのサザエ煮、カニ身入りモズク、ニシンの甘露煮、エビ塩焼きなど、磯の香りを漂わすおかずがずらりと並ぶ。居酒屋の黒板に描かれた「本日のオススメ」を思わせるラインナップに、左党ならつい頬が緩んでしまうだろう。多彩なおかずの中で存在感を見せるサザエは、やや甘めに仕上げられており、噛むほどに内側から旨みがしみ出す。スルメやエビは塩加減が絶妙で、酒を呑むピッチもどんどん早まってしまう。

 下段には、のりでぐるりと包んだサケと梅干のおにぎりのほか、カズノコのワサビ漬けと漬物が詰められている。新潟産コシヒカリを使ったおにぎりは、おかずなしでもおいしくいただけるので、すっかりでき上がった後の締めに最適。味覚は上々、しかも満腹感まで味わえる極上の駅弁である。

ますのすし その名を全国にとどろかす富山名産の押し寿司 富山駅

 富山名産の押し寿司が駅弁「ますのすし」として発売されたのは明治45(1912)年。以来、1世紀もの長きにわたって不動の人気を維持してきた。全国の駅弁ファンが認める富山駅弁の“顔”である。

 昔ながらの風情を感じさせる木製のわっぱ容器を厚紙のパッケージに収める。パッケージに描かれたマスのイラストは、洋画家の中川一政によるもの。中身は、県産コシヒカリを使った酢飯の上にサクラマスの切り身を敷き詰め、笹の葉でくるんだ押し寿司。大きな熊笹を開くたびに、香ばしい酢の匂いが鼻腔に届く。桜色のマスと白いご飯、笹の葉の緑という色彩のコントラストも見事だ。

 付属のナイフを手に取り、笹の葉のセンターラインを目安に刻むと、食べやすい6~8分の1サイズに切り分けられる。マスの切り身は、旨みを最大限に引き出すように調製しながら酢洗いしたもので、絶妙な酢加減はまさに職人技。粒が小さく弾力の強い県産米との相性も素晴らしい。その昔、八代将軍徳川吉宗が絶賛したというのも納得の味わいだ。

※掲載されているデータは平成23年4月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

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