トレたび JRグループ協力

2020.10.26旅行ジパング倶楽部「今月の一句」

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。最終回。

  • 写真はイメージです。

選者


黒田杏子画像

黒田杏子(くろだももこ)
俳人。「藍生俳句会」主宰。東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。2020年「現代俳句大賞」受賞者。

入選作品発表

10月のお題:新米


新米のイメージ画像

 <新米>という文字を見て、またはその言葉を耳にして、心のときめかない人は居られません。投句もとても多く、色々な作品に出合いました。句作のベテランと思われる方から、まったくのビギナーの方まで、全員の方々が生活の実感に基づいた生き生きと明るく愉しい句を寄せられました。入選句を絞るのに苦労いたしました。長い間のご投句ありがとうございました。こののちのみなさまのご健吟をお祈り申上げてお別れと致します。

特選

新米と言ふよろこびの光研ぐ  兵庫県 杉島和子(79歳)

この句のよろしさは最後に置かれた「光研ぐ」。ここにあります。「新米と言ふよろこび」。ここまでの表現はすでに何人もの俳人に言い尽くされています。光というものを自分はいま研ぎ上げているのだ、という感動のこころが読み手のこころにすっと伝わってきます。感じたことを率直に素直に詠み上げられて秀吟となっています。おめでとうございます。

秀句

一人炊きひとり味はふ今年米  兵庫県 山本綾子(83歳)

一人暮らしの作者。この句にはその淋しさはありません。ゆっくり、じっくりと今年の新米をたのしむ。その充足感がこの句を豊かなものにしています。炊いて、そして静かにたっぷりと味わう。83歳の女性のすこやかな日常、そこに新米というよろこびの季節がめぐってきた。簡素な表現の中に作者の想いが過不足なく表現されています。

新米の煮え立つ釜の甘き香よ  兵庫県 大字路子(74歳)

この句のよろしさは、じつに具体的に述べられていることです。「煮え立つ釜の甘き香よ」。火が止まって、(電気のスイッチが下りて)ふつくらと新米が炊きあがる。そこまでの経過がほがらかに書きとめられていて、たのしくなります。「甘き香よ」と止めたところもみごとで、感心いたしました。

新米の炊き上がりたり電子音  静岡県 相田悠紀子(79歳)

電気炊飯器の普及で、この電子音は今や日本中の家庭で多く耳にされているもの。勿論、昔ながらに「かまど」で炊いておられるお宅もあるのですが。この電子音は新米だからこそのよろこびを表現していて効果的です。つまり、新米と電子音が響き合っている訳ですね。一年中耳にされておられる電子音が、ここで生きた訳です。

新米や亡き旧友の子息より  茨城県 衛藤基邦(76歳)

ありがたいことですね。お友達は亡くなられたのに、その方のご子息から贈られてきた今年米。感動ですよね。新米が人と人との絆を強める。そのことがこの句によってはっきりと示されています。「亡き旧友の子息より」と明記されて作者の心がぽっと灯ったのでしょう。こころに残る句となっています。

駅弁の新米旨し只見線  岐阜県 辻 雅宏(72歳)

駅弁は旅のたのしみです。旅をされる方々はどこの駅弁がおいしいのかを知っておられると思います。辻さんのこの句は只見線で手にされた駅弁、その新米がとてもおいしかったということ。岐阜県に住む方が福島県~新潟県にまたがる只見線に乗られた。只見線の三文字が旅情を誘い、その新米弁当のおいしさが伝わってきます。


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9月のお題:夜長


夜長のイメージ画像

 「夜長」という題を与えられますと、一句詠んでみたい、あの体験を句にしたい、と思われる方が多数おられることがよく分かりました。それぞれの作品には個性がありました。のびやかに詠まれた句がとても多かったのは嬉しいことでした。特選者は85歳。一位・二位・三位は60代。四位と五位は80代。つまり、各世代の方々が積極的に句作に挑戦されたのです。頼もしいことでした。日本人は「夜長」「長き夜」という季語が好きなのだと思いました。

特選

老眼で村上春樹を読む夜長  愛知県 森 健次(85歳)

村上春樹の人気は圧倒的です。85歳の森さんが夢中になられる。驚くことではありません。しかしこの句の味わいは、上五の「老眼で」。ここにあります。長き夜に好きな作家の作品をこころゆくまで堪能する。すばらしい時間。そのことを実行できるよろこび、満足感と愉悦感が伝わってくる秀吟です。

秀句

大作の洋画楽しむ夜長かな  千葉県 保田隆夫(68歳)

テレビで映画を楽しまれているのですね。この句のキメ手は、「大作の」と「洋画」です。この句の読み手もその画面と作者の満足感に引き込まれ、同調してゆきます。テレビで映画を堪能できるよい時代。表現に無理がなく、とても豊かな気分にさせていただける一句。夜長という季語もごく自然に効果を上げています。

寝床抜け出し書き始む夜長かな  神奈川県 天晴鈍ぞ孤(67歳)

「あっ、あのことを書いておかないと……」と作者は思ったのです。いったん横になってから、思い付くこと、考えが及ぶことはよくあります。手紙でも日記でも俳句でも小説でも、それは何でもよいのです。「書き始む」とありますから、俳句などではなく、もう少し長いものに取りかかられたのでしょう。ガバと起き出した作者の姿が目に浮かびます。

ギター手に小さく歌ふ夜長かな  兵庫県 青木朋子(67歳)

この句、何と言っても中七の「小さく歌ふ」、ここがいいのです。大声で歌ってもいいのですが、ギターを弾きながら、小声で歌ってゆく。それは夜長のある晩。さりげなく書かれていますが、自画像が過不足なく書かれていて、作者の心持ちと姿がありありと見えてくるところ、すてきな作品であると思いました。

ルージュ無き夜長に写る顔の色  神奈川県 若村京子(80歳)

メークをきれいに落とした自身の顔に鏡の中で対面する。とりわけ口紅を落とした自分の顔をじっと見る。「夜長に写る顔の色」。ここの表現がじつに巧いと思いました。映像的な俳句となっています。短編小説の書き出しのようでもあって、独特の味わいがかもし出されています。俳句という一行の詩のドラマ。

長き夜や海の匂ひの草の庵  香川県 藤川澄子(85歳)

ご自宅のことなのではないでしょうか。それとも旅先で訪ねた庵でしょうか。いずれにしても海の匂いのする、それも草木の香たっぷりの庵。作者の藤川さんはそんなすてきな場所におられる。もちろん、過去の思い出を詠まれていてもよろしいのです。長き夜・夜長の季語によって引き出された空間。このような句も魅力があると思い秀句としました。

8月のお題:西瓜


西瓜のイメージ画像

【総評】
 ともかく、これまででもっとも数多くの句が寄せられました。「西瓜」ときいて、どなたも心が弾むのですね。詠んでみよう。投句しようと想われたことがよく分かりました。作品にはバラエティがありました。いろいろな角度から西瓜体験が詠みあげられていて愉しく選句作業を進めることができました。たった一行十七音字。世界最短の詩型といわれる俳句。その極小の宇宙に一人一人の人生が立ち上ってくる。感動をあらたにいたしました。

特選

西瓜食ふさびしき月ぞ八月は  神奈川県 大井みるく(74歳)

こう言われて、共感いたします。八月という月は確かにさびしいです。広島忌があり、長崎忌があり、終戦記念日があり、旧のお盆があります。太陽は輝き、西瓜は甘くおいしい。紅くはなやかな西瓜をいただきながら、「さびしき月ぞ八月は」。とつぶやかれる作者の詩人のたましいに手を合わせたくなります。

秀句

ワンダーフォーゲル一人は西瓜背負ひたり  東京都 さとうけい子(77歳)

若き日のたのしく忘れられない記憶。いわゆるワンゲルの仲間と出かけてゆく。とりわけ元気で屈強なメンバーの一人が大きな西瓜を背負って歩を進める。77歳のさとうけい子さんのまなうらに浮かぶその光景。読み手の心にスッと入ってくる一行。弾ける若さ。青春の日の大切な思い出。歳月が経つほどになつかしいその情景。

誉められた穫れた西瓜の五十一  岐阜県 太田ゆり(67歳)

この句もまたすばらしい。51個もの大収穫。みなさんびっくり、大拍手。西瓜の句として新鮮かつユニーク。誰にでも詠める句ではありません。20とか30ではありません。51という数字。今回の投句作品の中で異彩を放っていましたね。67歳の作者太田さん、おそらくご主人とお二人でのご努力の末のことでしょうね。おめでとうございます。

一切れの西瓜貰ひてはにかむ子  埼玉県 古川恵津子(66歳)

そのお子さんの様子がとてもよくとらえられています。「一切れの西瓜」。それを貰って、嬉しいのだけれど、はにかんでいる。とてもよく観察されました。このような句を眼と心の効いた句と言います。単なる描写の句、写生の句ではない。簡単なようで、それはなかなか出来ないのです。「一切れの」という上五もとても大切です。

戦没のルソンの父へ西瓜割る  埼玉県 樋口乾三(85歳)

父上はルソン島で命を落とされたのです。「ルソンの父へ」。ここの表現がみごとです。お供えのために、心をこめていま西瓜を割られる。85歳の樋口さん。こどもの時からずっと、「戦没のルソンの父」という言葉、父上への想いを抱いて生きてこられた。この俳句の一字一句に父上への想いがこめられていて、合掌いたします。

大西瓜ぎっちょの父が刃を入るる  熊本県 西川順子(79歳)

とてもリアルな句。ぎっちょの父上への想いが溢れています。「大西瓜」という上五も巧いですね。父上の様子。それを見つめる家族のまなざし。消えることのないその情景の記憶。娘である順子さんが今年この句を詠み上げられた。天国の父上はにこやかにほほえんでおられます。私にはそのように感じられた作品でした。愛情溢るゝ一行。

7月のお題:昼寝


昼寝のイメージ画像

【総評】
 <昼寝>。誰でも詠めそうな題です。今月も数多くの作品が寄せられましたが、例月に比べて、作品のレベルは全体としてやや低調でした。詠みやすいということで、意欲作、実験作がなかったということなのかもしれません。しかし特選句からはじまる入選5句はそれぞれにおもしろいものでした。肩に力の入ったような句はなかったのですが、素直で素朴で飾らない句が揃いました。イヤ味な句はまったくありませんでした。次回もご健吟ください。

特選

昼寝して風一人じめ一人住む  奈良県 水尾澄子(74歳)

一人暮らしの方の快適な気分が出ています。「風一人じめ一人住む」。このまったく無理のない表現が読み手にも伝わってきて、昼寝の後の身心のここちよさに共感してゆくのです。風通しのよい住まいの夏の暮らし。それはとても恵まれた環境を手にされている人のもの。奈良という地名も、若き日、「大和古寺巡礼」を重ねた私には羨ましく思われます。

秀句

歯磨きの頬に畳目昼寝ざめ  兵庫県 瀬々英雄(72歳)

とてもリアルな描写。「頬に畳目昼寝ざめ」。それも昼寝よりさめて、歯を磨く。その鏡に映ったご自分の顔を眺めて。という事です。素朴で正直なレポートがプラスに出ています。「昼寝ざめ」と「頬に畳目」、この組合せは珍しいものではありませんが、この句の楽しさは、上五の「歯磨きの」。ここにあります。作者の表情が見えてきます。

疎開の子昼寝のあとに芋喰らふ  埼玉県 杉﨑美津子(78歳)

疎開という言葉。作者は78歳。ご自身の体験、記憶なのでしょうか。現在81歳の私は兄や妹も東京から栃木県への疎開体験者です。ともかく戦時疎開の家族はみな食べ物で苦労しました。食料不足でした。昼寝からさめて芋がふかしてある。とても羨ましい、幸運なこどもですね。ともかく、ぐっすりと昼寝をされたあとの芋の味。幸せそのものです。

食事して昼寝楽しき老の日々  千葉県 佐竹 明(79歳)

「老の日々」と書かれていますが、作者ご自身のことであれば、79歳というのはお若い方の老人ですね。ここ10年ほどの間に日本人の平均寿命が延びてしまったのです。現在では90代に入った人々に老人という感じが広がってきています。作者はすこやかに70代の最後の日々を楽しんでおられます。ゆとりを持って、老の日々と。すばらしいですよ。

昼寝より覚めればすでに誰もいず  千葉県 菅野えり子(68歳)

さりげない句ですが、とてもよく分かる句。しばらく別世界に行っていた、という昼寝の感じが素直に出ています。エッ、みんなどこに行ったの。という感じ。昼寝という時間は一つの旅のようなもの。旅より戻ってみれば、誰も居なくなっていて……。今回の入選句のなかで、「昼寝」という季語をもっともよく詠み上げられたとも言える作品でした。

猫が過ぎカーテンゆれる昼寝覚  福岡県 森永ちづる(66歳)

このように無理なく一行がまとめられるということ。とてもすばらしいです。猫を詠む句は近年とても増えています。作者も愛猫と暮らしておられるのでしょう。それにしてもこの句、じつに無欲な句で、そこが魅力です。昼寝より覚めて、少しボンヤリしたままの視界をとらえた一行。「猫が過ぎカーテン揺れる」。事実を素直に書きとめられて成功です。

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