トレたび JRグループ協力

2020.06.25旅行ジパング倶楽部「今月の一句」

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。毎月下旬更新。

  • 写真はイメージです。

選者


黒田杏子画像

黒田杏子(くろだももこ)
俳人。「藍生俳句会」主宰。東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。2020年「現代俳句大賞」受賞者。

今月の一句 応募要項

「今月の一句」では、お題に沿った俳句作品をお一人様3句まで(お題ひとつにつき1回限り)ご応募ください。特選に選ばれた作品、氏名、住所(都道府県名)は、会員誌『ジパング倶楽部』にも掲載いたします。採用者には、QUO(クオ)カード(1000円分)を進呈します。
9月のお題/夜長(7月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効)
10月のお題/新米(8月10日締切。ハガキの場合は当日消印有効) ※最終回

 


応募はこちら

入選作品発表

6月のお題:短夜


短夜のイメージ画像

【総評】
「短夜」という出題に対し、どのような作品が寄せられるか。興味津々でした。特選一句と入選五句。それぞれに新鮮でおもしろく存在感のある句が揃いました。投稿される方は旅行がお好きで、ともかく旅人としての経験豊富な方が大多数という印象がありました。改めて申し上げるまでもありません。俳句はHAIKUとして今や世界共通語です。みなさまのご健吟を期待しております。

特選

短夜や波音絶えぬ旅の宿  奈良県 泉 秀一(69歳)

海辺の宿に泊まられたのですね。その波音は騒音ではなく、旅人にとってはここちよいもので、旅情を深めてくれるものであったと想われます。「短夜」という季語の使い方もよろしかったと思います。たとえばこれが「長き夜や」であった場合を想いますと、この句の味わいの深さが了解されると思います。とてもよくまとまっている作品です。

秀句

短夜や温泉街の下駄の音  長野県 松本宏要(75歳)

たのしい句です。湯の町をゆき交う下駄の音。短夜の季節。いきいきとしたその街の様子が伝わってきて、読み手の心も弾んできます。日常の生活では下駄という履物がほとんど使われなくなっています。年齢にかかわりなく、スニーカーなども愛されています。この句もやはり、短夜の季節であることがポイントとなっています。

短夜やヘッドランプで化粧する  静岡県 矢野悦子(72歳)

ユニークな句ですね。作者のいきいきと、かつきびきびとした風姿が浮かび上がってきます。ヘッドランプを付けてメイクする。どなたでもなさることではありませんが、私はこの72歳の女性矢野さんのヴァイタリティに共感しました。おそらくそのメイクもめりはりのある個性的なものなのだと想像できて愉しくなります。

短夜の苦吟の果ての一句かな  静岡県 矢部輝夫(77歳)

苦吟する。その苦吟の果てに恵まれた一句。作者にとって忘れられないその作品。この句の場合も「短夜の」という上五句の季語がよく働いています。いろいろと、あれこれと詠んでみて、納得がゆかない。ついにこれでよし。という一行を得てホッとされた。作者は句歴の長い方なのではないでしょうか。巧い句だと思います。

短夜の馴れしラジオに夢預け  熊本県 中村 好(72歳)

「馴れしラジオ」、ここがいいですね。いつも聞き馴れているラジオの番組。うとうとしたり、ハッと目覚めたり……。ともかく、リスナーとしてそのラジオ番組はおなじみのもの。たとえばNHKの「ラジオ深夜便」とかですね。「短夜の」という上五句と「夢預け」という下五句がうまく対応しています。共感を呼ぶ一行となっています。

短夜やコーランの声空に舞う  東京都 久保田佐和子(77歳)

イスラム圏に旅された折の体験を句にされたのだと思います。もちろん、日本国内にもイスラム寺院はありますが、「コーランの声空に舞う」。この言葉の発するイメージは旅先での体験をもとにされたものだと受けとりました。ともかく季語の現場で詠まれた句には存在感があります。一語一語に気が入るからです。印象に残る作品でした。

5月のお題:五月


五月のイメージ画像

【総評】

ともかく、読後感のよろしい作品が揃いました。俳句を読んで、心身がすっきりする。ここちよい気分に包まれる。幸せな事ですね。生老病死・森羅万象を詠み、表現することのできる俳句はたった一行十七音字。世界最短の詩型であることは今やこの地球上の心あるすべての人々に認められています。俳句(HAIKU)は日本の国民文芸。私達日本人の共有財産です。句作のよろこび。そして選句のよろこび。「五月」の題もよかったですね。

特選

素足もて五月の土を踏んでみる  福岡県 紙田幻草(78歳)

作者は健康に恵まれています。78歳はまだまだお若いですが、素足になって五月の土をじかに踏んでみようという気分になれる方なのですから、すこやかで若々しい心の持ち主でいらっしゃる。この一行、五・七・五のありきたりな表現方法にのっとっておられません。しかしこの句の語調は作者のよろこびを読み手に過不足なく伝えてくれるものです。

秀句

耕運機五月の田んぼかえるとぶ  福井県 榎木紗代子(77歳)

この句の生命感はすばらしい。その耕運機に乗っておられるのが作者であっても、別人であってもよいのです。耕運機によって田んぼの土が耕されてゆく。土の中に眠っていた蛙がびっくりしてとび起き、田んぼの表面にとび出した。ともかく、この句の臨場感はすばらしい。鮮度たっぷりの一行です。

五月晴急流青き最上川   山形県 相馬孝子(82歳)

最上川は山形県の大河。松尾芭蕉も舟に乗って下りました。何とも気分のよろしいこの句、お国自慢とも読みとれますが、雲ひとつない五月晴の日に「急流青き」川を下っている作者の満足感、充足感が読み手によく伝わってきてここちよいですね。過ぎし日の体験を一行にされたものであってもよろしいのです。「五月」の題が生きています。

五月晴傘寿二人の昼餉かな  東京都 佐藤通子(81歳)

この句の幸福感を買います。揃ってすこやかに傘寿を迎えることが叶った。そしていま二人揃って昼ごはんを頂いています。ささやかなことに幸福感をたっぷり感じられること。それに勝るよろこびはないのです。もちろん、人それぞれ、嬉しいこと、愉しいことはさまざま。その日がまぶしいほどの五月晴であったこと。その事もよかったと思います。

古里に暮らすと決めし五月かな  千葉県 田原秀子(70歳)

「古里」は「ふるさと」と書いたほうがよろしいかと思いますが、70歳を迎えて、故郷に帰ることとされた。帰るふるさとがおありだったことは幸せです。旧友はもちろん、親せきの方々、ご縁のある方々もたくさんその地にはおられる。60歳還暦でなく、80歳傘寿でもない。70歳という節目のよろしさ。その重大事を五月に決められた。じつに嬉しい決断でしたね。

開け放ち五月の風を通しけり  埼玉県 橋本隆子(76歳)

何だ。こんな句なら誰だって詠める。とお思いの方に申上げます。俳句は省略の文芸。言わずに言う事が叶えば最高。まずこの句から作者のお住まいが見えてきます。近年、思う存分住まいを開け放つことができる暮らしに恵まれている方は都会では少ないのです。風を通せる、つまり、一戸建てのお住まいでしょう。五月の風はまさに幸せの使者なのです。

4月のお題:蝶


蝶の画像

【総評】

「蝶」という題に対して、どなたも立ちどころに、何か詠んでみよう、と思われるでしょう。果たしてバラエティ豊かな作品が集まりました。入選句を絞るのにちょっと苦労いたしました。どの句もそれぞれに味わいがあり、臨場感があったからです。秀句の中から秀吟を選ぶ。これもまたおもしろいことでした。手慣れた句、ありきたりな句がほとんどないということが、この欄へのご投句の特長。じつに楽しく選をすすめ、選評を記すことが出来ました。

特選

すれ違う蝶にも挨拶初出勤  香川県 玉井一郎(87歳)

「初出勤」。その時の作者の気持ちの高ぶりがとてもよく出ています。「すれ違う蝶にも挨拶」。これはなかなか言えません。緊張そして期待。こころの底にはよろこびという嬉しさが。作者の若き日の回想句でしょうか。それともお子様やお孫さんの身になって詠まれた句でしょうか。いずれにしてもとても読後のこころが豊かになる作品。秀吟です。

秀句

一人旅大紫の里に下車  埼玉県 小泉保夫(83歳)

大紫は日本の国蝶。旧仮名表記ですと、「おほむらさき」となります。私の第一句集『木の椅子』に、<磨崖佛おほむらさきを放ちけり>がありまして、教科書などにもよく取り上げられています。この句は佐渡に行き、小木(おぎ)港近くの宿根木(しゅくねぎ)というところにある海蝕洞穴の前で作りました。大紫の里は各地にあります。じつに美しい蝶です。

舞う蝶につられて歩く通院路   新潟県 野原豊子(83歳)

この句、下五の「通院路」が効いています。いつも行く路なのですが、思いがけずそこに蝶が舞っていた。こころが弾んで、常になくその路をいそいそとゆかれたのです。作者のほほえみが眼に浮かびます。こんなささやかな経験。ひらひらと舞う蝶の姿を眼にされて、ただちに一句を詠まれた作者に拍手を送ります。

菜の花を離れ黄蝶となりにけり  三重県 伊藤 元(89歳)

誰でも作れる句ではありません。菜の花の鮮やかな黄色。その花のあたりにいた蝶がパッと青空の下に舞い出でた。作者はその瞬間に、この一句を得られたのでしょう。蝶はもともと黄色の姿であったはずですが、このように詠み上げられますと、その黄蝶の姿が改めてまぶしく鮮やかに読み手の眼とこころに飛び込んできます。

この次は蝶に生まれて逢いにゆく  大阪府 内本惠美子(69歳)

恋の句と受け取ってもいいですね。その人の許(もと)へ、次の世で私は蝶となって、あなたさまをお訪ねしますよ。と言っておられます。転生という言葉があります。今は自分は人間としてこの世に生きております。しかし、次には……。人間ではなく別のいきものになって……という想い。「逢いにゆく」と止めたことで、この句にふくらみが出ました。

足場解く金属音や蝶の昼  静岡県 佐野明美(80歳)

「蝶の昼」という季語がとても巧く使われています。蝶々が舞うのは風もなくよく晴れた日の日中。そこに「足場解く金属音」という、とてもリアル、かつ現代的な場面を想わせる十二音を配しています。菜の花畑とか菜園ではない。そこがこの句のおもしろさであり、作者の意図は成功しています。現代の俳句作品という感じが出て新鮮でした。

3月のお題:卒業


教室の画像

【総評】

「卒業」という題がいろいろな角度から、バラエティ豊かに詠み上げられていました。それぞれに味わい深く、限られた句数しか取り上げられなかったことが残念でした。もともとは、「学校を卒業する」という意味の季語でしたが、今回のご投句を拝見して、人生の中の「卒業」という体験もいろいろと詠み上げられていて興味深いことでした。作者の心、想い、表現したいところが明確に伝わってくる作品をいただいて、愉しいことでした。

特選

二両目三番ドアの女学生卒業す  大阪府 西村明夫(78歳)

「卒業」という題を得て、このようにみずみずしい句を詠み上げられた78歳の男性作者に拍手を贈ります。若き日、その電車に毎朝その女子学生が乗っていたのです。若き日の作者はその人に逢うことがとても嬉しかった。生き甲斐だったのです。その思い出をこの一行にまとめられてよかったですね。俳句は心の玉手箱。この句に出合えて幸せです。

秀句

校庭に仰ぐ立山卆業す  富山県 梅島邦夫

日本列島各地に山があります。その山を仰いで過ごした日々。忘れがたいものです。「立山」と聞けばその山容が眼に浮かびます。校庭に立てば、名峰・立山が眼の前に。この一行はリズムもよく、読み手の心に一句の景がありありと見えてきます。まさに立山という固有名詞の恵み。

卒業の朝や娘の置手紙   山梨県 伊藤政雄(79歳)

置手紙の内容は分かりません。そこもまたこの句の良さなのです。ご両親への感謝の言葉が綴られているのかもしれませんが、卒業ののちのあり方の決意がしたためられているのかもしれません。置手紙であって、手渡されたものではない。そこに読者は興味と関心をそそられるのです。

喜寿すぎて髙尾のガイド卒業す  東京都 久保田英夫(80歳)

長らく務めてこられた髙尾山のガイド。その仕事を喜寿77歳も過ぎたので辞されたという句。「喜寿すぎて」と「卒業す」という言葉がよく響き合っています。現在は80歳傘寿(さんじゅ)でいらっしゃる。すこやかに日を重ねておられる方の句と受け取りました。「髙尾のガイド」という表現もこの句の存在感を高めています。

卒業の朝の廊下に光さす  香川県 鈴木惠美

さりげない句。しかし、「朝の廊下に光さす」。この表現はみごとで、この一行をとてもすがすがしいものにしています。幸福感のようなものも感じられて読後感がとてもよろしい。「朝の廊下」と「光さす」。この実体験がはっきり書かれたことで、この一句に臨場感が加わり、一句の存在感がぐんと増したのです。

廃校の島を離るる卒業生  岡山県 前田範子(78歳)

「廃校」という言葉は淋しいですね。その廃校の島を卒業生が出てゆくのです。ご自身の体験でも、他人のことでも、それはどちらでもよろしいのです。ともかく島の学校が廃校になった。その学校の卒業生が島を出てゆくのです。日本の各地に過疎の町や村があります。離島が無数にあるこの国の現実が詠まれているのだと思います。心に残る句でした。

ジパング倶楽部会員様ページ




原稿・作品の応募フォーム


トレたび公式SNS
  • twiiter
  • Fasebook