トレたび JRグループ協力

2020.08.25旅行ジパング倶楽部「今月の一句」

「ジパング倶楽部」会員様から投句いただいた作品を、選者の評とともに掲載します(敬称略)。10月まで毎月下旬更新。

  • 10月のお題で最終回(応募は締め切りました)。
  • 写真はイメージです。

選者


黒田杏子画像

黒田杏子(くろだももこ)
俳人。「藍生俳句会」主宰。東京女子大学入学と同時に山口青邨(せいそん)に入門。卒業後、定年まで博報堂で働く。『広告』編集長などを務め、瀬戸内寂聴をはじめ多くの文化人と親交を結ぶ。30歳から「日本列島桜花巡礼」を単独ですすめ、58歳で満行。「桜と巡礼」の俳人としても知られている。2020年「現代俳句大賞」受賞者。

入選作品発表

8月のお題:西瓜


西瓜のイメージ画像

【総評】
 ともかく、これまででもっとも数多くの句が寄せられました。「西瓜」ときいて、どなたも心が弾むのですね。詠んでみよう。投句しようと想われたことがよく分かりました。作品にはバラエティがありました。いろいろな角度から西瓜体験が詠みあげられていて愉しく選句作業を進めることができました。たった一行十七音字。世界最短の詩型といわれる俳句。その極小の宇宙に一人一人の人生が立ち上ってくる。感動をあらたにいたしました。

特選

西瓜食ふさびしき月ぞ八月は  神奈川県 大井みるく(74歳)

こう言われて、共感いたします。八月という月は確かにさびしいです。広島忌があり、長崎忌があり、終戦記念日があり、旧のお盆があります。太陽は輝き、西瓜は甘くおいしい。紅くはなやかな西瓜をいただきながら、「さびしき月ぞ八月は」。とつぶやかれる作者の詩人のたましいに手を合わせたくなります。

秀句

ワンダーフォーゲル一人は西瓜背負ひたり  東京都 さとうけい子(77歳)

若き日のたのしく忘れられない記憶。いわゆるワンゲルの仲間と出かけてゆく。とりわけ元気で屈強なメンバーの一人が大きな西瓜を背負って歩を進める。77歳のさとうけい子さんのまなうらに浮かぶその光景。読み手の心にスッと入ってくる一行。弾ける若さ。青春の日の大切な思い出。歳月が経つほどになつかしいその情景。

誉められた穫れた西瓜の五十一  岐阜県 太田ゆり(67歳)

この句もまたすばらしい。51個もの大収穫。みなさんびっくり、大拍手。西瓜の句として新鮮かつユニーク。誰にでも詠める句ではありません。20とか30ではありません。51という数字。今回の投句作品の中で異彩を放っていましたね。67歳の作者太田さん、おそらくご主人とお二人でのご努力の末のことでしょうね。おめでとうございます。

一切れの西瓜貰ひてはにかむ子  埼玉県 古川恵津子(66歳)

そのお子さんの様子がとてもよくとらえられています。「一切れの西瓜」。それを貰って、嬉しいのだけれど、はにかんでいる。とてもよく観察されました。このような句を眼と心の効いた句と言います。単なる描写の句、写生の句ではない。簡単なようで、それはなかなか出来ないのです。「一切れの」という上五もとても大切です。

戦没のルソンの父へ西瓜割る  埼玉県 樋口乾三(85歳)

父上はルソン島で命を落とされたのです。「ルソンの父へ」。ここの表現がみごとです。お供えのために、心をこめていま西瓜を割られる。85歳の樋口さん。こどもの時からずっと、「戦没のルソンの父」という言葉、父上への想いを抱いて生きてこられた。この俳句の一字一句に父上への想いがこめられていて、合掌いたします。

大西瓜ぎっちょの父が刃を入るる  熊本県 西川順子(79歳)

とてもリアルな句。ぎっちょの父上への想いが溢れています。「大西瓜」という上五も巧いですね。父上の様子。それを見つめる家族のまなざし。消えることのないその情景の記憶。娘である順子さんが今年この句を詠み上げられた。天国の父上はにこやかにほほえんでおられます。私にはそのように感じられた作品でした。愛情溢るゝ一行。

7月のお題:昼寝


昼寝のイメージ画像

【総評】
 <昼寝>。誰でも詠めそうな題です。今月も数多くの作品が寄せられましたが、例月に比べて、作品のレベルは全体としてやや低調でした。詠みやすいということで、意欲作、実験作がなかったということなのかもしれません。しかし特選句からはじまる入選5句はそれぞれにおもしろいものでした。肩に力の入ったような句はなかったのですが、素直で素朴で飾らない句が揃いました。イヤ味な句はまったくありませんでした。次回もご健吟ください。

特選

昼寝して風一人じめ一人住む  奈良県 水尾澄子(74歳)

一人暮らしの方の快適な気分が出ています。「風一人じめ一人住む」。このまったく無理のない表現が読み手にも伝わってきて、昼寝の後の身心のここちよさに共感してゆくのです。風通しのよい住まいの夏の暮らし。それはとても恵まれた環境を手にされている人のもの。奈良という地名も、若き日、「大和古寺巡礼」を重ねた私には羨ましく思われます。

秀句

歯磨きの頬に畳目昼寝ざめ  兵庫県 瀬々英雄(72歳)

とてもリアルな描写。「頬に畳目昼寝ざめ」。それも昼寝よりさめて、歯を磨く。その鏡に映ったご自分の顔を眺めて。という事です。素朴で正直なレポートがプラスに出ています。「昼寝ざめ」と「頬に畳目」、この組合せは珍しいものではありませんが、この句の楽しさは、上五の「歯磨きの」。ここにあります。作者の表情が見えてきます。

疎開の子昼寝のあとに芋喰らふ  埼玉県 杉﨑美津子(78歳)

疎開という言葉。作者は78歳。ご自身の体験、記憶なのでしょうか。現在81歳の私は兄や妹も東京から栃木県への疎開体験者です。ともかく戦時疎開の家族はみな食べ物で苦労しました。食料不足でした。昼寝からさめて芋がふかしてある。とても羨ましい、幸運なこどもですね。ともかく、ぐっすりと昼寝をされたあとの芋の味。幸せそのものです。

食事して昼寝楽しき老の日々  千葉県 佐竹 明(79歳)

「老の日々」と書かれていますが、作者ご自身のことであれば、79歳というのはお若い方の老人ですね。ここ10年ほどの間に日本人の平均寿命が延びてしまったのです。現在では90代に入った人々に老人という感じが広がってきています。作者はすこやかに70代の最後の日々を楽しんでおられます。ゆとりを持って、老の日々と。すばらしいですよ。

昼寝より覚めればすでに誰もいず  千葉県 菅野えり子(68歳)

さりげない句ですが、とてもよく分かる句。しばらく別世界に行っていた、という昼寝の感じが素直に出ています。エッ、みんなどこに行ったの。という感じ。昼寝という時間は一つの旅のようなもの。旅より戻ってみれば、誰も居なくなっていて……。今回の入選句のなかで、「昼寝」という季語をもっともよく詠み上げられたとも言える作品でした。

猫が過ぎカーテンゆれる昼寝覚  福岡県 森永ちづる(66歳)

このように無理なく一行がまとめられるということ。とてもすばらしいです。猫を詠む句は近年とても増えています。作者も愛猫と暮らしておられるのでしょう。それにしてもこの句、じつに無欲な句で、そこが魅力です。昼寝より覚めて、少しボンヤリしたままの視界をとらえた一行。「猫が過ぎカーテン揺れる」。事実を素直に書きとめられて成功です。

6月のお題:短夜


短夜のイメージ画像

【総評】

「短夜」という出題に対し、どのような作品が寄せられるか。興味津々でした。特選一句と入選五句。それぞれに新鮮でおもしろく存在感のある句が揃いました。投稿される方は旅行がお好きで、ともかく旅人としての経験豊富な方が大多数という印象がありました。改めて申し上げるまでもありません。俳句はHAIKUとして今や世界共通語です。みなさまのご健吟を期待しております。

特選

短夜や波音絶えぬ旅の宿  奈良県 泉 秀一(69歳)

海辺の宿に泊まられたのですね。その波音は騒音ではなく、旅人にとってはここちよいもので、旅情を深めてくれるものであったと想われます。「短夜」という季語の使い方もよろしかったと思います。たとえばこれが「長き夜や」であった場合を想いますと、この句の味わいの深さが了解されると思います。とてもよくまとまっている作品です。

秀句

短夜や温泉街の下駄の音  長野県 松本宏要(75歳)

たのしい句です。湯の町をゆき交う下駄の音。短夜の季節。いきいきとしたその街の様子が伝わってきて、読み手の心も弾んできます。日常の生活では下駄という履物がほとんど使われなくなっています。年齢にかかわりなく、スニーカーなども愛されています。この句もやはり、短夜の季節であることがポイントとなっています。

短夜やヘッドランプで化粧する  静岡県 矢野悦子(72歳)

ユニークな句ですね。作者のいきいきと、かつきびきびとした風姿が浮かび上がってきます。ヘッドランプを付けてメイクする。どなたでもなさることではありませんが、私はこの72歳の女性矢野さんのヴァイタリティに共感しました。おそらくそのメイクもめりはりのある個性的なものなのだと想像できて愉しくなります。

短夜の苦吟の果ての一句かな  静岡県 矢部輝夫(77歳)

苦吟する。その苦吟の果てに恵まれた一句。作者にとって忘れられないその作品。この句の場合も「短夜の」という上五句の季語がよく働いています。いろいろと、あれこれと詠んでみて、納得がゆかない。ついにこれでよし。という一行を得てホッとされた。作者は句歴の長い方なのではないでしょうか。巧い句だと思います。

短夜の馴れしラジオに夢預け  熊本県 中村 好(72歳)

「馴れしラジオ」、ここがいいですね。いつも聞き馴れているラジオの番組。うとうとしたり、ハッと目覚めたり……。ともかく、リスナーとしてそのラジオ番組はおなじみのもの。たとえばNHKの「ラジオ深夜便」とかですね。「短夜の」という上五句と「夢預け」という下五句がうまく対応しています。共感を呼ぶ一行となっています。

短夜やコーランの声空に舞う  東京都 久保田佐和子(77歳)

イスラム圏に旅された折の体験を句にされたのだと思います。もちろん、日本国内にもイスラム寺院はありますが、「コーランの声空に舞う」。この言葉の発するイメージは旅先での体験をもとにされたものだと受けとりました。ともかく季語の現場で詠まれた句には存在感があります。一語一語に気が入るからです。印象に残る作品でした。

5月のお題:五月


五月のイメージ画像

【総評】

ともかく、読後感のよろしい作品が揃いました。俳句を読んで、心身がすっきりする。ここちよい気分に包まれる。幸せな事ですね。生老病死・森羅万象を詠み、表現することのできる俳句はたった一行十七音字。世界最短の詩型であることは今やこの地球上の心あるすべての人々に認められています。俳句(HAIKU)は日本の国民文芸。私達日本人の共有財産です。句作のよろこび。そして選句のよろこび。「五月」の題もよかったですね。

特選

素足もて五月の土を踏んでみる  福岡県 紙田幻草(78歳)

作者は健康に恵まれています。78歳はまだまだお若いですが、素足になって五月の土をじかに踏んでみようという気分になれる方なのですから、すこやかで若々しい心の持ち主でいらっしゃる。この一行、五・七・五のありきたりな表現方法にのっとっておられません。しかしこの句の語調は作者のよろこびを読み手に過不足なく伝えてくれるものです。

秀句

耕運機五月の田んぼかえるとぶ  福井県 榎木紗代子(77歳)

この句の生命感はすばらしい。その耕運機に乗っておられるのが作者であっても、別人であってもよいのです。耕運機によって田んぼの土が耕されてゆく。土の中に眠っていた蛙がびっくりしてとび起き、田んぼの表面にとび出した。ともかく、この句の臨場感はすばらしい。鮮度たっぷりの一行です。

五月晴急流青き最上川   山形県 相馬孝子(82歳)

最上川は山形県の大河。松尾芭蕉も舟に乗って下りました。何とも気分のよろしいこの句、お国自慢とも読みとれますが、雲ひとつない五月晴の日に「急流青き」川を下っている作者の満足感、充足感が読み手によく伝わってきてここちよいですね。過ぎし日の体験を一行にされたものであってもよろしいのです。「五月」の題が生きています。

五月晴傘寿二人の昼餉かな  東京都 佐藤通子(81歳)

この句の幸福感を買います。揃ってすこやかに傘寿を迎えることが叶った。そしていま二人揃って昼ごはんを頂いています。ささやかなことに幸福感をたっぷり感じられること。それに勝るよろこびはないのです。もちろん、人それぞれ、嬉しいこと、愉しいことはさまざま。その日がまぶしいほどの五月晴であったこと。その事もよかったと思います。

古里に暮らすと決めし五月かな  千葉県 田原秀子(70歳)

「古里」は「ふるさと」と書いたほうがよろしいかと思いますが、70歳を迎えて、故郷に帰ることとされた。帰るふるさとがおありだったことは幸せです。旧友はもちろん、親せきの方々、ご縁のある方々もたくさんその地にはおられる。60歳還暦でなく、80歳傘寿でもない。70歳という節目のよろしさ。その重大事を五月に決められた。じつに嬉しい決断でしたね。

開け放ち五月の風を通しけり  埼玉県 橋本隆子(76歳)

何だ。こんな句なら誰だって詠める。とお思いの方に申上げます。俳句は省略の文芸。言わずに言う事が叶えば最高。まずこの句から作者のお住まいが見えてきます。近年、思う存分住まいを開け放つことができる暮らしに恵まれている方は都会では少ないのです。風を通せる、つまり、一戸建てのお住まいでしょう。五月の風はまさに幸せの使者なのです。

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