『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。旅先ならずともちょっと出かけて朝風呂に入り、ついでに一杯飲んで帰るという新刊、『ふらっと朝湯酒』(カンゼン)発売中。

指宿枕崎線 いぶすきまくらざきせん

九州新幹線の終着駅、鹿児島中央(鹿児島市)から山川(指宿市)を経由し、枕崎(枕崎市)までの36駅。87.8km。鹿児島湾に沿って走る。西大山(指宿市)はJRで最も南にある駅だ。

 

 ここで帰りの電車の時刻を見たらなんと2時間後! 雨も風も強くなってきた。駅前にただひとつある「かいもん市場久太郎」に入るしかない。ところがこの時気づいたのだが、銀行で金を下ろすのを忘れていて、サイフに860円しかない! 市場に併設された食堂で350円のうどんを啜っていたら、妙に寒い。ドアを見たら網戸だった。暖房ないのに。ここで2時間。金があって暖かかったら名物の漬け物をつまみにビールでも飲むのに。ミジメだ。しかたなくマンガの原作をチラシの裏に書いて時間をつぶす。

 ようやく時間が来て列車に乗り込んだときは無人島に船が来たような気持ちだった。列車って暖かい。風景が変わって楽しい。

 さらに最後のご褒美のように、指宿から特急「指宿のたまて箱」に乗り換えることができた! 海側と山側が白と黒に塗り分けられたこの珍しい2両車は、中も凝りまくっていて、大人気で満席。内装には木材がふんだんに使われ、ソファや本棚もあり、窓に向いた席に座って海を見てると、雨でもご機嫌だ。


ついに乗ったぞ! 憧れの特急「指宿のたまて箱」。
カッコイイ!

「指宿のたまて箱」車内。iPhoneで自分撮り。
周囲を気にして緊張

 内装が異なる隣の車両も見に行った。キャビンアテンダントと呼びたくなる客室乗務員が若くて明るくてカワイイし、写真まで撮ってくれる。でも金がないので何も飲み食いできなかったのが残念。時間待ちの指宿で銀行に行くの忘れた馬鹿な男。車内オリジナル商品とか欲しかった。

 いやぁ、今回ほど浮き沈みの激しいつたい歩きも初めてだ。戻ってみれば全部いい思い出に変わるのだが。でも、帰って3日経っても両足の調子が微妙に悪かった。歩くって繊細な運動なんだな、とあらためて思いました。

※「旅の手帖」2014年4月号より掲載しました。

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