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JRでおトクに行く 決定版! 湯ったり満足温泉旅【後編】

  • 幾重にも連なる山並みの麓 文学の香り漂う素朴ないで湯『天城温泉郷』
  • 手つかずの自然が残る山の中で 湧き出たままの湯に浸る『奥鬼怒温泉郷』

手つかずの自然が残る山の中で 湧き出たままの湯に浸る『奥鬼怒温泉郷』[栃木県日光市]

「おにやまホテル」の露天風呂は鉄輪随一の広さを誇る

夕闇に溶けゆく「いでゆ坂」の風景。坂の両脇に旅館が連なる

ミシュランの三ツ星を2年連続獲得した「ひょうたん温泉」には、のどに潤いを与える温泉吸入もある。TEL.0977-66-0527 9:00~翌1:00、無休(4・7・12月に清掃休業あり。平成22年7月は6~8日休) 大人700円(18時~550円)

共同温泉「谷の湯」。地元の常連さんとの出会いも楽しみ。6:30~22:00、無休 100円

至る所から噴き出す湯煙むし湯で鉄輪の洗礼を受ける

 別府鉄輪(かんなわ)温泉街は「いでゆ坂」から「みゆき坂」まで続く、長い石畳の坂道を中心に広がっている。その坂道から狭い路地に入ると、民家や湯治宿、共同温泉がひしめく。「ああ、鉄輪だ」と思わずつぶやいてしまう風景である。

 街のあちこちから、湯煙が上がり、どこを掘っても温泉が湧き出しそうだ。鉄輪にある湯治宿のひとつ、「双葉荘」の女将、伊東アサ子さんによると、「晴れた日の湯煙はフワッと優しい感じだけれど、雨の日は激しく噴き出すの」。朝晩や季節によってその様子は変化するという。

 ところで鉄輪温泉の街中には野良猫が多い。その理由は道路に手を触れるとよくわかる。地熱で地面がほんのり温かいのだ。道ばたで気持ち良さそうに寝転ぶ猫たち。すぐ横の側溝からは、温泉の蒸気が立ち昇っている。年中ポカポカとしたこの街は猫たちにとってもパラダイスなのだ。  別府は温泉の湧出量、源泉総数ともに日本一。中でも鉄輪温泉には最も多くの源泉がある。ひと際大きな湯煙を上げる別府地獄の様子を見れば、日本一の温泉というのも納得できる。

 鉄輪の開湯は鎌倉時代までさかのぼる。念仏行脚の途中で別府を訪れた一遍上人が轟々と蒸気や熱泉を吹き出す地獄地帯を鎮め、湯治場を開いたのが始まりだとされている。鉄輪温泉の代表的な施設である「鉄輪むし湯」も一遍上人が創設したものだと言い伝えられている。

 その鉄輪むし湯を体験してみることにした。浴衣に着替え、人ひとりがやっとくぐれるほどの扉を開くと、むせ返るような蒸気。そして石菖といわれる薬草の香りが石室内部からムッと迫る。中の温度は70度だが、高湿度のため、それ以上の熱さに感じる。敷き詰められた石菖の上に横たわると、すぐに体中から汗が滝のように噴き出してきた。まるで体中の汗腺が開ききったようだが、体の毒素が汗と一緒に出ていったようで、実に爽快な気分だ。

地獄釜に食材を入れるだけ自炊も楽しい湯治宿の滞在

 温泉街を歩いていると「貸間(かしま)」という看板をよく目にする。貸間旅館とは湯治宿のこと。昔ながらの湯治場風情が残る鉄輪温泉は、最も別府らしいとも言われている。

 いでゆ坂の途中に地獄原という地区がある。そこで「陽光荘」と「双葉荘」は昭和の初めから貸間旅館を営んでいる。いずれも宿泊は素泊まりのみ。食事は完全な自炊となる。館内には内湯、客室、共同トイレ、調理場があり、常に全国から訪れる常連客で賑わっている。この2つの湯治宿で特筆すべきは何といっても地獄釜だ。中でも「陽光荘」の27基の地獄釜は圧巻である。

 「地獄釜で調理すると野菜やお肉のエグ味がなくなるの」と語るのは陽光荘の女将、佐原郁恵さん。温泉の噴気で蒸すとその灰汁(あく)が抜け落ち、野菜は本来の甘みを増し、豚肉なども脂身だけが落ちてあっさりした味わいに。湯治客の中には、糖尿病などで食事制限のある人もいるが、地獄蒸し料理は食べられる人も多いという。

 湯治客が持ち込む食材は、主にカライモやサツマイモなどの野菜類をはじめ、魚介類や肉類まで様々だ。

 「地獄釜に入れてしばらく放っておけば、自然と調理してくれますからね。男性の方でも簡単だから、ここに来てから自炊の面白さに目覚めた人も多いんですよ」と双葉荘の伊東さん。ご飯も研いだ米を1時間も入れておくと、ふっくら炊き上がるという手軽さ。

 夕飯前になると、調理場には宿泊客が集まってくる。「今日は何を作るの?」「カライモとご飯だけ」。女将と宿泊客はまるで家族のような雰囲気で会話を交わす。調理場では客同士が仲良くなり、酒飲み友達になることもしばしば。そんな昭和の頃から変わらない湯治場の風景が、鉄輪温泉では日々繰り広げられている。

「陽光荘」の27基の地獄釜が並ぶ調理場。外国人の宿泊も多い

「双葉荘」の客室。昭和15年創業、湯治宿の趣を色濃く残している

「おにやまホテル」の地獄蒸し会席。旬の魚介や野菜がそろう

旅のDATA

■入湯貸間 陽光荘
大分県別府市鉄輪井田3組
TEL.0977-66-0440
1泊素泊まり3400円~
JR日豊本線別府駅から大分交通鉄輪行きバスで25分の鉄輪下車、徒歩5分
詳細はこちら
■双葉荘
大分県別府市鉄輪東6組
TEL.0977-66-1590
1泊素泊まり3828円
別府駅から鉄輪行きバスで25分の地獄原下車、徒歩1分
詳細はこちら
■おにやまホテル
大分県別府市鉄輪335-1
TEL.0977-66-1121
1泊2食1万3800円~ 
日帰り入浴14:00~(要問合せ)、大人800円(展望浴場「空の湯」1000円)
別府駅から鉄輪行きバスで25分の鉄輪下車、徒歩3分
詳細はこちら

☆POINT☆

 湯の種類も豊富に揃う別府鉄輪温泉は、できたら連泊、かなうことなら長めにゆっくりと滞在したい。「九州往復割引きっぷ」なら有効期間が7、10日間と長く、しかも驚きの割引率。新幹線と特急列車で快適なアクセス、湯治のような温泉ステイにこそおトク度が発揮されるきっぷです!

 

旅のMEMO

観光の問合せ
別府市観光まちづくり課 TEL.0977-21-1128
別府市観光協会 TEL.0977-24-2828

※ 掲載されているデータは平成22年6月現在のものです。
※ 月刊『旅の手帖』2009年1月号より転載、再構成。

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