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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。焼肉、ラーメン、カレーライスなど、愛する26品目のメニューについて語ったエッセイ『食い意地クン』(新潮社)がついに文庫化。

成田線 なりたせん

佐倉(佐倉市)から松岸(銚子市)まで16駅。75.4㎞。すべて千葉県内を走る路線。 我孫子駅から成田駅も同じく成田線だが、お互いに直通列車もなく、運行形態も異なる支線である。

 

 久住が久住へ行く。これは「クスミがクズミへいく」と読む。ボク久住が千葉に行き、久住駅のある成田線をつたい歩くのだ。成田までは外国に行く時来るが、その先は行ったことがない。成田から成田線に乗り換えると、窓の外はすぐに田園風景、といえば聞こえがいい田舎風景になる。ひと駅目がもう久住だ。
 電車は平日の昼で空いていたが、久住駅での降車客、久住ひとり。そこは小さな無人駅だった。名所案内の看板があり、「初代市川団十郎の墓 東1㎞」「荒海貝塚 北1.5㎞」という2項目のみ頼りなげに並んでいた。久住、地味。興味、ピクリともわかず。

 改札を出ると、いきなりガラーンとしている。枯れた芝生の向こうに整地された土地があり「成田久住分譲地自由が丘」と立て看が立っている。これが駅前か。バスもタクシーも1台とていない。人影もない。
 でも右手には少し離れて新築の家も並んでいる。一応新興住宅地でもあるのだろうか。遠くに車道も見える。その道沿いにコンビニが1軒小さく見える。でもひょいと反対を見ると、田んぼが広がっていて低い山も近い。


久住駅前。降りたのはボクだけ。
無人駅を出たら誰もいない。どうしよう

久住駅から5分ほど歩く。いよいよ何もない。
成田空港から飛び立つ飛行機がひっきりなし

 次の電車は約1時間後だ。この何もない久住を散策することにした。頭の上の高いところを、旅客機がひっきりなしに上っては消えていく。30分ほど歩いたが整骨院と農協と歯医者と消防署が各イチあったのみ。古そうな食料品店があったが、中で店員のおばちゃんと、誰か外から見えないおじちゃんが大声で世間話をしていて、入れる雰囲気ではなかった。隣に、間違いなく常連客100%の居酒屋が1軒。その向こうは、家一軒見えなくなったので、戻る。
 ボクは久住でお昼を食べようと思って、その腹にしてあったから腹ペコだ。しかたなく遠くに見えたコンビニに入って、明太子のおにぎり1個とお茶を買って、店内のカウンターで食べた。久住が久住まで来てコンビニ飯か。だが滞在時間は今思うと何はなくとも楽しかった。久住だったからだろう。

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