『トレたび』は、交通新聞社が企画・制作・運営する鉄道・旅行情報満載のウェブマガジンです。

久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。4月から原作を手がけたマンガ『食の軍師』がTOKYO MXでドラマ化。

宇野線 うのせん

岡山(岡山市)から宇野(玉野市)までの32.8㎞、15駅。瀬戸大橋の開通以前は、高松へ渡る宇高連絡船への接続で活躍。
宇野からは現在もフェリーで高松・直島などへと行ける。

 宇野線沿いの遊歩道は延々と淡々と続いている。単調といえば単調だが、気候のせいで退屈な気分にならない。汐入川という川を渡ったとき、本当に海の匂いがした。もう終点が近いのだろうか。椿が咲いてる。

 遠くに歩き始めた頃見た黄色い車両が見えた。ホームでないところに停まっている。どんどん近づいたら、そのすぐ向こうに宇野駅があった。ボクが乗ってきたステンレスの車両がホームに停車中だ。黄色い車両に比べて味気ない。今日は歩き始めて目標駅まで2時間半ちょっとだった。最近では一番短い。短い割に軽い足の疲労を感じるのは、やはり峠を越えたせいだろうか。


宇野の定食屋の店内のイラスト。ユーモラスで心が和んだ

 宇野は宇野港があるので、やはり港町っぽい雰囲気がある。真っ昼間だからどこもやっていないが、スナックや飲み屋も多い。山に大きな競輪場の看板が出ている。お昼過ぎなので、歩き回って「お食事の店 大阪屋」に入ることにする。地元の客で混んでいる。ボクは野菜炒め定食を頼んだ。白ゴマがかかっていて家庭的な味。とてもおいしかった。壁に「冷やしそうめん始めました。うまいんじゃ~」などと入った奇妙なイラストがいっぱい貼ってある。帰りに店のおばちゃんに「面白いですねぇ、誰が描いたんですか?」と聞くと「娘ですぅ」と夫婦して笑った。気持ちが一気に和む。


宇野港にて。直島経由高松行きカーフェリーが出て行った

 それから港に海を見に行った。宇野港。カーフェリーが何隻も停泊していて、乗用車や人が入って行く。「高松―直島―宇野」と書いてある。向こうに見えるのは四国だ。思わず飛び乗りたい衝動に駆られる。海風が強く、波が尖っている。

 時間があるので町をさらに歩き、女の人がひとりでやってる小さなカフェに入る。昼下がりのしんとした店で、ゆっくりコーヒーを飲む。これもまた旅情だなぁ、とじんわりした。

※「旅の手帖」2015年5月号より掲載しました。

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