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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

いすみ鉄道 いすみてつどう

上総中野(大多喜町)から大原(いすみ市)までの26.8km、14駅。かわいらしい車両と、全線を通じて見られる菜の花が人気のローカル線。
今回は大多喜から国吉までから足を延ばし、上総東まで歩いた。

 春の房総・いすみ鉄道につたい歩いてきた。JR内房線五井(ごい)駅から小湊(こみなと)鉄道で終点上総中野(かずさなかの)駅まで行き、ここでいすみ鉄道に乗り換えて大多喜(おおたき)駅で降りていすみ鉄道につたい歩き、外房を目指す計画。

 この季節の小湊・いすみ両鉄道は関東屈指の花の名所。一度は乗ってみたかった。ところが仕事の関係で、行ったのは4月7日。東京の桜の満開は過ぎている。しかも東京は雨。房総は暖かいから花にも遅れ天気にもフラれたか、と思ったが、奇跡的に五井の朝は曇り。小湊鉄道の1両車に乗り込むと、月曜なのに観光客とおぼしき帽子&リュックサック&カメラの人もけっこう乗っている。すぐに景色は畑になり、3つ目の駅上総三又(かずさみつまた)駅では、桜と菜の花が咲いているではないですか。黄色や紫のパンジーも咲いている。かろうじて花に間に合った!

 1両列車はいかにもローカル線というのんびりさがあって楽しい。実は20年ちょっと前、テレビ番組の企画で、自転車でこの線路に沿って外房に出て、海岸沿いに野島埼灯台を目指したことがある。ところが晴男と言われるボクが、この時ばかりは連続してどしゃ降りに見舞われ、ずぶ濡れになって電車に乗ったり、宿で1日待機したりと、惨憺たる旅だった。のんびり電車旅をしている人を恨めしく思ったものだ。だから今回その復讐をしているようでちょっと痛快なのだ。

 風景にどんどん桜と菜の花が増えていく。桜は散り始めてはいるものの、まだまだ美しく同時に若い葉が混じっているのが瑞々しくて春らしい。海岸と違って内陸で気温が低いのだろうか。上下線すれ違いの里見駅ではみんなホームに出て写真を撮っていた。飯給(いたぶ)駅を過ぎるとスゴイ菜の花畑が両側に広がり、乗客から歓声が上がった。これかぁ、と思う。


右が小湊鉄道、左がいすみ鉄道。どちらも1両でカワイイ

 上総中野でいすみ鉄道に乗り換える。こちらも1両。ムーミンが描かれたレモン色のムーミン列車だ。桜と菜の花は続き、大多喜で降りるまで、シアワセな気分が続いた。今回ばかりは、つたい歩きもさることながら、この列車旅がよかったなぁ。

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