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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

小野田線 おのだせん

居能(山口県宇部市)から小野田(山陽小野田市)までの11.6㎞、9駅と、通称・本山線の支線2.3㎞、2駅。大正4年(1915)、石灰やセメント運搬のため小野田~小野田港(旧駅名セメント町)間で開業し、今年11月に100周年を迎える。今回は小野田から長門本山(山陽小野田市)まで歩いた。

 山口県の小野田線につたい歩き。山口には、この連載で、門司港側から関門トンネル人道で海を潜って初めて行った。でもすぐまたトンネルで戻った。タッチして帰ってきた感じ。2度目の今回は前夜に宇部新川に泊まって、朝からしっかり歩く。

 午前10時半過ぎに、始点の小野田駅に着く。駅の中の立ち食いうどん屋になぜか激しくひかれる。昔ながらの「駅の立ちそば」の佇まいがたまらない。だけど、まだ昼前なのでパス。晴天で、すでにかなり暑い。と、駅前に「まるよし食堂」という、これまた古そうな食堂を発見してしまった。


小野田駅前の古そうな食堂。
食堂好きとして通り過ぎることできず

 古食堂に目がなく、さっきの立ち食いうどんでぐらついていたボクは、もうこれは入るしかない、と観念する。朝はホテルで6時半に軽く食べただけなので、腹は空いている。洗いざらしの白いのれんの文字がビンビンにそそる。

 店内には誰もいない。「すいません、やっていますか」というと、厨房から小さなおばあちゃんが出てきて「どうぞ。いらっしゃい」と言った。想像した通りだ。メニューにそばはなく、うどんのみ。でもチャンポンがある。やはり九州に近いからか。チャーハンでなく「焼きめし」だった。「他人丼」「かやくうどん」は関東ではあまり見ないメニューだ。

 暑かったので「冷やしそうめん」を頼む。テレビはあるがついていない。シーンとしている。円筒型の石油ストーブがあり、上に鉢植えが載っていて、下のタンクにおばあちゃんのものと思われるウォーキングシューズが揃えて立てかけてある。静かで規則正しそうな生活の様子に、胸がキュンとなる。

 そうめんには、プチトマト5個とキュウリ、シイタケ煮、カマボコがのっていた。薬味が万能ネギと、すりおろした生ワサビ。ショウガではない。でもこれがおいしかった! ワサビ、問題なし。プチトマトも味が濃い。カマボコも東京のよりツルンとして弾力も強かった。あっという間に平らげる。

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