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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。グルメマンガ『孤独のグルメ2』(扶桑社)18年ぶりの第2弾がついに発売。

内部線 うつべせん

あすなろう四日市から内部(ともに三重県四日市市)までの5.7㎞、8駅。「ナローゲージ」と呼ばれる狭い線路幅の路線で、マッチ箱のような車両がかわいらしい。日永駅から分岐する八王子線(1駅)も希少なナローゲージの路線だ。

 三重県四日市のあすなろう鉄道内部(うつべ)線につたい歩きしてきた。「あすなろ」じゃなくて「あすなろう」なのは、線路の幅がすごく狭いナローゲージであることから由来する。もちろん車両も小さくカワイイ。

 もともと近鉄線だったが、今年4月に近鉄と四日市市が共同出資した「四日市あすなろう鉄道株式会社」に移管されたばかり。でも魅力的なローカル線が廃線をまぬがれたのは、やっぱり嬉しい話だ。今や銭湯とローカル線はなくなる話ばかりで、ツライ。この連載でいろんな電車に乗ってきて、ますますその思いが強くなった。経済効率だけを追い求めていると、心が殺伐としてしまう。ゴトゴト走るローカル線にのんびり乗っていると、旅は目的でなく過程、物でなく時間だとしみじみ思わされる。

 朝、あすなろう四日市駅に行くと、いましたいました。1両のクリーム色車両とパステルグリーンの2両が連結された小さな電車がホームに停車している。ディーゼルではなく昔風菱形パンタグラフのある電車。これは鉄チャンでなくとも、思わず顔がほころぶ。終点内部駅までは約6km。この連載では一番短い部類。余裕しゃくしゃくでお茶など飲み、午前10時につたい歩き開始。

 すぐに踏切があったので、線路を見たが、ひと目見て幅が狭いのがわかる。線路の間の幅(軌間というらしい)は762㎜。ちなみにJRの在来線は1067㎜。新幹線は1435㎜だからあすなろう鉄道の倍くらいある。もちろん単線。しばらくこの線路に並んで歩く。15分としないうち、前から列車がやってきた。今度はなんとクリーム色・ピンク・水色の三色列車。これは楽しいなぁ。


住宅と近く、地元の人の生活と密着している内部線。
連結部もユニーク

 線路から道が離れ、また線路に近づくと、さっき前から来た三色電車が折り返して後ろからやってきた。小さなローカル線にしては本数が多いようだ。線路の両側には雑草が生い茂り、知らない名前の赤い花や白い花が咲いている。
 セメント製の先の尖った柵が昔っぽい。家々がすぐそばまで迫っている。住民の生活にとけ込んでいる印象だ。これが廃線になるなんて、もし住民だったらボクだって猛反対したくなる。

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