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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

大鰐線 おおわにせん

大鰐駅(青森県大鰐町)から中央弘前駅(弘前市)までの13.9㎞、14駅を結ぶ。 大鰐温泉と弘前市街をつなぐ路線はJR奥羽本線もあり、一時は廃線の検討もなされたローカル線である。

 道が線路から離れた。雲が低く、少し色が重くなって来たが、まだ日も出ている。道路沿いに大きなリンゴ直売店。今思えば、こういうところで買って自宅に送り、1個バラで買って齧(かじ)りながら歩いたらさぞ気分がよかったんじゃないか。くそ?。後の祭りだ。

 また刈り取られた田んぼ。今度はところどころに固まって焼け焦げがある。これもまた味わいある。こうやっておいしいご飯が作られている。しみじみする。若い頃はこういう風景に何も感じなかった。というか見てるのに、見えてなかった。

 道路に「弘前市」の標識が出る。マークが卍だ。そういえば地図にはいっぱいこの寺マークがあった。そのそばに「また来てね!大鰐町」の看板。思いがけず高校の修学旅行を偲んだ街。そうだ、観光バスから降りたら、そよ風にリンゴの香りがして驚いた。そういえば、今日はそういうリンゴの香りはまだしていない。風が強かったからか。そう思って、はたと、あぁ、昨夜の電車が止まるような強風にも、ここのリンゴは落ちなかったんだな、と思う。よくがんばったな、と思う。真っ赤なまぁるいリンゴがいじらしいようだ。いつの間にかリンゴに感情移入している。そのくらいいたるところにリンゴがなっている。

 「寺田式りんご防風網」の看板がある。そういうものもあるのか。昨夜はリンゴ農園の人は眠れなかったんじゃないか。

 平川という川にかかる御幸橋を渡る。遠くに赤い鉄橋が見えたので、列車よ来い! と念を送ったら、橋を渡り終わる頃音を立てて列車が鉄橋上に現れたので感激。

 空全体が曇ってきた。斜め前方に大きな山の裾野が見える。方向からして岩木山だろう。こんな季節晴れていて岩木山がドーンと見えたら、感極まるだろう。地にリンゴ、空に岩木山、焼け田んぼ。

 またリンゴ。線路脇にこれでもかとなっている。でも全然飽きない。それどころか真っ赤なリンゴにエネルギーをもらうようだ。
「北欧暖炉風薪ストーブお作りします」という看板。ああ、いいなぁ。冬は厳しいんだろう。そんな中、実用薪ストーブ。男の夢。


まだ収穫が終わっていない田んぼがあった。
黄金の海。米は日本人に特別な穀物

 おお、今度は稲刈り直前の田んぼだ。スバラシイ。黄金に輝く稲の海だ。まさに日本人の主食お米が、ご飯が、自然の中で実ったところだ。大地に感謝。なんだか今さら感動。見ているだけで豊かな気持ちになる。

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