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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

三角線 みすみせん

宇土駅(熊本県宇土市)から三角駅(宇城市)までの25.6㎞、9駅。明治32年(1899)に開通し、特別輸出港であった三角港からは福岡や長崎、天草、島原への汽船と接続していた。現在はジャズが流れバーカウンターがある特急「A列車で行こう」が人気だ。

 今回は熊本のJR三角(みすみ)線、愛称あまくさみすみ線。かなに開かれた線名の中に、ボクの名前の「くすみまさ」までが入っている。1日で全線歩くのは無理なので、島原湾に面した海沿い部分を歩くことにする。


波がなく静かで平らな島原湾。
向こうに見えるのは雲仙・普賢岳

 熊本からJR鹿児島本線で宇土(うと)駅まで行き、三角線へ乗り換え、午前10時33分肥後長浜駅到着。歩き始める。いきなり島原湾沿いの車道だ。海の向こうに雲仙・普賢岳が見える。こんな場所だったのか。ボクは熊本県の形を全然把握していなかった。帰ってきてこれを書きながら地図を見て、熊本・佐賀・長崎と入り組んだ有明海の形状に驚いている。歩いてから地図を見ると、すごく頭に入る。


歩き始めてすぐに前から来た三角線の1両車。
右手はすぐ海だ

 内海らしく波はなく、カモメの群れが浮いている。10分も歩かないうちに、向かいから三角線の1両車が来た。銀色の車体にブルーのライン。線路と道路が少し内陸に向かうと、線路の向こうに冬の田んぼが見えた。道沿いに3階建ての老人介護施設があった。日本中で見てきた。超高齢社会を重く実感。

 11時少し前に後ろから電車の音。振り返ると、もうそこに濃い茶色に金の細いラインの入った車両が近づいていた。「A列車で行こう」号だ。カッコイイ。実は帰りはこれに乗ることが決まっている。超楽しみ。

 「干潟景勝の地」という矢印看板が出た。通り過ぎたら、もう一度、今度は自動車向けのその看板が大きく出た。「日本の渚百選・御輿来(おこしき)海岸」ともある。見ておくべきなのか。ちょっと迷って、行ってみることにする。もう一生ここに来ない可能性が高い。車道を離れ、車が1台通れるぐらいの坂道を上る。まわりに夏ミカンみたいなのがいっぱいなっている。でも今は真冬だ。舗装されてはいるが、農道みたいな曲がり道だ。車じゃすぐだろうが、歩くと結構な上り坂山道。息が荒くなる。無駄な道草感強し。

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