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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。昭和56年、泉晴紀とのコンビ「泉昌之」で書いた短編漫画『夜行』でデビュー。実弟・久住卓也とのユニットQ.B.B作の『中学生日記』(青林工藝舎)、ドラマ化され放映中の谷口ジローとの共著『孤独のグルメ』(扶桑社)、水沢悦子との共著『花のズボラ飯』(秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開。

八高線 はちこうせん

八王子駅(東京都八王子市)から倉賀野駅(群馬県高崎市)までの全23駅。92.0km。関東平野の西部を走る。今回歩いたのは埼玉県入間市、東京都瑞穂町、昭島市、八王子市あたり。

 ボクは散歩が好きで、平成21年から足掛け2年かけて、東京から大阪まで散歩した。月に一度、その日に歩けるところまで歩いて、最寄りの駅から電車で帰ってくる。翌月またそこまで電車で行って、その先を歩くというシャクトリムシ的散歩だった。基本的に、行く前に地図は見ない。散歩だから。急がない。散歩だから。名所旧跡もわざわざ訪ねない。散歩だ。これがやってみたら、本当に面白かった(今度それが単行本にまとまる。集英社から8月刊行予定『野武士、西へ。~二年間の散歩』)。

 その時の頼りが、東海道本線と東海道新幹線だった。これを見失わなければ、理屈的には地図を見なくても行ける。もちろんトンネルの多いところは地図を調べたが。

 この散歩で予想外に楽しかったのは、帰りに電車の窓から自分の歩いた道が、ときどき見えたことだ。「あ、あの田んぼの中のあの道、歩いたなぁ」と走り去る風景に、はげしい親しみを感じた。これは 自分の足で歩いた者にしかわからない。

 ボクは、この線路に沿った散歩を「線路つたい歩き」と名付けた。伝い歩きは赤ちゃんが歩けるようになる前の、壁や家具につかまっての歩行だ。ボクも線路に頼って、不器用に散歩している。しかし、赤ちゃんは伝い歩きができるようになると、視野も行動範囲もぐんと広がり、またグンと成長するという。ボクも、地図やインターネットの情報に頼らず、赤ちゃんのようなまっさらな気持ちで、また、線路に伝ってニッポンを歩いてみたい。今度は行きを電車で行って、帰りを歩く、というパターンもやってみよう。

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