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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化もされた『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。平成21年から足掛け2年をかけて東京から大阪までを散歩した近著『野武士、西へ 2年間の散歩』(集英社)が発売中。

土佐くろしお鉄道(ごめん・なはり線)

後免(高知県南国市)から奈半利(奈半利町)まで全20駅。42.7km。ほぼ高架線で土佐湾沿いを走る。 オープンデッキのあるしんたろう号、やたろう号はともに1日1往復。天気のいい日にぜひ乗ってほしい。

 

 旧街道はなにもなくても歩いているだけで心が安らぐ。長い間人々の生活によってこのラインに落ち着いた道だ。合理性のために強引に造られた自動車道とは全然違う。

 と思ったら前から菅笠をかぶって白装束の男の人がひとりで歩いてきた。お遍路さんだ! 木の杖をつき、鈴がコロコロ鳴っている。背中に白い箱みたいなのを背負っていた。傘やコートは無し。かなり正式な感じに見える。筒状のものを2本背負っているが、まさか野宿とかするのだろうか。ポンチョの自分がえらくナサケナイ。

 あかおか駅に到着。ここから列車に乗るつもりだった。が、時刻表を見たらあと1時間近く列車がない。それであとふた駅歩くことにした。なんと、このふた駅間、まるまる高架の下を歩くことができた。雨が少し強くなってきたので助かる。ポンチョを脱ぐ。つたい歩きでなく、モグリ歩きだ。

 たくさんのお遍路さんとすれ違った。誰も高架下は歩いていない。お遍路さんも服装はまちまちで、傘をさしている人やレインコートの人、私服で白いシャツと白ズボンの人、そして団体もいた。 


お遍路さんとすれ違った直後、パチリ。
かなり本格的。靴だけ現代

 14時過ぎに夜須(やす)駅に到着。高架のホームに登ると海が見えた。列車が来たら、1両ながら新しくて、乗り込んだらなんと海側にデッキが付いている。細い廊下のようなオープンエアなスペース。雨のせいか誰も出ていない。海沿いの高架なので気分がいい。晴れていたら最高だろう。ただトンネルが最初コワかった。剥き出しの内壁との間に何もない。寒い。車内へ逃げ込む。

 球場前駅でまた降りて、安芸(あき)市内を歩く。岩崎弥太郎が地元の歴史スターらしいが、写真は金儲け好きで強欲な男に見えた。ペッタリ固めた七三分けの髪がいやらしく、自己顕示欲の塊のようなこれ見よがしの口髭。

 安芸川の水が雨だというのにものすごく澄んでいて「四万十」という言葉が浮かぶ。2駅目の伊尾木(いおき)駅でまた列車に乗る。今度はシルバーの車両でデッキはない。さすがに疲れた。 奈半利(なはり)のホテルで風呂に入り、ビール。マグロの握りと高知の地酒三種利き酒セットの夕飯。実は、前夜は高知のシブイ居酒屋「葉牡丹」で、カツオのたたきのウマいので一杯やったのだ。今夜はマグロ。 ほろ酔いで部屋に戻り、テレビをつけたら、やなせたかしさんの訃報。驚いて「えっ」と声が出た。

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