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久住 昌之 Kusumi Masayuki (文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。土山しげる作画による『野武士のグルメ』マンガ版が幻冬舎より好評発売中。

鳴門線 なるとせん

池谷から鳴門(いずれも鳴門市)までの7駅。8.5km。全線鳴門市内を走る路線だが、高徳線へ直通運転しており、徳島方面へ行くのが容易。終着の鳴門駅からバス20分の鳴門観光港からは観潮船も出る。

 

 道はじきに自動車道と合体し、やがて鳴門線と分かれた。そこに大きな煙突が立っている。工場ではなさそうだ。近づくと「福寿醤油」と書いてあり、もっと近づくと微かに醤油のいい香りがしてきた。隣は「酒王鳴門」という看板が貼ってある松浦酒造場だった。その間の木の黒壁の道に入る。味噌もやっているようだ。まさに昔ながらの醸造所という感じ。醤油の匂いが、日本人のボクの胸の深いところをくすぐる。


醤油の香りがする路地。板壁が味

 この辺からは道がくねくね入り組み、線路もくにゃくにゃ曲がっているようなので、ちょっと悔しいけどiPhoneのGPSで、自分の居場所を時折確認しながら歩く。
 小さな川が流れていて、じっと見ると小魚の群れがすごい速さで泳いでいる。まさに春の小川だ。徳島は水が豊かな県だ。だから農業が盛んなのだろう。第一次産業が盛んな土地は、当然自然が大切にされ、自然と生活が共存している。そこから生まれるのどかさなのだろう。

 道沿いにはしばしば古い地蔵が立っていて、新しい花が生けられてあった。家の屋根はほとんど瓦だが、藁葺き屋根をトタンなどで覆ったような屋根の家もたくさん見られた。また鳴門線と近づき、踏切の音がしたので待っていると一両車がのどかに走ってきた。またしばらく道路と線路が並走する。瓦工場がいくつかある。


単線をのどかに走る鳴門線一両車

 家が増えると駅が近いのがわかる。立道(たつみち)駅。でも駅は無人。また道が線路から離れる。舗装されているけど古そうな道。と思ったら八坂神社があり、続いて大津賀神社。昔道なのだろう。ビニールハウスがあって、「イチゴ狩り」ののぼりが立っている。

 学校帰りの中学生たちに出会う。どうやら今日は入学式だったようだ。真新しいセーラー服が板に付いていない感じの女の子が、ちょっと心細そうな表情で、大きな紙袋を提げて歩いている。今日はいろんな春が向こうからやってくる。

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