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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

流鉄流山線 りゅうてつながれやません

馬橋(松戸市)から流山(流山市)までの5.7㎞、6駅。
平成20年までは総武流山線と呼ばれていた。
かつて西武鉄道で使われていた車両が2両編成でいくつも走っている。

 


風が吹くとクヌギの枯れ葉が老人と線路に舞い散った

 3時になった。だいぶ影が長くなった。道は細くなった。車は通れないようだ。道には枯れ葉が半分ほど敷き詰められている。風が吹くと、道脇のクヌギの木から大量の枯れ葉が空へと舞った。ボクの前を黒いジャンパーを着た老人が歩いていて、その上を線路の方にヒラハラと飛んで行く。なんだか映画のラストシーンのように、はかなげな光景だった。自分の行く末を重ねてしまった。

 川沿いはいつしか桜並木になった。葉はすべて散っている。すると、この桜並木のことを説明する立て看板が現れた。かいつまむと、新坂川は水田の洪水被害の軽減などのために昭和8~12年に掘られたそうだ。やはり。ところが思ったように洪水は解消されず、その後も天災が続き、見かねた川の開削に関係した役員たちが「花見でもできる川にしよう」と、昭和30年頃に桜を植えたんだそうだ。はー。なんだか精彩のない川に見えたが、そういういきさつがあったのか。地味と言えば地味だが、ボクにはすごくいい話に思えた。また電車が横を通った。

 川の方から、また踏切を渡って反対側に行き、少し歩くと高いビルがたくさん見え、近づくと常磐線の新松戸だった。駅のそばには古いホテルが何軒もあり「長期滞在歓迎割引」と書いてあるところもあった。どういうところから、どんな人が長期滞在しにくるのだろう? どんな仕事のために? 新松戸の駅は高架で常磐線と武蔵野線と交差していて大きかったが、流鉄はその下の隅に隠れるように、ひっそり小さな駅があり、駅名も「幸谷」というのだった。

 そこを過ぎると道はぴったりと線路に寄り添い、間にはコンクリート製の昔っぽい鉄道の柵が並んでいるだけだ。背後から電車が現れ、ボクを追い越して行った。車両は同じだが今度は水色に白い線だ。

 道沿いに小さなキッチンやスナックがぽつりぽつりとある。小さな家庭菜園があったり、菊の花がたくさん植えられてあったり、また違う文化圏に入ってきた感じ。すると、線路の向こうに鬱蒼とした防風林?があり、中に瓦屋根の大きな屋敷がある。小さな踏切があるが、それはその家専用に見える。農家のように見える。豪農、という言葉が浮かぶ。が、まわりは住宅だ。でもこの辺は昔は全部、田畑であったに違いない。


小金城趾駅ですれ違う2色の車両。他の色もある

 3時半、小金(こがね)城趾駅。この辺にも城があったのだろうか。ホームに黄緑色の電車が停まっている。と、行く手から水色の列車がやってきて反対側のホームに停まった。なあるほど、この駅ですれ違うのか。つたい歩いていて、今回はよく列車に出会う。本数が多いということは、ローカル線にしては利用客が多いということだろう。

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