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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。

流鉄流山線 りゅうてつながれやません

馬橋(松戸市)から流山(流山市)までの5.7㎞、6駅。
平成20年までは総武流山線と呼ばれていた。
かつて西武鉄道で使われていた車両が2両編成でいくつも走っている。

 

 まだ新坂川も線路に沿っているが、川幅はだいぶ細くなってきた。と、思ったら大きな川にぶつかる。これは「本家」坂川だった。やはり自然の川の方が、生き生きして堂々としている。景観もいい。だが、流山線の鉄橋と、人間の渡る橋は200mくらい離れていて、ぐるりと回り道せねばならなかった。線路に戻って、鰭ヶ崎(ひれがさき)駅。最初読めなくて、一瞬「すしがさき」かと思った。小さな駅。でも駅前においしそうな古い手作りパンと洋菓子の「丸十パン店」。こういう店のパンがおいしいんだ。


おとなしい看板を書き換えたらしい。主張が激しい

 その先に流山せんべいの「伊勢屋」。ここの看板が最高。面白い看板を写真に撮って集めているボクとしては、かなりの大物を釣り上げた気分。「激」とか「ホド」といった言い回し、書き文字の字体、レイアウト、これはプロにはできない迫力と変さ。壁の看板も全部面白い。残念ながらお店は休みのようだったが。こういうものが待っているから、長い散歩はやめられない。

 それから道がちょっと線路を反れ、住宅街に入って行った。道がぐにゃぐにゃしているが、方向はあっていると思いながら行くと、突然行き止まりに。戸惑っていたら、そこに立っていた初老の男性が、薄笑いを浮かべ「ここ、行き止まりだよ」と、ボクの心を見透かしたように言った。悪夢のようだった。それから戻って戻って戻って、何度も立ち止まって、考え込み、迷いながら大迂回して、やっとのことで線路に戻った。もう4時半を過ぎていた。今思えば短い時間だが、暗くなって行くのが心細く、不安になり、焦った。リュックの背中に汗をかいている。


踏切を見たときはほっとした。遠くに茜色の雲

 今の大人はこういう感情になかなかならない。ケータイもあるし、GPSもある。それらを使えば迷わない。でも、使わなければ子供の心に戻ることができる。日はすっかり陰っていて、遠くの雲が茜色だ。また電車とすれ違う。もうライトを点けている。

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