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久住 昌之 Kusumi Masayuki(文・写真・画)

東京都出身。ドラマ化された『孤独のグルメ』(谷口ジローとの共著・扶桑社)、『花のズボラ飯』(水沢悦子との共著・秋田書店)ほか、漫画、エッセイ、音楽など多方面で創作活動を展開中。文庫版『ひとり飲み飯 肴かな』(日本文芸社)発売中。

左沢線 あてらざわせん

北山形(山形県山形市)から左沢(大江町)までの24.3㎞、11駅。6月上旬?7月中旬に旬を迎えるサクランボをはじめ、8月のモモ、9月のブドウ、10月のラ・フランスなど果樹栽培が盛んな地域。今回は左沢から寒河江(寒河江市)まで歩いた。

 これはとても読めない線だ。「左沢線」と書いて「あてらざわせん」。山形県の北山形駅と左沢駅を結ぶ鉄道で「フルーツライン」の愛称が付いている。今回は山形市内に泊まって、翌朝左沢線で終点まで行って、そこから途中の寒河江駅(これも「さがえ」って読めないですよね)までつたい歩いて戻ってこようという計画。

 ところが前夜の山形の天気予報では、午前10時の時点で降水確率40%、正午からは100%。しかも雷マークまでついている。ボクは自他ともに認められる晴れ男だが、さすがにこれはダメだと思った。歩けるところまで歩いて、傘で行けそうなら歩き、豪雨になりそうだったら最寄りの駅で終わろう。

 早めに出ようと思ったが、列車は1時間に1本。一番早いのが山形駅朝7時過ぎにあったが、ホテルの朝食を食べて準備したら間に合いそうもなくなり、8時頃の列車もあきらめて、予定通り9時31分の列車に乗り込む。


左沢線のカーテンはなぜ始発駅から全部閉じられているのか。
床の破線の意味は?

 2両編成のワンマンカーだったが、まず驚いたのは窓という窓のカーテンが閉まっていることだ。車内灯がついているから暗くはないが。横に引く蛇腹の布製カーテン。ボクは一番端に座って、自分の後ろのカーテンを開けた。車窓からの風景を見たい。ひとりひとりの座席の床に、黒い線が引いてあるのも謎だ。これより足を出すなということか。車内は空いていて、観光客らしき人も少ない。カーテンを開けようとする人は誰もいない。なぜなんだ。


左沢駅で降りた園児たち。
列車は彼らに占拠されカーテンは全開になった

 市内を抜けると田園地帯が広がる。水田とたくさんのビニールハウス。山は遠くに低く、いかにも山形盆地という風景。途中の羽前長崎駅から、何十人もの幼稚園児達が乗り込んできて、急に車内は賑やかになった。すべてのカーテンは開けられた。座った途端「たのしいね!」「あ! ぼくのおばあちゃんちだ!」元気全開。車両連結部の蛇腹を目を細めて見て「ゆらゆら揺れてる」とつぶやく子。ああ、そうだった、その感性が眩しい。

 ボクにも「どこでおりるんですか?」と聞いてくる素直さ。誇らしげにきっぷを見せてくれた。珍しいのだろう。先生が「最上川(もがみがわ)が見えますよー」と言った。最上川。あつめて早し、はこんなところにあったのか。ボクが窓から見て感心している。トンネルに入っては「あー!」出ては「あー!」歓声が上がる。園児達のおかげで楽しい列車旅だった。一緒に左沢駅で下車。雨に降られなきゃいいが、と心配したら、駅に専用バスが待っていた。

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