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現地でカンパイ! これぞ飲むべき 全国 美酒の旅|岡山県岡山市「おかやま秋の酒祭り」ほか vol.8 幻の酒米を復活させ
地の米、地の水で醸す。進化し続ける酒の国

中国山地と瀬戸内海の間に広がる岡山平野は米の産地。雄町米を復活させた「利守酒造」では、自社田で雄町米を栽培し、酒を造る。

地場産の米と水を用いる酒蔵が多いのも岡山ならでは。「室町酒造」では契約農家栽培の雄町米を用い、但馬杜氏により醸している。

岡山は日本酒だけじゃない。「吉備土手下麦酒醸造所」では「街角の豆腐屋のような地ビール屋でありたい」を信条にビールを醸造。岡山県産フルーツのビール「魔女の物語」420円や「ジンジャーエール」420円、どぶろくビール「瑞穂国」570円などが人気だ。

蔵人と語らいながら飲みめぐりできるのが、酒祭りのよいところ。

穏やかな風土と人々の熱意で育て上げた岡山が誇る酒米“雄町米”

 「ふるさとの たまえしめたる 吉備(きび)の酒」と『万葉集』で詠まれるほどに、吉備国(現・岡山県周辺)は古くから酒を醸していた土地。吉井川、旭川、高梨川と3本の一級河川がゆったりと流れ、豊富で良質な水と、豊かな土壌、温暖な気候に恵まれている。

 岡山は、蔵人を唸らせる酒米「雄町米」の生産地としても有名だ。もとよりここは、雄町米発祥の地で、雄町村(現・岡山市中区雄町)から名付けられたという。
 安政6年(1859)、雄町村の熱心な農家であった岸本甚蔵(じんぞう)氏が、鳥取県の大山へ参詣の折に変わり穂を見つけ、持ち帰ったことが雄町米のはじまりだった。米は大粒で、デンプン質を多く含む中心部の心白も球状で大きいことから、酒米に好適として広まったという。各地で交配が進められ、「山田錦」「五百万石」などの名酒米も誕生。しかし雄町米自体は化学肥料を嫌い、背丈は1m50~70cmと高く倒伏しやすいため、栽培が難しく、収穫量も少ない。やがて、農業の機械化という時代の流れのなかで、“幻の米”となってしまった。

 昭和40年代後半、復活の狼煙(のろし)を上げたのが、岡山市の北隣に位置する赤磐(あかいわ)市西軽部(にしかるかべ)の「利守(としもり)酒造」だ。地元で雄町米栽培を続けていた福井神社の協力を得て、農協、役所、農家を日参。やがて少しずつ賛同者が集まり、農家の所得保証をするというリスクを負う形で、有機肥料・無農薬で栽培を始めた。
 昭和57年には利守酒造と農家、農協、農業試験所、行政が一体となり、雄町米栽培推進プロジェクトを開始。雄町米で造った大吟醸酒を「赤磐雄町」と命名し、赤磐の雄町米が再び注目されるようになった。県も栽培を推進し、作付け面積は着実に増えているという。

 「利守酒造」4代目の利守忠義さんは言う。「酒米のなかでは最も古い純潔種で、山田錦が優等生だとしたら、雄町はわんぱく小僧。その野性味が太く、ふくよかな味となる所以です。それに、醸し方でどんな酒にも化ける、面白い酒米なんです」
 雄町米での酒造りを信条とする「室町酒造」の花房満さんも「大変やんちゃだから酒造りは難しいんです。けれど、出来上がった酒は旨みがある。搾り立てより、夏を越して秋口になると芳醇で旨みを増す、いわゆる大器晩成型の米なんですよ」と相好を崩す。

岡山の酒造りは広がりを見せ祭りで多彩な酒が一堂に会す!

 岡山県には57蔵もの蔵元がある。しかも日本酒はもちろん、岡山特産の果実を日本酒で仕込んだ果実酒や、地ビールを醸造する蔵元もあり、酒文化は多彩極まる。そんな岡山の酒を一堂に楽しめる祭りがある。

 2010年より開催されている「おかやま酒祭り」は、酒の造り手と客が直接出会えるイベントだ。「おかやまの酒をもっと知り、酒造りの歴史を永く残すことができるように」と話すのは、おかやまものづくり祭り実行委員会代表の永原敬(さとし)さん。参加する酒造は回を重ねるごとに増え、2014年9月には地酒16蔵元、ビール6醸造所、さらにワイン、味噌、酒器などのメーカーも登場する。

 入場券となるチケットには20枚綴りの試飲券が付いていて、開催3日間を通して使えるうえ、家族や仲間とシェアして使うことも可能だ。もちろん、つまみとなる食も魅力的。「備前味噌醤油」の味噌を用いたもろきゅうや、地元の銘柄牛「千屋牛(ちやぎゅう)」の串焼き、牛窓(うしまど)名産の生タコが入ったたこ焼きなど、岡山グルメが勢揃い。今回は復興支援として、宮城県の気仙沼から届く旬のサンマも味わえる。岡山で出合う地の酒、地の味のコラボを思う存分、楽しみたい。

【おかやま秋の酒祭り2014in西川】

日時:2014年9月 19日(金)17:00~21:00        
20日(土)11:00~21:00        
21日(日)11:00~17:00

場所:下石井公園(岡山市北区幸町10-1001)
入場料:前売り券3200円(試飲券20枚綴り+オリジナル記念グラス1個+プラカップ1個)、当日券3800円(試飲券20枚綴り+プラカップ1個)
問合せ:おかやまものづくり祭り実行委員会 TEL.070-5306-2580

利守酒造

利守酒造は明治元年(1868)創業。赤磐雄町の米作りから取り組み、地の水、地の風土で醸して、1杯目より2杯目、3杯目が旨い酒を目指す。手作業で酵母(?〈もと〉)を完成させる伝統的な生もと仕込みや、備前焼の大甕(おおがめ)による仕込みも行なう。赤磐産雄町米を用いた純米大吟醸「赤磐雄町」720ml・3240円、酒一筋の純米吟醸「銀麗」1.8?・2808円で、ふくよかな旨みを体感したい。

室町酒造

室町酒造は元禄元年(1688)創業の老舗。 雄町米である「赤磐産雄町」と名水百選に名を連ねる「雄町の冷泉」を仕込み水に用いて、旨みのある酒造りに取り組む。また岡山産の手搾りゆず果汁を雄町米の純米吟醸に加えた「ゆず酒」や、雄町米の原酒で赤磐産古城梅を漬けた「梅酒」の販売も。「室町時代」720ml・5400円。「ゆず酒」300ml・1404円。

宮下酒造

宮下酒造は大正11年(1922)に創業し、昭和42年に旭川のほとりに移転。地下100mから汲み上げる伏流水と雄町米を用い、備中杜氏の流れを汲む岡崎杜氏が辛口大吟醸「極聖(きわみひじり)」を醸す。また平成6年より地ビールを醸造開始。純米大吟醸「極聖」 720ml・3780円。西洋と日本の文化を融合した「雄町米ラガービール」330ml・432円。

これぞ岡山が育んだ地酒 3大ポイント
酒造好適米“雄町米”

現在用いられる酒米のおよそ3分の2が雄町米を交配して作られたもの。産地は岡山県で、なかでも赤磐市が大半を占める。花崗岩が崩壊した土壌は排水が良好ゆえ、深く根を張る雄町米にとってうってつけの地だ。栽培の難しさから“幻の米”と呼ばれた時期もあった。

水質と水量を誇る伏流水

水質良質で、水量豊富なため、酒造りが盛んな岡山。県内三大河川の一つである旭川の伏流水が地下水となり、適度なミネラルを含んだ雑味のない軟水に。岡山市では町なかに水汲み場のある「おまちアクアガーデン」を整備。煮沸すれば「雄町の冷泉」を飲むこともできる。

古から技を受け継ぐ杜氏たち

岡山西部の備中は、古くから杜氏出身者が集中する「備中杜氏」の里。元禄年間(1688~1704)に灘で学んだ朝野弥治兵衛が後輩を育成したことにはじまる。また、隣接する兵庫の但馬杜氏なども活躍。現在は醸造技術が発展し、流派に属さない酒造りを目指す蔵もある。

地酒と楽しむ! 特選ご当地自慢
フルーツパフェの街おかやま|旬のフルーツがたっぷりのパフェめぐり

白桃、マスカット、ピオーネの全国有数の産地である岡山は、まさにフルーツ王国。1年を通じて多彩に収穫されることから、岡山商工会議所では2009年より「フルーツパフェプロジェクト」を開始。市内38店で味わえ、季節によりフルーツが変わるのも楽しみ。

■パンフレット配布場所

岡山・倉敷・西大寺・児島・福山の各駅、岡山空港、観光案内所など
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岡山後楽園|漆黒の岡山城を借景にした名園

岡山藩の2代藩主池田綱政が造り、時代ごとに改築された庭園は、烏城(うじょう)と名高い岡山城が借景。園内には井田、池、庭山が配され、江戸の風雅を漂わす建物が点在する。10月4日の能を楽しむ会、秋の夜間特別開園など、粋なイベントも目白押し。

住所:岡山市北区後楽園1-5
時間:7:30~17:45入園(10月~3月19日は8:00~16:45入園)
休み:無休
料金:400円 小・中学生・65歳以上140円
交通:JR山陽本線岡山駅から藤原団地行き岡電バス約12分の後楽園前下車すぐ
TEL.086-272-1148
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吉備津神社|伝説と歴史に彩られる山陽道屈指の大社

童話『桃太郎』は御祭神の大吉備津彦命(オオキビツヒコノミコト)の鬼退治伝説がモデル。国宝の本殿拝殿は、全国唯一の様式である吉備津造と呼ばれ、大胆な美しさだ。備中高松城水攻めの折、秀吉が戦勝祈願のため参拝に訪れた。

住所:岡山市北区吉備津931
祈祷受付時間:8:30~16:00(土・日曜・祝日は8:00~16:30)
交通:JR吉備線吉備津駅から徒歩約10分 
TEL.086-287-4111
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取材・執筆:佐藤さゆり(teamまめ) イラスト=オギリマサホ
協力:岡山市
写真提供:利守酒造、室町酒造、宮下酒造、吉備土手下麦酒醸造所、おかやまものづくり祭り実行委員会、岡山県後楽園事務所、岡山県観光連盟、岡山商工会議所、吉備津神社
※掲載されているデータは2014年9月現在のものです。
※イベント内容は変更される場合があります。事前にご確認のうえおでかけください。
※本事業は、酒蔵ツーリズム推進協議会に協力しております。本連載により生じる直接または間接の損害等については、酒蔵ツーリズム推進協議会(またはそのメンバー)では何ら責任を負うものではありません。

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