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駅弁の女王小林しのぶが選ぶ 絶対に食べたい駅弁

地元素材を使って旨みを引き出した“海を泳ぐ牛” およぎ牛弁当 松江駅

 隠岐諸島の知夫里島(ちぶりじま)には泳ぐ牛がいる。同島では冬になると公共牧場の草が枯れてしまうため、牧場や牛舎をもたない牛の所有者は、近くの島まで牛を泳がせて牧草を与えている。運動不足の解消と牛の空腹を満たす一石二鳥の季節行事だ。

 この牛は生後7~9ヵ月で奥出雲の牧場に移送され、豊かな自然の中でのびのびと育成された後、潮凪(しおなぎ)牛として出荷される。島根和牛の中でも、とくに肉質がやわらかいといわれる潮凪牛を使用したのが「およぎ牛弁当」である。

 中身は、島根県産米の上に薄切りの潮凪牛をのせたシンプルな牛丼風弁当。肉は奥出雲産の本醸造醤油と地酒、ミネラルたっぷりの自然塩「海士乃塩」で味付けられており、とろけるような食感と旨みを存分に味わえる。そぼろ肉の煮物は、A4ランク以上の島根和牛に地場産のゴボウとショウガを加えてゆっくりと煮込んだもので、甘辛の味わいが甘みのある県産米と見事にマッチ。肉のおいしさをとことん引き出したハイレベルな内容に、牛肉好きはノックアウトされること間違いなし。島根の豊かな自然の恵みを詰め込んだ駅弁の実力を心ゆくまで味わってほしい。



松江駅には銘酒つき駅弁もあるのだ
  • 価格:1100円
  • 種類:肉系
  • 調製元:一文字家
  • 電話:0852-22-3755

ふるさとの味覚満載。JR東海の社長賞を受賞した名品 竹取物語 新富士駅

   『竹取物語』は、『桃太郎』や『一寸法師』などと並ぶ、わが国不滅の古典文学だ。この物語のふるさとといわれるのが、富士山南麓にひろがる富士市。市内には、かぐや姫が生まれたとされる竹やぶを保存する公園がある。

 かぐや姫伝説を継承する富士市で、90年以上前から弁当製造を続けているのが富陽軒。1988年3月の新富士駅開設に伴い、満を持してこの駅弁を投入した。

 竹で編んだカゴに円形の容器を収め、かぐや姫のイラストを描いた和紙のパッケージで包んだ。中身は釜飯風で、富士市名物の茹で落花生をもち米と一緒に炊いたおこわの上に、ホタテの照り焼き、金目鯛の塩焼き、鶏肉、タケノコ、椎茸、桜エビといったふるさとの味を彩りよく配した。

 見た目のよさもさることながら、ひと品ずつ丁寧に調理した、老舗ならではの心配りに感激しきり。中でもホタテの照り焼きの豊かな味わいは絶品で、粘り気のある落花生おこわとの相性もよい。竹カゴを持ち帰れば、物入れとして再利用できる。JR東海の社長賞を受賞した名品だ。

「トレたび」おすすめプレイバック

三島?新富士間は屈指の富士見スポット!
  • 価格:1000円
  • 種類:キャラクター
  • 調製元:(株)富陽軒
  • 電話:0545-61-2835

タラバガニの棒肉の存在感に圧倒される“幻の駅弁” たらば寿し  釧路駅

 2006年に放送されたテレビ番組「日本全国最強駅弁!」で1位を獲得。放送の翌日からは、販売を開始して5分ともたずに完売するため“幻の駅弁”と称された。現在も人気は高く、デパートの駅弁大会では買い求める客が長蛇の列をつくる。

 パッケージの中央部分を八角形に切り取り、透明フィルムを貼って弁当の中身が見えるようにした。太いカニ脚が丸見えになっており、カニ好きには「辛抱たまらん」風情だろう。

 中身は、硬めに炊いた酢飯の上に錦糸玉子を敷き詰め、中央に特大タラバガニの棒肉を存在感豊かにレイアウトした。周囲を彩るのはサーモン、カニフレーク、昆布巻などの海の幸。漁港近くの食堂で見かける豪華海鮮丼のようなゴージャス感がすばらしい。

 酢通ししただけのカニは、素材の旨みが十分に生かされており、噛むほどに甘みがじわりと口中に広がる。酢飯との相性もよく、車窓を楽しむ余裕もないまま、あっという間に平らげてしまう。まさに“幻の駅弁”の名称にふさわしい仕上がりである。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

かつて走った夜行急行「まりも」を知っていますか
  • 価格:1480円
  • 種類:海鮮系
  • 調製元:(株)釧祥館
  • 電話:0154-22-9460

「B-1グランプリ」1位の鳥もつ煮を使った一品 甲州とりもつべんとう 小淵沢駅

 ぜいたくを極めた豪華な内容から、家庭の手料理のような庶民的な味覚まで、幅広く味わえるのが駅弁の魅力。そこで今回は、B級感満載の駅弁を紹介する。

 内容は、新潟県産のご飯を使った茶飯の上に鳥もつ煮、鶏そぼろ、錦糸卵をのせた弁当で、副食には人参煮、里芋煮、きゃらぶき、あつみかぶ酢漬などを添えている。おかずのメーンは甲府名物の鳥もつ煮。昨年開催されたB級グルメの祭典「B-1グランプリ」で1位を獲得して一躍脚光を浴びた料理だ。調製元の丸政は、鳥もつを使った「甲州鶏めし」を以前から販売しているが、鳥もつを主役にした駅弁を食べたいという世間の声に押されて開発に着手したという。

 駅弁に使われている鳥もつ煮は、甘辛い醤油ダレに浸けた鶏レバーと砂肝を強火で照り煮したもの。味付けは濃厚だが、臭みは見事に取り除かれているため、レバー嫌いの人も受け入れられるはず。栄養たっぷりで夏バテ防止にも役立つ素材をふんだんに使った駅弁。むさぼるようにガシガシ食べるのが似合いそうだ。

■「トレたび」おすすめプレイバック■

長野の列車と温泉を愉しみつくす旅!
  • 価格:880円
  • 種類:肉系
  • 調製元:(株)丸政
  • 電話:0551-36-2521
※掲載されているデータは平成23年9月現在のものです。

 

女王PROFILE 小林しのぶ 旅行ジャーナリスト・エキベニスト・駅弁愛好家

 駅弁の食べ歩きは20年以上に及び、食べた駅弁の数が5000を超えることから"駅弁の女王"と呼ばれる。全国各地の調製元と新作駅弁の共同開発を手がけるほか、新聞、雑誌、ウエブ等に連載多数。プロデュースした駅弁は「1000号はっこう弁当」「東京もちべん」(東京駅)ほか。

 フードアナリスト。日本旅のペンクラブ会員。千葉県佐原市出身。

 近著に『全国美味駅弁 決定版』(JTBパブリッシング)、『五つ星の駅弁』(東京書籍)、『どんぶりこ』(交通新聞社) 、『超いまうまい帖』(ぶんぶん書房)、『すごい駅弁!』(メディアファクトリー)などがある。NEXCO東日本で展開している「どら弁当」の監修者でもある。

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