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2025.11.25ジパング俱楽部これは知っておきたい!低山ハイクの「前提3カ条」|低山トラベラー・大内征

眺めのよい低山から町を見れば、意外な“再発見”があるかもしれない


高く険しい山に行かなくても、身近な自然のなかに“非日常”と“再発見”を楽しめるのが低山ハイクのいいところ。

都市部から近い低山はとくに人気で、なかでも公共交通機関でアクセスできる山は、ことさら魅力的だ。 下山後に地元の温泉やグルメを楽しむ時間もある。車の運転がないのをいいことに、駅の近くで一杯やって帰れるのもうれしい。

旅好きの多いジパング倶楽部の読者のみなさんにも、基礎知識を持って、列車で行ける魅惑の低山ワールドをぜひ味わってもらいたい。


そもそも低山ってどんな山?


明るい森の中を歩く。心が穏やかになる貴重な時間 明るい森の中を歩く。心が穏やかになる貴重な時間

低山の標高には厳密な定義がない。とびぬけて高い富士山を除けば、日本アルプスの3000メートルあたりが高山のラインといえる。これをひとつの基準として山を「低」「中」「高」に分類すると、おおむね1000メートル以下の山を低山と呼ぶことができるだろう。

その低山には、個性的で文化的な山が多い。たとえば、低い山には人の営みが色濃く残っているもので、連綿と続いてきた山の暮らしの風景があり、歴史や文化といった物語がある。神社仏閣や里の信仰の痕跡、古代遺跡やナゾの建築物、戦国時代の逸話や山城といった、その山ならではの風土に触れることができるおもしろさがある。

巨木や巨石、季節を告げる花や珍しい昆虫、思わぬ自然現象や“低い絶景”などなど、日本の魅力を、そして地元の素晴らしさを再発見できる瞬間に満ち溢れている。山と掛け合わせるテーマや目的次第で、楽しみ方は十人十色。低山には、日常生活では触れることのない知的で意外性のある発見と喜びがあるのだ。

歩くだけで心身が浄化されていく感覚もまた、低山ならではの素晴らしい効能。なんでもない山道にそよ風が吹いたときや、木洩れ日が葉や花を照らした瞬間、日本らしい田舎の素朴さに懐かしさを感じた時など、ありふれた風景にこそ心を動かされてしまう。齢を重ねてなお自然に感化される“新しい自分の一面”を再発見したときの喜びたるや。山歩きをはじめてよかったと、心から思える瞬間である。

低山ハイクを楽しむ「前提」3カ条

低山というと、手軽で気楽な山登りというイメージがあるだろう。しかしながら、低山とはいえ山は山なのだ。向き合い方を誤ると、思わぬ失敗をしてしまうことだってある。そこで、低山を歩く時に守ってほしい「前提」について、お伝えしたい。

1.登山計画は「早出早着(はやではやつき)」を心がける


樹木に覆われ、空を隠された低山の登山道。暗くなるのが早いのは当然だ 樹木に覆われ、空を隠された低山の登山道。暗くなるのが早いのは当然だ

山の中は、暗くなるのが本当に早い。たとえヘッドランプを持っていたとしても、暗い中で山を歩くことに慣れていなければ、漆黒の闇が恐ろしくなってしまい前進は困難を極める。転んだら一大事なのだ。時間的に動物の気配も濃い。

したがって、なるべく朝早くから行動をはじめ、日のあるうちに“安全地帯”まで到達しておくことが重要となる。はたして下山後の寄り道時間も確保できるのだから、早い行動は一石二鳥なのだ。

2.登山用の地図と仲よくなって「道迷い」の回避を


マメに立ち止まり、地図アプリで自分の現在地と登山コースを確認する マメに立ち止まり、地図アプリで自分の現在地と登山コースを確認する

山に入る前の計画段階から、地図は大いに役立つ。その山の周辺になにがあるのかを知る手立てになるし、今回のコースがどういう道順で、どの方角に向かい、どんな軌跡になるのかも、あらかじめ知ることができる。

とくに分岐に差し掛かったときの進路をどちらにとるのか、地図と計画があれば迷うことはない。結果、それが「道間違い」や「道迷い」の回避にもなる。そして、今日はどれくらいの距離を何時間かけて歩くのかも、事前に知っておきたい情報のひとつ。自分の体力にかかわってくるからだ。

コース時間を計算できる登山用の地図が一番有効だけれど、まずはどのような地図でもいいので入手しよう。山の全体像を把握して、作戦を考えるためだ。

現場では紙の地図と併せてスマートフォンが頼りになる。登山用の地図アプリを使うことによって、地図に表示される登山道から自分の位置が外れていないかを確かめることができるから、便利なことこの上なしだ。外れていた場合は、すみやかに元のコースに戻る必要がある。マメに地図を確認することによって、効果的な道迷いの防止策になる。

3.歩いているときは「ながら禁止」を肝に銘じる


たとえ低山でも多様な地形が出現する。とくに下りは事故が起きやすい。足もとに集中すること たとえ低山でも多様な地形が出現する。とくに下りは事故が起きやすい。足もとに集中すること

山道は、基本的に自然道だ。凹凸のないアスファルトの舗装路とは異なり、砂地や砂利、土や泥、草地や湿地、崖のようなガレ場や岩場などなど、じつに多様な地形と道がある。うっかりすると思わぬ事故につながるから気を付けたい。たとえば石や枝に乗ると滑るし、岩や木の根につまずけば前につんのめる。なにかに気を取られ“ながら”よそ見をすると、危険な転び方をする。もし、その2歩なり3歩なり先が崖だったとしたら……。滑落や転落という重大な事故になることは、想像に難くない。

人並み以上に山を歩いているぼく自身の失敗を告白すると、後ろの人との会話の流れで、ふと“振り返りながら”歩いてしまったことだろうか。この不用意な一歩で足元に落ちていた枝に気が付かずに踏んでしまい、派手に転んだ。ずいぶんとひどい捻挫だった。

こうした失敗に「山の高さや低さ」はまったく関係ない。まず自分の足元のわずかな障害物に注意を払う必要があるということだ。ながら歩き、ダメ、ぜったい。