トレたび JRグループ協力

2025.11.25ジパング俱楽部これは持っておきたい!低山ハイクの「基本装備4点」|低山トラベラー・大内征

  • トップ画像は左からレザー製の登山靴、トレイルランニング用のシューズ、一般的なスニーカー

高く険しい山に行かなくても、身近な自然のなかに“非日常”と“再発見”を楽しめるのが低山ハイクのいいところ。

都市部から近い低山はとくに人気で、なかでも公共交通機関でアクセスできる山は、ことさら魅力的だ。 下山後に地元の温泉やグルメを楽しむ時間もある。車の運転がないのをいいことに、駅の近くで一杯やって帰れるのもうれしい。

旅好きの多いジパング倶楽部の読者のみなさんにも、基礎知識を持って、列車で行ける魅惑の低山ワールドをぜひ味わってもらいたい。


低山ハイクに欠かせない「基本装備」4点

段取りと装備次第で、よりよい山歩きになることは間違いない。段取り八分だ。だから、欠いては困る山道具や準備について知っておくことは、これから続けていく低山ハイクの質を上げることに一役買ってくれる。

低いとはいえ、山は山。山中で自分自身が困ることのないように、装備の基本について覚えておこう。

1.登山靴


レザー製の登山靴(凹凸のあるソール、防水)、トレイルランニング用のシューズ(凹凸のあるソール、非防水)、一般的なスニーカー(凹凸のないソール、非防水) レザー製の登山靴(凹凸のあるソール、防水)、トレイルランニング用のシューズ(凹凸のあるソール、非防水)、一般的なスニーカー(凹凸のないソール、非防水)

足に合っていない登山靴は、靴ズレを起こす主たる原因となる。あまりの痛みでついには一歩も出なくなるから、靴選びは大切だ。一日が台無しになってしまうことのないように、自分の足や歩き方に合った登山靴を必ず選びたい。

万能だと思われがちなスニーカーは、自分自身を困らせてしまうかもしれない厄介なアイテムだ。というのは、舗装路を歩くならとくに問題ないスニーカーでも、乾いてザラザラになった砂地の山道ではとにかくズルリと滑るのだ。傾斜のある下り道でこうなると怖すぎる。たとえ見上げる空が晴れていても、前夜に降った雨が乾かずに、山道は泥や水たまりになっている場合もある。そんな状況において、スニーカーは役に立たないことが多い。

理想は、山歩き用に作られたシューズ。滑りにくいソールを備え、ちょっとした雨でも靴の中が濡れないタイプのものを選ぶと、はじめのうちは安心だ。とはいえ、本特集で取り上げるような低山なら、頑丈なレザーの登山靴でなくても大丈夫。

たとえば、トレイルランニング用のシューズでも山歩きはできる。ただ、山道での歩き方や足の置き場を考えながら進まなければ、スニーカーと同じようにストレスになるので気を付けよう。乾きやすいけれど、雨にもすぐ濡れる。個人的には、頑丈な登山靴とトレイルランニング用のシューズを併用し、目的や登山道のタイプによって選んでいる。

もし新しい靴を購入したならば、事前に試しておくのがベター。自宅の近所でもいいし、公園でもいいから、少し歩いてみるといい。山歩きの本番で靴ズレが起こってしまってからでは遅いのだ。そんな万が一のときのためにも応急処置のできるファーストエイドキットも常備しておこう。自分で手当てをして下山するために。

2.防風・防水対策


風のない少雨で、かつ、舗装された歩きやすい道の場合は、折り畳み傘が有効なこともある 風のない少雨で、かつ、舗装された歩きやすい道の場合は、折り畳み傘が有効なこともある

肉体を濡らすことは、身体の芯まで冷やすことに直結する。これは非常に危険なので、できるだけ避ける工夫が大切だ。

たとえば雨に対しては、レインウェアのような防水ジャケットを着用することによって対応することができる。ただし、そうした衣類は密閉性が高いため、動かし続ける身体の発熱・発汗によって蒸れることがある。ひどい時は衣類がぐっしょりと濡れてしまう。こうなると不快でしかないばかりか、気化熱という現象で低体温症を招く原因にもなりえる。これには気を付けなければならない。

したがって、レインウェアを購入するときは、防水性とともに透湿性も高いモデルを買うことを推奨する。防水性は外からの雨風を防ぎ、透湿性の高さは内側の汗と湿気を放出する機能を意味する。この機能が優れたレインウェアは、想像以上に快適な状態を作ってくれるだろう。雨の低山ハイクだって好きになるかもしれない。

ちなみに、登山靴も防水仕様のものが安心。とくに秋冬シーズンは、靴の中を濡らすことは指先の致命傷となる。

3.ザック


旅先の日帰りハイクでよく使う30リットルのザック(筆者本人の私物) 旅先の日帰りハイクでよく使う30リットルのザック(筆者本人の私物)

低山ハイクに必要なものを入れるバッグとしては、背中で背負うタイプのザックがもっとも適している。荷物の重量が両肩に分散するデザインなので、負荷を軽減させることができるからだ。同時に、両手を空けて行動することができるため、バランスをとろうとなにかを掴んだり、転んだときに両手で受け身をとることがしやすい。

これがショルダーバッグやトートバッグの場合、荷物自体がブラブラするので不安定。中身が出てきて紛失するリスクも否めない。専門店に足を運び、自分の目的にあった容量と形状、体型にあった背面長のザックを、ぜひ手に入れてほしい。

4.緊急用のお守り


左から国内メーカーの熊スプレー、ドイツ製の熊スプレー、熊鈴とホイッスルはセットで持ち歩く 左から国内メーカーの熊スプレー、ドイツ製の熊スプレー、熊鈴とホイッスルはセットで持ち歩く

繰り返すけれど、低山とはいえ、山は山だ。苦境に陥ったら自力で対処しなければならないことを念頭に準備をしよう。

① ヘッドランプ

山は想像以上に暗くなるのが早くて怖いという意見は、本当に多い。ヘッドランプを必ず持つ理由はそこにある。頭に装着するから両手が空くし、うっかり落とすことも少ない。顔を向けた方向を常に照らしてくれるから機能的だ。忘れてはならないのが、自宅でバッテリーや電池の残量を確認すること。暗い山中でいざ点灯というときに電池切れだったときの絶望感は、絶対に味わいたくない。

ちなみに、手に持つタイプの小さなマグライトは落としてしまう可能性がある。予備として持つのはいいけれど、メインにするのは避けたいところ。

② スマートフォン用の予備バッテリー

山中で登山地図アプリを使うことを前提にすると、電池の消耗に備えるためにも必携アイテムの筆頭格だといえる。情報収集や連絡手段として唯一の、緊急時のライフラインなのだ。バッテリーがなくなれば、どうすることもできない。そんな絶望感も、絶対に味わいたくはない。

③ クマ対策

昨今のクマの出没傾向をうけて、世にはさまざまな論説が出始めた。なにが本当かは分からないという前提ではあるものの、工夫できることはしておくことが大事ではないだろうか。登山業界で長らく通説となってきた「熊鈴、ホイッスル、熊スプレー」の三種の神器は、もはや必須アイテムだといえる。

クマとの遭遇において、一番避けたいのは至近距離でばったり遭遇すること。そうなるとクマは反射的に攻撃してくる可能性が高いだろうし、人間は驚きのあまり固まってしまうことが容易に想像できる。これは非常に危険だ。

そうならないためにも、歩行中は熊鈴を常用しつつ自分の気配を音で“主張”し、周囲の様子をよく観察することだ。マメにホイッスルを鳴らして歩いたり、ペットボトルをベコベコと潰す音をたてたり、誰かと話しながら歩いたりしよう。どれも絶対のクマ避けになる保証はないものの、遭遇する前から自然界に存在しない音を出して相手に違和感を与える、気が付いてもらうという姿勢は、無意味だと言い切れないと思うのだ。

加えて、万が一に備えた熊スプレーの常備も検討したい。個人的には、アメリカやドイツで製造・認証されたペッパースプレーとペッパージェルを所有している。いささか高額だけれど、過去に岩手県と奈良県の山中で威嚇された経験があるので、お守りとして持つようにしている。

低山ハイクの磨き方


お気に入りのホームマウンテンを作って、山歩きに慣れていこう お気に入りのホームマウンテンを作って、山歩きに慣れていこう

リスクもあるけれど、それ以上の魅力にあふれた低山ハイク。身近な自然に身を置く喜びや、旅先で見聞を広げる楽しみが、人生を豊かにしてくれることは間違いない。

やりはじめのうちは、人の多い人気低山から始めるのがいい。人目が多いことは、問題が生じた場合に助けを求めることができる裏返しでもある。ちょっとした助けが欲しいときに誰もいないような山だと、初心者にとっては辛い状況になるだろう。

そこで、まずはお気に入りのホームマウンテンを作ってみよう。ホームマウンテンとは、季節を変えたり装備を変えたりしながら何度でも通える山のことだ。学習ドリルと同じで、同じことの反復練習は、山歩きを続けるうえでの基礎を向上させてくれる。その経験が成長を助けてくれもする。体力だってつく。悪いことは、なにひとつない。

慣れてきたところで、いよいよ遠出だ。日本中の低山を訪れてみるのだ。遠くの旅先にある低山に夢中になれれば、従来の「観光旅行」に「低山ハイク」という新しい要素がプラスされる。山が、旅が、何十倍にも楽しくなるはずだ。

さて、そんなぼく自身はというと、こうした低山ハイクを「低山トラベル」と呼び、旅と山歩きを楽しんでいる。山歩きをはじめて20年近くになるけれど、それでも飽きることはないし、むしろ新しい発見に恵まれて、行きたい低山と町がどんどん増えていく一方だ。

もっと早く始めていればよかった……と、思わないではないけれど、これまでの年齢と見聞の積み重ねがあってこそ、健康的で文化的な山旅に熱中できるとも思うのだ。問題があるとしたら、熱中のあまりほかのことがおろそかになってしまうことかなあ。


大内 征(おおうちせい)

低山トラベラー、山旅文筆家。

山里の歴史文化を辿り、ローカルハイクと低山ワールドの魅力を探究。NHKラジオ深夜便「旅の達人 低い山を目指せ!」10年目、熊野古道・サンティアゴの道 共通巡礼アンバサダー。