トレたび JRグループ協力

2021.10.25ジパング俱楽部泉麻人さんが選ぶ! 私の好きな神保町4選【御茶ノ水編集室より】

町の歴史に造詣が深い泉麻人さんが教える、神保町の好きな風景

会員誌「ジパング倶楽部」を作っている東京・御茶ノ水の編集室から、誌面では紹介しきれなかった専門家のお話や、取材のこぼれ話など、ここでしか見られない情報を発信していくコーナーです。

今回は、11月号の特集「本屋を旅する」で本の町・神保町を一緒に歩いたコラムニストの泉麻人さんに登場いただきます。

町歩きや東京の風景を主なテーマに執筆されている泉さんが、歴史と魅力たっぷりの町・神保町を散策。本屋だけではない、泉さんが好きな神保町の風景を教えていただきました!


【教えてくれたのはこの方!】泉麻人さん

いずみ あさと 1956年、東京生まれ、東京育ち。

著書に『東京いつもの喫茶店』『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』など。

町歩きが趣味で、「東京新聞ほっとWeb」で散歩エッセーを執筆中。

1980年代の時代を体感できるコラム『泉麻人自選 黄金の1980年代コラム』を今年10月下旬に発刊。

神保町交差点の3軒2階屋


神保町交差点。角に対して斜めに切り取られた感じの建物が残る


1990年代に撮影された「セレクト・イン・キムラヤ」の風景。泉さん撮影

泉さんのコメント

白山通りと靖国通りが交差する神保町の交差点こそ“神保町らしい”といえるかもしれません。
なんてヘンな言い方ですが、この四つの角のうち、岩波神保町ビルを除いた三つの角は今も背の低い2階建ての建物で、角に対してナナメに切り取られた間口の感じがとてもいい。
ひと頃まで<セレクト・イン・キムラヤ>と1階を押しつぶすようなバカデカイ看板を出していた北西角のディスカウント店の外観はちょっとソフィスティケートされちゃいましたが、北東角には集英社文庫と新書の看板を上に掲げた「宝くじセンター」が、南東角には昔ながらの洋館風情を留(とど)めた「廣文館書店」が健在です。この本屋さん、たぶん終戦直後くらいからそのままの建物なんじゃないかな? ここの店頭に並んだ、安値の名作洋画DVDのパッケージをチラッとチェックするのが神保町散策の“お約束”になっています。

写真の景色が見えるスポットへのアクセス

中央本線御茶ノ水駅から徒歩約8分。今もあるドラッグストア「キムラヤ」の看板が目印です

富士レコード社 神田古書センター店


神田古書センター内にある中古レコード店。泉さんがゲットしたレコード盤は今では非常にレアで、在庫がないそう

泉さんのコメント

神田古書センター(つい神保町古書センターと言ってしまう)もよく立ち寄るスポット。
昭和のマンガ、というより絵本や学習図鑑、児童向けの伝記本……なんかが充実した「みわ書房」(5階)、僕のひそかな趣味である昆虫本の古書のある「鳥海書房」(3階)、そして最上階の9階に入った「富士レコード社」。
だいたいエレベーター(書泉と同じく外が見えます)で9階まで行って、富士レコードの物色からこのビルの探索はスタートします。
富士レコードの入口のあたりはクラシックのSP盤なんかが中心ですが、その先に、歌謡曲やニューミュージック、ロックなどなど、僕のテリトリーのレコードがあります。ここでゲットしたシングル盤で強く記憶に残っているのが、『ソウル若三杉』(ドクター南雲とシルバーヘッドホーン)という一枚。ディスコブームが始まった77年に、時の大関・若三杉(のちの二代目若乃花)のことを歌ったダンサブルな珍盤であります。

富士レコード社 神田古書センター店へのアクセス

御茶ノ水駅から徒歩約12分。

神保町シアター


1スクリーン、65席の映画館。2階は「よしもと漫才劇場」になっている


2008年度グッドデザイン賞を受賞した近代的な建物

泉さんのコメント

「三省堂」ウラのすずらん通りの横道に「神保町シアター」がオープンして、もう15年くらいになるでしょうか。東京のレトロ系ミニシアターとしては、「ラピュタ阿佐ヶ谷」と「シネマヴェーラ渋谷」とここが御三家、といっていいかもしれない。
ロビーのラックには、これらの館で特集される古い映画(主に日本映画)の解説付きのチラシが置かれていて、映画を観なくても、こういうのを読むだけでなかなか楽しい。ちょっとした資料にもなる。
ここで何本もの昭和の邦画を観たけれど、他界した坪内祐三さんと2、3年前に『東京五輪音頭』を観たことを思い出す。無論、1969年の東京オリンピックにちなんだ娯楽映画で、三波春夫が“三波春夫にそっくり”という設定のスシ屋の板前を演じていたりする。
映画はともかくとして、終了して外へ出ようとした時、川本三郎さんと平山周吉さんという、いかにもこの種の映画を観ていそうな二人とバッタリ会ったのがおかしかった。

神保町シアターへのアクセス

御茶ノ水駅から徒歩約8分。

錦華公園


このあたりの地形を物語る公園の崖道。崖の下には小さな池が


崖の上には1954年創業の「山の上ホテル」。池波正太郎や松本清張、伊集院静など数多の文人に愛された宿

泉さんのコメント

JRの御茶ノ水駅から神保町へアプローチする時、明大の横から「山の上ホテル」の前を通って、この錦華(きんか)公園の崖道を下っていくことがよくあります。
駿河台の南西端にあたるこの崖は、従来の山の手と下町との境界がよく分かる場所。公園の崖の淵に小さな池がありますが、おそらくもとは崖下に自然に湧き出した湧水地だったのでしょう。
現在は改修工事中で雑然としていますが、遊具の佇(たたず)まいからして昔の東京公園の雰囲気が漂っています。
ちなみに「錦華」の名は隣接するお茶の水小学校の旧名(錦華小学校)からきたものらしく、明治の頃のイメージ的なネーミングともいえる。錦華小学校は夏目漱石が通っていた、という記録もある名門。この名が町名に採用されたことはないようだけれど、錦華坂とか錦華通りとか、周辺のいくつかの場所に錦華ネームが見受けられます。

錦華公園へのアクセス

御茶ノ水駅から徒歩約5分。

次回予告

次回の「御茶ノ水編集室より」は11月25日更新の予定です。
12月号特集「駅長さんが教えるわが駅、わが町」で登場する東京駅周辺の、渋沢栄一ゆかりのスポットについて紹介します。
お楽しみに!!


そのほかの「御茶ノ水編集室より」