2024.10.07ジパング俱楽部歌声を合わせてひとつになれる、喜び溢れるコーラス |定年後が楽しくなる新しい趣味
定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第3回のテーマは「コーラス(合唱)」です。
ほとんどの方が幼少期から親しんできたであろう“歌うこと”。自分の声一つで音楽表現ができる気軽さもあり、シニア向けのサークル団体は数多くあります。「歌をうたって元気に」を合言葉に活動を続けるサークル「歌ごえコーラス」の主宰・講師の加藤さんに話を聞きました。
加藤千秋さん
ひとりひとりの歌声が重なり融け合うハーモニー
とある公共施設、音楽室へ向かう廊下から男女混じった楽しげな合唱が聞こえてきます。この日は「歌ごえコーラス」の練習日。楽譜を手にして朗々と歌う人たちと向かい合い、指揮をしながら指導しているのが加藤千秋さん。こちらはどんなサークルなのでしょう。
始まりはご近所さんの集まりから
加藤さん 最初はご近所さんの集まりサークルだったんです。私が板橋区内のレストランでコンサートを行なったのを機に、ご近所の方々によるコーラス隊が生まれました。一時中断したのですが、「また歌いたい」との声が挙がって、2015年から「歌ごえコーラス」という名で再出発しました。
当初8名ほどの会員数は今では36名となり、年齢層も幅広く55~90歳。電車やバスを使って区外から通うメンバーもいるのだとか。肩ひじ張らない和気あいあいとした雰囲気のなか、毎月2回の練習に励んでいます。毎年11月に板橋区で開かれる「合唱のつどい」での発表をはじめ、老人ホームなどへの出張演奏もしているそうです。
ひとりだけでは味わえない感動が
――コーラスの魅力とは?
加藤さん ひとりで楽しめる趣味や娯楽はたくさんありますが、ひとりではできないのが合唱。合唱が持つ最大の魅力は「たくさんの声が重なることで生まれる音色の美しさ」にあります。ひとりひとりの歌声は小さくても、集まって溶け合うことで広がりと深みのある響きが生まれます。練習を重ねることで少しずつできるようになり、きれいにハモれた瞬間は本当に気持ちがいい。さらに、人前で歌って拍手を受けた時の高揚感と感動は忘れられなくなりますよ。
音楽を通して生活に張り合いが生まれる
普段では味わえない非日常の時間も
「歌ごえコーラス」のメンバーの方々は、なぜ、どのような思いで参加しているのでしょうか。
笹岡道子さん、黒澤昭(てる)子さん、菊地俊明さん、水野誠一さんにも話を聞きました。
笹岡さん 私は90歳になりましたが、小学生の頃から歌が好きで高校時代もコーラス部に所属していました。合唱はもちろん楽しいですが、毎回みなさんと集まってお話できることも楽しみなんです。
黒澤さん 騒々しいカラオケは苦手ですが、合唱は別。みなさんと合わせて歌うのは好きですね。でも声を合わせるのって難しくて、加藤先生の指導についていくのが精一杯。だから褒められた時はうれしいですね。
菊地さん 練習の成果を発表する本番は、いい気分ですよ。観客は大勢いる、自分は正装に身を包む、そういう非日常の時間は普段なかなか味わえませんよね。緊張しないかって? ええ、ひとりじゃないですからね。自分はその他大勢ですから緊張はしません。ひとりで歌うのとは全然違います。
ひとりでできる趣味のほうが簡単に始められそうだと思う方は多いと思いますが、歌が好きならこういうサークルに入るのはおすすめです。自分の趣味が生かせますし、人の輪もできます。
水野さん 以前は男声合唱の団体に所属していましたが、しばらく中断していたんです。健康のために再び合唱したくて、今日はこちらに体験参加しました。やっぱり、上のパートと下のパートが重なるときれいだなあと思いますね。うまく歌いきれた時の達成感もたまりません。ただ、自分の場合は練習でうまくいかない部分は本番でもうまくいかないことが多いので、落ち込むこともあるんですけどね……。
加藤さん コーラスのハモりというのはなかなかすぐにはできませんから、特に初めての人はできなくて当然。できるところは大きな声で、難しいところは口パクからでもいいのです。回数を重ねることで上達しますし、何より仲間が助けてくれます。
だから、100点満点じゃなくてもいいじゃない! 70、80点でもできれば万々歳です。本番はいかに気分を乗せられるかが大事。乗ったもんがちですよ。
褒められたり緊張したり達成感を味わったり……。感情を揺さぶられ、さまざまな経験ができる「歌ごえコーラス」の活動は、音楽を身近に楽しめるだけでなく、日常生活に張り合いも与えてくれるようです。
歌うことは心も体も元気になれる健康法
誤嚥(ごえん)防止に脳の活性化も!?
シニア世代にとってコーラスを趣味にすることはどんなメリットがあるのでしょうか。
加藤さん コーラス、つまり歌うことは誰でも体ひとつでできて、心も体も元気になる健康法のひとつです。自分の声を楽器にして、自分の思いを音に、言葉にすることで「幸せホルモン(若返りホルモン)」が分泌されてストレス発散ができます。
また、年を重ねると身体的な運動機能が低下するのですが、歌うことで腹筋、横隔膜(おうかくまく)、肺呼吸が鍛えられます。口腔(こうくう)機能にも効果的で、大きく口を開けることで、のどや唇、舌など口まわりの筋肉が鍛えられ、食べ物をのどに送り込む力も強化され誤嚥防止につながります。
歌詞を読むこと、歌詞を思い出すこと、音程やリズムを感じ取ること、音を聞き分けることなどを通して、耳の能力の強化、脳の活性化も行なわれます。
それから気持ちも違います。一人じゃない、ここにくれば仲間がいる、さあ出かけよう、今日も頑張ろう、という前向きな気持ちが生まれるのも心身の健康につながるのです。
自然と育める協調性
歩み出して今年で10年目を迎えるという「歌ごえコーラス」。続けてきたことでメンバーの変化も感じると加藤さんはいいます。
加藤さん 初めて取り組む曲は音をとることが難しいので心が折れがちになるのですが、それでも今は自然と各パートで助け合い、励まし合い、メンバーみずから一緒に乗り越えようとする協調性が育まれている気がします。この協調性はハーモニーを奏でる時にもとても役に立ち、楽しんで歌えるようになるのです。
また、みなさんだいぶ舞台慣れしてきたのか、度胸がついたと思います。生活面も含めていろいろなことに自信を持って行動できるようになったのではないでしょうか。
歌唱力だけではなく内面の成長も期待できるのはうれしいですね。
コーラスの楽しさを発信したい
――今後の活動の目標は?
加藤さん 目下の目標は、「合唱のつどい」でのお披露目! そしてみなさんがずっと健康で笑顔で集まれるような環境を整えたいです。コーラスの楽しさをもっと発信したいので、出張演奏やコンサートも開催したいですね。
声を合わせて音楽を奏でることの素晴らしさ。いきいきと取り組むみなさんの姿を目の当たりにすると、いっそうコーラスが魅力的に映るのでした。
コーラスを始めたい人へ、加藤さんの考える「コーラスの3ステップ」
好奇心と勇気を持って行動あるのみ。コーラスのイベントやコーラスサークル、歌声喫茶のような活動などはたくさんあるので、身近な自治体などで情報収集をして見学・参加してみましょう。いろいろな団体を知ることで、レベルやカラーが分かります。ひと口にコーラスといっても、女声コーラス、混声コーラス、男声コーラスなどと分野も分かれるので、自分がやりたいことも絞り込めるはず。自分にとって居心地のいい場所がきっと見つかります。
現代は無言で買い物もでき、1日何も喋らず暮らせる時代ですが、歌うためには日頃から声を出すことが大事。とくに歌の音域は喋る音域と違って広いので、高音から低音まで声を変えてとにかく発声しましょう。テレビに話しかけてもいい、返事をするだけでもいい。好きな歌が流れてきたら一緒に歌うといいですよ。
楽譜の読み方が分からなくても、呼びかけに対して同じトーンで返せる“オウム返し”ができれば大丈夫。周りの声をしっかりと聴いて歌うことで、音の上がり下がりも分かるようになります。コーラスはひとりじゃない、みんながいます。一緒に頑張ろうという気持ちで臨めばおのずと楽しめますよ。
文/下里康子 写真/オカダタカオ