2024.10.30ジパング俱楽部初心者もOK。介護予防にも⁉ 登頂の喜びだけではない低山ハイキングの魅力 |定年後が楽しくなる新しい趣味
定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第4回のテーマは「山歩き」です。
「若い頃は行ったなあ」という方も多いのではないでしょうか? ひと口に山歩きといっても、高い山に挑む本格的な登山もあれば、なだらかな低山を歩くハイキングもあり、楽しみ方はさまざま。
登山初心者でも気軽に始めやすい低山ハイキングを中心に行なうサークル「こまくさ歩こう会」の菊島公明(きみあき)さんに話を聞きました。
菊島 公明さん
四季折々で見どころがあり、訪れるたびに表情が変わる山の楽しさ
退職後の今だから自由に行動できる
山梨県笛吹(ふえふき)市出身の菊島公明さん。山は常に身近な存在だったといいます。
菊島さん 周りを見渡すといい山ばかりで、南アルプス(赤石山脈)に八ヶ岳、奥秩父の金峰山(きんぷさん/きんぽうさん)、それから大菩薩嶺(だいぼさつれい)……。
小さい頃は「あの山の上から下を見たらどういう感じなんだろう」と思っていましたね。
小学校時代の遠足は三ッ峠山でしたし、その頃から友達や親戚の人と小さな山には行きました。
だから自分が山を好きになったのは、そんな生まれ育った環境が大きいのかなと思います。
――それからずっと登山を?
菊島さん 継続できたわけではありませんが、山には行っていましたね。ただ、社会人になると、勤務先が日曜日しか休みがなかったので思うようには行けませんでした。やはり、退職してからのほうが自由に行動できています。
南アルプスで満天の星に感動
――今までで思い出に残っている山は?
菊島さん 大きい山に登り始めた高校1年の時、先輩と行った南アルプスの鳳凰三山(ほうおうさんざん)ですね。
地蔵ヶ岳、薬師ヶ岳、観音ヶ岳という3つがあるんです。
夜中とにかく寒くて寝られなかったのですが、山小屋を出た時のその星のきれいなこと! まさに満天の星で、すごく印象に残っています。
最近では、山梨の竜ヶ岳(りゅうがたけ)へ、冬のダイヤモンド富士を体験しようと登りました。
本当に富士山の真ん中から太陽が上がって感動しました。ただ、スマートフォンを車内に置いてきてしまい写真を撮れず(笑)、それが残念でした。
菊島さん 5月の連休に残雪の山に登るのも好きですね。
会津駒ヶ岳では、木の上まで雪が残り一面何も見えない真っ白さでとても素敵でした。
ですが、雪が多すぎてどうしてもルートが分からないこともある。
そういう時は諦めます。引き返す決断も時には必要です。
山というのは本当に四季折々で見どころがあり、同じ山でも訪れた時によって表情が変わるのがいいですね。
それに、山には楽しむ目的もいろいろありますよね。写真を撮る楽しみ、花や木を見る楽しみ、野鳥を探す楽しみ、夜なら星空観察の楽しみとか……。
登るだけではない楽しみの宝庫、それが山の魅力なのですね。
達成感や自信を得て、「また山に行きたい!」と思えるように
月1回、首都圏近郊の低山歩きへ
現在、菊島さんは「こまくさ歩こう会」の会長として、仲間と首都圏近郊の低山歩きを楽しんでいます。
菊島さん 会員は現在95名、男女比は2対8ほどで圧倒的に女性が多いです。
年齢層は60代が中心ですね。活動は毎月2回で、創立当初は2回ともハイキングをしていたのですが、近年、私も含めて会員みなさんの体調を考えて、2回のうち1回を里山・低山ハイキング、もう1回をまちなかウォーキングで構成するようになりました。
仲間への気遣いも大切に
――登山初心者の方が参加しても楽しめますか。
菊島さん 体験希望のご連絡をいただいたら、ざっと山の話はしますが、「われわれがしっかりフォローするのでとりあえず参加してみてください」と誘います。実際に山へ行けば、景色がよかったり達成感があったりして自信がつくんですよね。「また行きたい」とみなさんおっしゃいます。
――サークル活動を通してご自身の変化も感じますか。
菊島さん 私も経験があるのですが、こういう会に入る時、最初の一歩って勇気が要りますよね。そういう時に、たとえば、新会員さんの名前をすぐ覚えて、山歩き中もフルネームでなるべく話しかけるようにしています。周りは知らない人ばかりで緊張しているでしょうから、その気持ちを少しでも和(やわ)らげられるように、気をつけるようになりましたね。
サークル活動に仲間の存在は必要不可欠。一人ひとりに細やかな気遣いができるようになることは、円滑なサークル運営のためにも重要なのでしょう。
ジパング会員世代にとって、山歩きのメリットとは
健康維持、介護予防も目指せる
山歩きのために日常生活でもなるべく歩き、体力づくりを意識しているという菊島さん。
ジパング会員世代にとって山歩きはどんなメリットがありそうでしょうか。
菊島さん 「こまくさ歩こう会」の会則でも、「活動を通して、自分自身の健康に留意し、介護予防とする」という目的を掲げていますが、まず、歩くことは健康維持のためにいいことだと思っています。 それと、高齢者の引きこもり・孤立化の解消にも役立つと考えます。 とくに男性は多いのですが、定年退職すると、それまで築いてきた人づきあいが徐々に希薄になりがちです。 ならば地域の町会のお手伝いをしようかと思っても、日頃から接点がないのでなかなかハードルが高い。 私の場合は好きな山登りがあったから外へ出ますし、山歩きのサークルに参加することで孤立感なく過ごせています。
山仲間の居場所をつくりたい
――今後の目標はありますか。
菊島さん 会の活動拠点をつくりたいですね。山の本をたくさん置いて、いつも誰かがいて、他愛のない話も山の話もできるような、気軽にふらっと立ち寄れる居場所といいますか……。アパートの一室とか、ほかのサークルと共同とか、どんなかたちなら実現できるか想像を膨らませているところです。 山のほうは、自分の体力が続く限り、歩けるだけ歩きたいですね。
登頂するだけが目的ではない。菊島さんの話を通して、山歩きにはさまざまな目的や喜び、楽しみが、裾野の広がりのように付随しているのだと感じるのでした。
山歩きにチャレンジしたい人へ、菊島さんの考える「山歩きの3ステップ」
行ってみなければ、自分が山を好きになるかどうか分かりません。1歩目がなければ2歩目はない。とにかく山に行く機会をつくりましょう。初めからいい道具を揃える必要はなく、登りたい山に合わせた最低限の道具でOK。具体的には靴、ザック、雨具の3つは必要です。靴はスニーカーではなく山道専用の登山靴がベストです。
何歳になっても鍛えれば筋力はつくので、日頃から歩くことを優先して! 山歩きのための体力づくりとしては、階段や歩道橋、坂道などを積極的に上り下りするのが効果的です。また、ブランクのある登山経験者は自分の体力や経験を過信しがちなので要注意。準備体操やコース確認を疎(おろそ)かにすると転倒やこむら返りを起こして痛い目を見ることも。一から始めるような謙虚な気持ちで臨むべし。
一度歩き始めたら戻るか登り切って下るしかできないのが山。もし山選びに迷ったら、リスクや精神的負担を考えて、ケーブルカーなどの移動手段のある低い山へ。関東なら高尾山がおすすめです。万が一体調に異変があればケーブルカーで戻ることができますし、人出が多い分、安心です。低い山でも眺めのいい山、魅力的な山は多いので調べてみるといいですよ。
文/下里康子 写真/田中仁志 取材協力/足立区NPO活動支援センター