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2024.12.03ジパング俱楽部いつまでもしなやかに動きたい。ゆったりした動きで体を鍛え、健やかな人生の味方になる太極拳|定年後が楽しくなる新しい趣味

定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第5回のテーマは「太極拳」です。

ジパング世代からも「挑戦してみたい」という声が多く、最近ではNHKのテレビドラマにも登場した注目の趣味ですが、一体どのような魅力があるのでしょうか。

「東京太極拳協会」の教室で指導員を務める、安藤博美さんに話を聞きました。


安藤 博美さん

1958年、北海道出身。太極拳歴25年。約10年前より「東京太極拳協会」の指導員に。

主な取得資格は、東京太極拳協会1級指導員、日本武術太極拳連盟公認2段。

ルーツは中国武術から生まれた拳法

ラジオ体操のような感覚で!

太極拳とは、もともと中国武術の拳法のひとつです。民衆が自衛のために拳法を習得するうえで攻防の正確な動作をマスターする方法として、ゆったりした動きが編み出されたそうです。

第二次世界大戦後、中国で健康法体育として整理・再編されたものが世界に広まり、今や日本にも約150万人もの愛好者がいるといわれるほど普及しています。

太極拳のなかにはいくつも種類がありますが、代表的な入門用として、24の型(套路<とうろ>という)で構成される「簡化24式太極拳(通称・24式太極拳)」があります。


レッスンは時間をかけて入念なストレッチから始める レッスンは時間をかけて入念なストレッチから始める

安藤さん 簡単にいえば、24の動きをするということです。
中国武術の一部というと難しそうですが、まずは体を動かす簡単な運動だと思っていただければいいと思います。

体がだんだん変わっていく

安藤さんが太極拳と出合ったのは39歳の頃。自治体の広報紙で目にした太極拳教室の参加者募集がきっかけだったといいます。

安藤さん 私は三日坊主で飽きやすい性格なのに、太極拳は不思議と続きましたね。
体を動かすのはもともと好きでしたが、自分の体がだんだん変わっていくことはそれまで経験したことがなく、おもしろさを感じました。
水の流れのなかで綿々と続いていくような、そんな体の動きも気持ちがよくてはまっていきました。


「ボールを抱えるように」と型の説明をする安藤さん 「ボールを抱えるように」と型の説明をする安藤さん

息切れしない動きなのでマスクを着けたままでもできる 息切れしない動きなのでマスクを着けたままでもできる

太極拳はその日の体と向き合うことから始まる

悠々(ゆうゆう)と、しなやかな全身運動

現在、週2回のクラスを受け持つ安藤さん。
その様子を見学させてもらうと、まず、股関節をはじめ全身をほぐすために時間をかけてていねいに柔軟運動を行ないます。

その後、中国の伝統楽器で演奏される緩やかな専用曲を流しながら、24式太極拳を通しで取り組みます。
みなさん常時同じ向きで立っているのではなく、足を出したり引いたりを繰り返し、流れるような動きに合わせて方向は前後左右変わります。

全身を使ってしなやかに悠々と、まるで舞踏をしているかのようです。
ひと通り終えると、1つ1つの動きを確認。安藤さんは要点を簡潔に伝えながら指導を行なっていきます。

練習の様子は動画で!



前面の鏡で自分の動きを確かめられる 前面の鏡で自分の動きを確かめられる


分からないところは受講者同士で教え合うことも 分からないところは受講者同士で教え合うことも

音楽に合わせて24式太極拳を行なう 音楽に合わせて24式太極拳を行なう

小さな成長がうれしい

受講する方はどんなところに魅力を感じているのでしょう。受講者の岡部啓子さんと大石博昭さんにも話を聞きました。


岡部さん 岡部さん

岡部さん ゆったりした動きなのに全身を使ったような感覚があって、すごくすっきりするんです。始めた頃は腹筋も背筋もないから足を上げてもすぐ下がってしまいましたが、今はキープできるようになったことがうれしくて。

夫とよくウォーキングをするのですが、最近、夫の歩く速さについていけるようになったことにも気づいて驚きました。

太極拳を続けてきたことで、足の運びがスムーズになり、体力がついたと実感しています。 ただ、苦手な動きはありますし、前回できたことがうまくできない日もある。そんな時は無理せず、できることをして流す。安藤先生がよく仰る、「その日の体と向き合う」ことを心がけるようになりました。今日は膝が痛いな、じゃあ、こう立てば安全に動けるかな、と自分で考えたりして。

安藤さん そうですね。肉体は日々変わるので、その日の体の声に耳を澄ますことが太極拳では大事になります。また、体に感じる歪みも太極拳によって微調整することができるのです。


大石さん 大石さん

大石さん 私は仕事を辞めた後、68歳で太極拳を始めました。家にいるとどうしても座りっぱなしで動かないので、体にいいことは間違いないです。

何年続けていても、日々新しい発見や覚えることがあるので、奥が深くて飽きませんね。

激しい運動ではないので、運動が苦手な人こそ合っているというか、長く続けられるのではないかと思います。

場所も時間も選ばず、マイペースにできる

固くなった関節も徐々に緩み、筋力アップ

――ジパング世代にはどんなメリットがあるのでしょう?

安藤さん やはり年を重ねるとどうしても関節が固くなるのですが、太極拳を続けることで徐々に体が緩んで柔らかくなり、筋力がつき、動けるようになります。自分のなかの小さな変化に敏感になり、不調があれば対処法も身に付けられるようになります。また、太極拳教室などに参加していると幅広い年齢層の方から刺激を受けますし、人から褒められてうれしい体験もできますね。

――どのような人が向いている?

安藤さん 向き・不向きというのは指導員でも分からないんです。初めは、続けられるかな?と思った人が何年も続いたりしますから。お友達と連れ立って来る方よりひとりで来る方のほうが長く続いているように思います。 太極拳は体力も要らないし、運動音痴でも問題なし。それに、人と競ったり比べたりするものじゃない。その点も気楽です。あの人はあの人、自分は自分と、マイペースで行なうものなのです。

太極拳と出合える場は増えている

近年は、自治体のサークル活動や朝の公園など、太極拳と出合える場は増えているようです。

安藤さん ここの近くなら隅田公園や上野公園などでも行なっているようですね。参加しやすい場で体験してみて、何か物足りなくなったりさらに深めたくなったりしたら、環境を変えて技術を習得してステップアップしていけばいいと思います。

正しい動きをマスターすれば、場所も時間も選ばずひとりでも楽しめる太極拳。人生が健やかに過ごせるためのいい味方になってくれるのではないでしょうか。


東京太極拳協会のマーク。右は中国古代思想の陰陽を表す 東京太極拳協会のマーク。右は中国古代思想の陰陽を表す

東京太極拳協会のオリジナルTシャツもあり 東京太極拳協会のオリジナルTシャツもあり

安藤さんの考える、「太極拳を始めてみたい人への3ステップ」

① とにかく体験を!
 

まずは自分で体験して、太極拳はどんなものなのかを確かめてみるのが一番!

年齢を重ねると躊躇しがちですが、せっかく自分に芽生えた興味を大切にして、飛び込んでみましょう。初めからできる人はいませんし、どんな人も同じゼロからのスタート。そう思えば少しは気楽にチャレンジできるのでは。


② 靴と動ける服装と水さえあえば
 

太極拳には特別な道具はほとんどないのがいいところ。太極拳パンツや太極拳シューズなど、専用グッズはありますが、必要に応じて揃えていけば十分です。

本人が動きやすい服装で、足裏が床面にピタッと接するフラットな靴底の上履きがあればOKです。水分補給は大切に。


③ 日常生活でも体を意識
 

普段の生活でもストレッチを心がけると体が動かしやすくなると思います。 とくにお風呂上がりは筋肉がほぐれて体が柔らかいので、テレビを見ながら背筋を伸ばしたり、開脚などをしてみて。

私の場合は、歯磨きの時にちょっとつま先立ちをしてみたり、電車では座席に座らずつり革につかまってつま先立ちをしていました。

漫然と行なうのではなく、「今、この筋肉が働いている」「ここが伸びている」などと、自分の体の使い方を意識するといいでしょう。


文/下里康子 写真/田中仁志 取材協力/東京太極拳協会