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2025.03.10ジパング俱楽部椅子に座ったままでシニアも安心!幸せな人生のために必要なことが詰まっている、心と体を整える「ヨガ」|定年後が楽しくなる新しい趣味

定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第8回のテーマは「ヨガ」です。

身ひとつで始められる気軽さや、激しい運動ではなくゆったりとした全身運動であることから、幅広い世代から注目の集まる趣味で、この春に何か新しいことを始めたいという人にもぴったり。

「シニアヨガ」を実践している「日本シニアヨガ協会」の足立由喜子さんにその特徴や魅力について話を聞きました。


足立由喜子さん

1961年、広島県生まれ。夫の転勤を機に、約30年前から東京都江戸川区在住。

2016年、小岩でヨガスタジオ「マートリヨガ」をオープン。2024年、『理学療法士が教える 伸びるだけ!シニアヨガ』(藤田日菜子氏著・創元社刊)の監修を務める。

NPO法人日本シニアヨガ協会代表理事、江戸川区ヨガ協会理事長。

https://japan-senior-yoga.com/

体だけでなく心を元気に、鍛える

ヨガの歴史は5000年!


ヨガについて説明する足立さん ヨガについて説明する足立さん

およそ5000年前のインダス文明で誕生したというヨガ。
サンスクリット語で「つながり」を意味します。始まりは僧侶の修行法として座って瞑想をするだけでしたが、時代とともに動きやポーズ(アーサナ)や呼吸法が加わり、脈々と受け継がれ、近代では健康法として普及しています。

足立さん ヨガは、体だけではなく心も元気になるよう鍛えます。最終的には、人生を終える時、「幸せだったなあ。生きててよかったなあ。ありがとう」という言葉が心から出るように、心を平和にする練習がヨガなのです。

―― それは意外です。ヨガというとさまざまなポーズを取ることが第一だと思っていました。

足立さん そう、ポーズの美しさや完成度に目が行きがちですよね。
でも、そこを目指すと戦いになるのでつらくなる。ヨガは決して戦わないし、ましてや自分とも戦わない。
どちらかというとヨガは、自分の精神力・心を整えるためにポーズや呼吸法を使っていると言えます。

ヨガは「八支則(はっしそく)」という教本に則って行なわれるのですが、そこにはよりよく生きるための大事なことが詰まっています。
たとえば、「サントーシャ(足るを知る)」。
つらい時ほど「ない」ことに意識が向きますが、「つらくても命がある」「支えてくれる人がいるから私は存在するんだ」と、「ある」ことを見つける練習をしていくうちに気持ちが穏やかで平和になります。
私達のレッスンでは、生徒さんにそのような話をしながら進めていきます。

座ってできるシニアヨガ


息を吐きながら伸ばしたひじを緩める 息を吐きながら伸ばしたひじを緩める


ポーズの指導をする足立さん ポーズの指導をする足立さん

「足の裏で大地をしっかり感じましょう」などと声をかけ続ける 「足の裏で大地をしっかり感じましょう」などと声をかけ続ける

足立さんが提唱するシニアヨガは、60歳以上のシニア世代を対象に、ヨガを通じて日常生活に役立つ筋力を強化するもの。
「最期まで自分の足で」をモットーに健康寿命を促進し、生活の質の向上を目指しています。最大の特徴は椅子に座ったままできること。

足立さん チェアヨガとも言いますが、椅子を使うことで安全性を高めて、ふらつきや転倒のリスクを減らします。
また、椅子に座るとどなたも骨盤が立ち上がりやすくなるので、安定力があり、鍛えたい部位により集中できます。お勤めの方ならオフィスでも気軽にできますし、シニアの方はとくにやってみてほしいですね。


膝に負担が少なく、体内環境も整える全身運動

爽快で、身長が伸びた気分!


バランスを取りながら木のポーズ バランスを取りながら木のポーズ

足立さんのスタジオ「小岩マートリヨガ」では、毎日9時30分から45分間、シニアヨガが開催されています。
見学したこの日は10名ほどが椅子に座り、深い呼吸とともに体をゆったりと気持ちよさそうに伸ばしていました。

終了後、参加した方からは、「爽快です!普段、背中を丸めてしまいがちですが、毎回ここで全身伸ばすでしょう。もう身長を計ってもらいたいぐらい、背が伸びた感じがします」との声が。

同じく参加者の針谷路子さん(73)と石井幸子さん(86)にも話を聞きました。

ヨガを始めて意識が変わりました


針谷路子さん  針谷路子さん 

針谷さん 運動不足、健康維持のためにご近所さんに誘われて3年半前から始めました。

ヨガの基本は呼吸法なので体内環境にもいいと思って続けています。 夜、考え事をしてしまったり、すぐ目が覚めたりするのですが、呼吸法を覚えたおかげで気分が落ち着いて、「そのうちに眠れるだろう」と思えるようになりました。

普段の生活でも、息を吐く時はおへそに力を入れるとか、姿勢を伸ばすとか、意識が変わりましたね。

ヨガを始めてから風邪知らずに


石井幸子さん 石井幸子さん

石井さん 80歳を過ぎてもできそうな運動を、と始めて6年ほど経ちますが、最初はついていくのに必死でした。

続けてよかったと思うのは、私も呼吸法。 それまで呼吸なんて気にしませんでしたが、ヨガを続けることで深い呼吸ができるようになりました。 そのせいか、ヨガを始めてから風邪は一回もひいていません。

膝が弱いのですが、椅子に座るから負担は少ないと思います。

自律神経に影響する、大事な呼吸

参加者のお二人からの言葉にあるように、ヨガは呼吸法も大事な要素。
呼吸のためには、横隔膜、肋間筋(ろっかんきん)、腹横筋などさまざまなインナーマッスル(体の内側にある深層筋)を動かすので、これらを鍛えることで体幹の強化、姿勢の改善、腰の負担軽減に効果があるそうです。

足立さん ヨガは呼吸に合わせて「緊張」と「弛緩(しかん)」の繰り返しで、それがポーズに生かされています。吸う時は「緊張」で筋肉を使い、吐く時は「弛緩」で体を緩めます。

でも現代人はずっと緊張しています。スマホを見続けるなど、交感神経がアップしたままの状態で力を抜くことを忘れている。ですので、日常から離れたヨガではみなさんに弛緩の練習を主にお伝えするようにしています。

また、呼吸は自律神経にも大いに影響しますので、意識して深呼吸することで気持ちよく睡眠に入れます。呼吸が浅いと眠りも浅くなるので、おなかに手を当てて、ゆっくりしたリズムで腹式呼吸してみてください。

数年後の自分が楽しみになる


「ヨガを行なうと心がクリアになってきます」と足立さん 「ヨガを行なうと心がクリアになってきます」と足立さん

ヨガの締めくくりの時間に鳴らして使う楽器 ヨガの締めくくりの時間に鳴らして使う楽器

――ヨガに向き・不向きはありますか?

足立さん 呼吸ができればみなさんヨガはできます。脂肪増加や肥満を気にしているなら、生活習慣病になりやすいのでその対策にヨガは有効です。

ヨガには難易度の高いポーズもありますから、体が硬い方は躊躇しがちですが、目指すのはそこではないので問題ありません。
硬いからこそ柔らかくなった時の気づきはすごい。ほぐれた時の気持ちよさ、喜びは断然味わえます。

自信がついて、表情も明るく、若く!

――シニアの方に教えていてどんな変化を感じますか?

足立さん お顔の表情も明るいし、お若く見えますね。自信も出てくるのだと思います。
年齢を重ねるとどうしても見た目も気持ちも落ちるほうに意識が向きがちですが、生徒のみなさんを見ていると高まるほうに向いていることが見て取れます。

――続けることでのメリットは?

足立さん ヨガに限りませんが、「継続は力なり」で、取り組んだことは自然と結果に現れるので、習慣にすることはとても重要です。
全身の骨は3年周期で入れ替わります。
ですので、今ヨガに取り組むことで3年後の自分の強い骨をこつこつと作っているのです。数年後の自分のために、ぜひ継続して体と心の筋肉を鍛えてほしいです。

現代は、頑張りすぎたり、結果やスピードを求めたりする時代。追い込まれすぎないように、いい塩梅やいい加減、中道(ちゅうどう)といったマインドを体得できるヨガは有効です。
そういう意味では、社会で頑張りすぎる男性にもおすすめしたいですね。


足立さんと生徒のみなさん。レッスン前と後は「ナマステ」と合掌してあいさつ 足立さんと生徒のみなさん。レッスン前と後は「ナマステ」と合掌してあいさつ

足立さんの考える、「ヨガに興味のある人への3ステップアドバイス」

① とにかくヨガに触れて!
 

ヨガを体験できるスポットはさまざまあるので、自分の目で見て体験を。

ヨガスタジオの敷居が高ければ、スポーツクラブのヨガクラスがおすすめ。便利な立地が多く、お風呂も入れます。最近はシニア世代の利用者が増えているので安心できると思います。

また、インターネットを使ったオンラインレッスンなら、出かけることなく自宅で気軽に受講できます。とにかくできるだけヨガと親しんでみて!


② 日常生活に季節や自然を感じる瞬間を!
 

本来の生活サイクルで暮らし、日常の中で自然と触れ合うこともヨガ。

朝日が昇った時にカーテンを開け、吸ったり吐いたりと深呼吸してみましょう。朝のエネルギーをいただくとセロトニンが脳内を満たし、心身のリズムを作ってくれます。

また、春が訪れたと思ったら空を見上げて息を吐いてみましょう。体中で季節を感じるひとときを作ってみてください。


③ 瞑想を意識してみよう
 

ポーズ、呼吸法、そして瞑想がヨガの3本柱。

瞑想とは簡単に言えば、「今、ここ」と自分の体に集中することです。これは日常生活を穏やかに過ごす知恵として有効なので、普段から意識してみるといいかもしれません。

たとえば、電車の中で赤ちゃんが泣いていても、「うるさい」と心が捉えると自分がつらい。でも瞑想をすると心が静かに収まって、「赤ちゃんは泣くのが仕事だから」と前向きな捉え方ができ、ハッピーになる。争いごとが起きても「ちょっと離れてみよう」という冷静さが生まれます。 集中できなければ目を閉じてみて。

知覚で得られる情報の80パーセント以上が目から入る情報と言われるので、視覚を遮断すると脳のスイッチも切り替わるはずです。


文/下里康子 写真/オカダタカオ