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2025.11.05ジパング俱楽部感動の瞬間を切り取る「写真」で、表現したい世界を追求!|定年後が楽しくなる新しい趣味

定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第15回のテーマは「写真」です。

スマートフォンの普及で誰でも気軽に撮影ができるようになり、「もうちょっとうまく撮りたい」「いいカメラで撮ってみたい」などと、写真に興味を示す人が増えているようです。 昔買ったけれど使っていないカメラがあるという人は、久しぶりに引っ張り出してみませんか。

「写真倶楽部 フォト森下」に所属し写真ライフを楽しんでいる岡戸貞男さんに、話を聞きました。


岡戸貞男さん

1945年、東京都生まれ。社会人になった1971年に一眼レフカメラを購入。 定年退職した2005年にデジタル一眼レフカメラを購入し、2013年に江東区・森下文化センターの講座「初めての一眼レフ」を受講。

2015年に同講座から発展した自主サークル「写真倶楽部 フォト森下」でも活動を続け、2018~2022年に代表を務める。

2025年11月11~16日、江東区文化センター2階展示室にて、「写真倶楽部 フォト森下」をはじめ江東区内の写真クラブ合同による「2025年度 秋のこうとう文化芸術祭 第五回江東区合同写真展」が開催。

「写真倶楽部 フォト森下」のホームページはこちら

写真を通して、自分の知らない街を知る

社会人1年目、カメラを買うも、宝の持ち腐れでした

岡戸さんが初めて自分のカメラを手にしたのは、社会人1年目の時でした。


芝浦南ふ頭公園でカメラを構える岡戸さん 芝浦南ふ頭公園でカメラを構える岡戸さん

岡戸さん 社会人1年目の月収5~6万円の時代に、4万円のニコンの一眼レフカメラを買いました。ただ、写真に興味はあっても習うわけではなく、旅行でちょっと撮るぐらいで宝の持ち腐れでした。

60歳になり時間に余裕ができた頃、デジタル一眼レフカメラを買ったのですが、やっぱりあまり勉強することもなく、宝の持ち腐れで……(笑)。

そうこうするうちに、地元のカルチャーセンターで初心者向けのカメラ講座ができたので、受講してみようと思いました。その講座が自主サークルになった今も活動を続けています。

自分の趣味と合致した

――写真は10年以上も続く趣味になったのですね。

岡戸さん 写真にはまった理由は何かと考えると、自分の趣味と合致したからだと思います。

私は旅行や街歩きが好きなのですが、この講座はたまたま、街に出てその街の様子を撮るというスナップ撮影中心の内容でした。東京育ちだけど、下北沢に行ったことはなかったし、大きな大仏が板橋にあるなんて知らなかった。

写真の技術を学べることはもちろんですが、自分の知らない東京を発見できることがおもしろくて、ここまで続いたのでしょう。


岡戸さんの愛機はソニーのミラーレス一眼レフカメラ「α6400」 岡戸さんの愛機はソニーのミラーレス一眼レフカメラ「α6400」

行き残した場所を訪ねる撮影旅へ。写真が趣味なら旅も3回楽しめる

――岡戸さんにとってカメラ・写真の楽しさとは?

岡戸さん 私にとってカメラはやっぱり旅行や街歩きとセット。旅行だけでもカメラだけでもおもしろくない。基本的には3回楽しむんです。

厚生労働省が発表している簡易生命表を見ると、80歳の余命って約9年なんですよ。そう思って、最近の旅は、行き残した場所を訪ねたいと思っているんです。

例えば、去年の秋はJR東日本の5日間乗り放題のきっぷ(大人の休日倶楽部パス)を利用して東北を旅しました。ワイルドな露天風呂の藤七温泉、藤沢周平ゆかりの鶴岡、只見川の橋めぐり、会津の酒蔵を2~3軒回って。こんな団体ツアーはないから、自分で泊まる場所やバスの時間を調べて行程を考える。この「事前の準備」でまず1回楽しむ。

そして、「実際に行って」楽しむ。

さらに旅行後、撮った写真を見返して整理して、自分のブログに載せたり、パソコンとプリンターを使ってカレンダーなどに加工する。そういう、「写真をかたちにすること」でもう一度楽しめるんです。


岡戸さんが東北旅行で撮影した写真「只見線の三本アーチ橋」 岡戸さんが東北旅行で撮影した写真「只見線の三本アーチ橋」

「藤七温泉からの帰途“雲海”の岩手山を撮影できました」(岡戸さん撮影) 「藤七温泉からの帰途“雲海の岩手山”を撮影できました」(岡戸さん撮影)

日常的に培われる注意力や観察力

シャッターチャンスを見逃さない


「写真倶楽部 フォト森下」の撮影会に参加したみなさん 「写真倶楽部 フォト森下」の撮影会に参加したみなさん

岡戸さんが所属する「写真倶楽部 フォト森下」の会員数は現在15名。
プロカメラマンの講師・鷹野晃さんのもとで、月1回の外出撮影会と、撮影した写真作品を仲間たちと鑑賞しながらアドバイスを受ける月1回の講評会を行なうのが主な活動内容です。

取材したこの日は、港区の芝浦・田町での撮影会。「ふ頭、橋、周辺の建物など港湾ならではの被写体を見つけましょう」という今回のテーマに沿って撮影を行ないます。
会員のみなさんは集合場所から歩き出すと、早速、カメラを手にして撮影を始めます。
被写体やシャッターチャンスを見逃さないように、上も下も前後左右も見渡しながら歩く姿は、まるでハンターのよう。
その観察力に驚かされます。真剣なまなざしですが、撮影するのを本当に楽しんでいるのが伝わります。


講師の鷹野さんに相談しながら撮影できます


講師の鷹野さんも自ら撮影を楽しみます 講師の鷹野さんも自ら撮影を楽しみます

会員のみなさんは移動しながらも常にカメラを構えます 会員のみなさんは移動しながらも常にカメラを構えます

写真の腕前だけではなく材料も大事

岡戸さん 写真に重要な要素は2つあると思います。ひとつは腕前・技術。でも、いくら腕があっても限界がある。そこで重要になるのが素材・材料です。どう料理するかが技術ですが、もともといい素材じゃなければいくら料理したっておいしくない。いい材料を見つけることは非常に大事なんです。

――日常的にもいろいろなことに注意したり、よく観察するようになりそうですね。

岡戸さん そうですね。 講評会で人の写真を見ると、材料の選び方や撮り方に、なるほどなあと感心することが結構あるんです。

材料の見つけ方というのは、実際に歩いたり人の写真を見たりして場数を踏まないとなかなか養われません。プロの写真家や先天的に長けている人にはかないませんが、とにかく場数を踏んで食らいつかないとだめだと思っているんです。

大きくプリントする楽しみも

――スマートフォンで写真を撮るのとは違いますか。

岡戸さん よく聞かれるのですが、私の意見では、撮影の8割方はスマートフォンでできる。スマートフォンの最大の利点はSNSなどとの親和性ですよね。現場で写真を撮ってすぐ送ることができます。

一方で、「撮像素子(さつぞうそし)」という、レンズから入る光を電気信号に変える画像センサー(フィルムカメラでいうフィルムの役割)のサイズがスマートフォンは小さいので、スマートフォンやパソコンの画面で見るには事足りますが、大きくプリントするには画質が厳しい。

撮るのが楽しくなると、大きくのばして作品にしたくなりますし、プリントした作品はひと味違って見えます。写真展に出すためにA4やA3サイズでプリントする必要もあるので、その点ではデジタルカメラのほうがいい。 また、ちょっと変わった写真を撮りたい時も、スマートフォンよりも表現手段が広がるといいますか、おもしろみのあるトライはできると思います。

この日の岡戸さんのベストショット

岡戸さんに今回の撮影会でのベストショットを選んでもらいました。どこがポイントでしょうか。


岡戸さんが撮影した写真「レインボーブリッジからの北方の眺め」 岡戸さんが撮影した写真「レインボーブリッジからの北方の眺め」


岡戸さんが撮影した写真「芝浦南ふ頭公園から見たレインボーブリッジ」 岡戸さんが撮影した写真「芝浦南ふ頭公園から見たレインボーブリッジ」

 

岡戸さん 1枚目は海を走るフェリーの写真で、航跡の美しさを東京湾岸の眺望と合わせて撮影できました。

2枚目はレインボーブリッジの写真で、橋の力強さが表現できたように思います。 

頭も使う、時間も使う、のめり込める趣味


何もなさそうな道も歩き回って観察します 何もなさそうな道も歩き回って観察します

外に出かける趣味は妻もうれしい⁉

――写真を始めてからご家族の反応は?

岡戸さん それほどありませんが、こどもからは「お父さん少しうまくなった」と言われました。従来はただシャッターを押すだけだったのが、構図をどう切り取るか、人を入れるか入れないか、光線をどうするかなどを考えて撮るようになりましたから、少しは変わったのかもしれません。

妻も、年をとった夫が何もしないで毎日自宅にいるよりは、外に出かけるほうが安心するのではないでしょうか。

テレビドラマや映画の見方が変わる

――ご自身では変化や成長を感じることはありますか。

岡戸さん 映像や画像の見方、注目するポイントが変わりましたね。テレビドラマや映画を見ていても、これまでは役者の演技しか見ていなかったのに、「このカメラマンはすごいな」「このアングルは美しいな」「このカットはたぶん苦労して撮ったんだろうな」と、芸術的な観点といいますか、撮影者側の視点で見ることができるようになりました。

――写真を趣味にしてよかったと思うことは? 

岡戸さん 自分は今、365日が日曜日ですから、まず、撮影会という楽しみが月1回必ずあること。 撮影すれば、講評会までに写真を見返してどれを提出するか選ぶのにまた何日も要します。 今回の芝浦・田町の撮影会ではおそらく300枚は撮っているので、それを10枚まで絞って、プリントしてという一連の作業を行ないます。現像して作品にするまでにパソコンを駆使しますし、撮影以外にも頭をよく使うのもいいですね。何もしないと頭はボケますけど、その心配は無用なくらいのめり込めます。 写真を通して仲間ができ、人とのつながりができたのもよかったですね。


話せる仲間がいるのは写真クラブや教室に入る魅力です 話せる仲間がいるのは写真クラブや教室に入る魅力です

出歩かなくても写真は楽しめる

――撮影会は本当によく歩きますね。これも健康面でのメリットでしょうか。

岡戸さん そうですね。自宅を出てから帰るまで、多い時で2万歩くらいは歩くかな。1万5000歩を超えるとさすがに疲れたと思うけれど、写真を撮ったり何かを見ている時は疲れが気にならない。人間とはよくできたもので、1万歩ただ歩けと言われても勘弁してよと思うけど、目的があると動けてしまうんですよね。

ただ、足腰に不安がある人だって、誰だって、趣味にできるのが写真撮影。わざわざ遠出をしなくても、歩き回らなくても、自分のお庭の花を撮るとか、身近なところに撮りたいと思うものはあるはずです。同じ花を撮るにしてもいろいろな撮り方の工夫を楽しむこともできます。

どんな状況でも、目線を変えて自分の周りを見回せば、魅力的な被写体も、写真の楽しみもいくらでも見つかるのではないでしょうか。

岡戸さんの考える、「写真を趣味にしたい人への3ステップ」

① 初めはスマートフォンでもOK
 

撮影機材は、一眼レフカメラを用意しなくても、最初はスマートフォンで十分。撮るうちにカメラがほしくなったら購入を検討すればいいと思います。 ひと口にデジタルカメラといっても「コンパクトカメラ」、レンズを交換できる「ミラーレスカメラ」に「一眼レフカメラ」とタイプはいろいろ。機能や大きさ、重さも違うので、撮りたいものや使いたい状況に合わせて選びましょう。


② たくさんシャッターを押す!
 

講師の鷹野先生からの教えは、「とにかくいっぱいシャッターを押そう」。

フィルム時代と違って今はデジタルなので、撮ったものをその場で確認できますし、たくさん保存できます。いい・悪いの取捨選択はその場ではなく後回しにして、縦で撮ったり横で撮ったり、いろいろと工夫して撮ってみてください。


③ 心が動いた、その瞬間を撮ろう
 

同じく鷹野先生から教えていただいたことですが、「心が動いたら撮ること」! 「いいなあ」「きれいだな」「この犬かわいいな」などと、小さなことでも自分が感動したらそれを逃さず撮りましょう。 写真はひとりでできる趣味ですが、撮り続けるうちに、もっと技術を磨きたい、ほかの人の作品を見たい、仲間がほしいと思ったら、写真教室に通うのもおすすめです。


文/下里康子 写真/オカダタカオ