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2025.04.15ジパング俱楽部皮膚科専門医が教える!ジパング世代の敏感肌と旅先での肌トラブル対策|解決! 60代からのお悩みごと

旅好きジパング世代の敏感肌対策

若い頃は肌トラブルとは無縁だったのに、最近、肌が乾燥しやすくなったと感じたり、化粧品にかぶれたりした経験はありませんか? 

じつは、皮膚も加齢にともなって少しずつ老化し、外からの刺激に敏感な状態になっています。

そんなシニア世代の肌トラブルを数多く診てきた皮膚科専門医の堀内祐紀さんに、正しいスキンケアと、とくに旅行先で気をつけたいポイントについてうかがいました。


教えてくれた人

秋葉原スキンクリニック院長 皮膚科専門医 堀内祐紀さん

東京女子医科大学卒。同皮膚科学教室に入局。JR東京総合病院、埼玉協同病院勤務を経て、2007年に秋葉原スキンクリニックを開設し、院長となる。

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本医学脱毛学会理事、日本痤瘡研究会理事、Aestyhetic Medical Academy理事、美容皮膚エキスパートナース育成協会理事。所属学会は日本皮膚科学会、日本美容皮膚科学会、日本レーザー医学会、日本抗加齢医学会、日本香粧品学会ほか。

シニア世代の肌は外敵に弱い状態に!

「肌が乾燥しやすくなって、ファンデーションのノリが悪くて……」「ずっと使い慣れている化粧品のはずなのに、最近かゆくなるのはなぜ?」「毎朝のヒゲ剃りで肌荒れしやすく、シェービングフォームがしみて困る」————年齢を重ねると、こんな肌トラブルに悩む人が急増します。
セルフケアでは解決せず、こじらせて皮膚科に駆け込む人も少なくありません。

私たちが抗えない「加齢」の影響は、骨や内臓だけでなく、皮膚にも表れてきます。足が痛くて歩けなくなったら誰でも衰えを自覚できますが、少しずつ変化していく皮膚の老化には、なかなか気づきにくいものです。
もっとも分かりやすい加齢変化は、皮膚が乾燥しやすくなること。


乾燥肌になる理由は、皮膚の水分と油分の不足です。加齢によって皮脂腺の働きが衰え、皮膚のすぐ下の毛細血管の血流も低下し、皮膚表面のコーティングができなくなってしまうために乾燥しやすくなるのです。

また、高齢になって不活発な生活になり、汗をかかなくなると、皮膚の乾燥はますます悪化します。汗にも保湿効果があるからです。


皮膚の断面図 健康な皮膚(左)と、バリア機能が壊れた状態(右) 皮膚の断面図 健康な皮膚(左)と、バリア機能が壊れた状態(右)

そして、皮膚には外からの刺激や異物が入り込まないように「バリア機能」が備わっているのですが、歳をとると図のように皮膚の細胞と細胞をつないでいる細胞間脂質が不足してくるため、この機能が衰えてきます。まるで、レンガとレンガをつないでいる目地の部分が劣化して、常に雨漏りしているような状態です。

こうなると、水分はどんどん出ていくばかりで皮膚は乾燥し、外から花粉やホコリ、皮脂汚れ、化粧品の成分などが入り込みやすい無防備な状態になり、肌トラブルが起こるのです。

長年使ってきた化粧品にもかぶれる理由とは

皮膚がかゆくなる、ピリピリする、赤みが出る————

こんな症状は、何らかの原因で皮膚がかぶれているサインです。かぶれのことを、皮膚科の専門用語では「接触皮膚炎」と呼びますが、これには2種類あります。

  • 1.皮膚のバリア機能が低下していることによって起こる、単なる刺激性の接触皮膚炎
  • 2.原因となる物質に対するアレルギー反応としての接触皮膚炎

長年使っていた化粧品にかぶれるようになった、旅先のホテルの部屋のバスルームのシャンプーで頭皮がかゆくなった、などの現象はシニア世代によく見られますが、2.のアレルギー性の接触皮膚炎ではなく、1.の刺激性の接触皮膚炎であることがほとんどです。

つまり、その年齢になったら誰にでも起こる可能性があるということです。
シニア特有のかぶれを予防するために、普段から意識して、肌にやさしい弱酸性のシャンプーや石けん、ボディウォッシュ、保湿剤を使ってほしいと思います。

とくに、普段の生活とは異なる環境で過ごす旅行中は、肌のトラブルも起こりやすいので要注意。
荷物を減らしたいという気持ちも分かりますが、使ったことのない化粧品の試供品などを持っていくようなことはおすすめできません。

実際に、患者さんに多いトラブルとしては、「去年の日焼け止めが残っていたから、旅行に持って行って使ったらかぶれた」というケースも。化粧品に含まれる油分はとくに酸化しやすく、かぶれの原因になります。

旅先では体を冷やさず、温めて肌トラブルを予防


そして、旅先での冷えも禁物です。体を温めて皮膚の血流を促しましょう。

その意味でも、温泉旅行はシニア世代に最適といえますね。

冷え対策として、スカーフや靴下などで調整し、冷たいドリンクは避けて常温〜温かいものを飲むようにしてください。 体を動かして汗をかくことも効果的。皮膚の乾燥を防ぐとともに、弱酸性に保ちやすくなります。

旅先でのトイレ問題がお肌にも影響するの?

意外に思うかもしれませんが、旅行先で胃腸の調子を整えることも、肌トラブルの予防にはとても重要です。最近の医学研究では「脳腸皮膚相関」といって、脳と腸、そして皮膚は密接にかかわりあっていることが分かってきました。


とくに、便秘をしてしまうと、肌荒れや大人ニキビなどの皮膚のトラブルを招きます。排便の時間が普段とずれることによって便秘が起こりやすいので、シニア世代はとくに気をつけてほしいと思います。

旅仲間と相部屋の旅行なら、部屋以外のトイレをチェックしておいて、朝食後などに必ず排便タイムを取ることが大事です。

また、旅行中に頻繁にトイレに行くことを心配して、水分摂取を控える人もいるのではないでしょうか。水分不足は便秘にもつながります。食事がおいしく食べられなくなったり、体調をくずして肌荒れしたりする原因になるので要注意です。

旅先では、こまめな洗顔を!


旅先で実行してほしいことは、花粉やホコリ対策としてのこまめな洗顔です。

花粉は春先と秋だけでなく、365日飛散しています。地域と季節によっては、黄砂も飛んでいるかもしれません。旅行先では、普段浴びることのない花粉が肌に付いてしまうので、そのまま放置せず、洗い流すことが大切です。

チェックインして部屋に入った時、あるいは外出して部屋に戻った時には、ぬるま湯で軽く洗顔しましょう。顔の皮膚には、花粉やホコリ、汗、日焼け止め成分と皮脂汚れなどが混じり合って付着しているので、そのままにせず、洗い流してほしいのです。そして、洗顔後には保湿を忘れずに。

日本人は、清潔志向の人が多く、髪の毛は毎日洗わなければいけないと思い込んでいる人も多いのですが、よほどホコリで汚れたりしないかぎり、シャンプーは2・3日に一度で十分です。1泊旅行だったら、旅先でシャンプーしなくてもいいということですね。シャンプーしすぎると、頭皮が乾燥してかえってかゆみやフケを招きます。

ただし、頭皮のコンディションには男女差もあります。脂性肌(オイリー肌)の中高年男性の場合は、皮脂が悪さをして毛穴詰まりを起こすケースも多いため、毎日シャンプーしたほうがいいでしょう。

最後に、シニア世代の方々には「垢すり」はおすすめできません!

垢すりをすることによって、皮脂が根こそぎ剥がれてしまいます。旅先で垢すりをしてきて皮膚がダメージを受け、皮膚科に駆け込んでくる患者さん、じつは多いのです。
若くて皮膚の油分が多い人はかまわないのですが、シニア世代にはすすめられないので気をつけてくださいね。

文/吉本直子