2025.08.28ジパング俱楽部遷宮を支える御杣山/2033遷宮への道②|現地発!おすすめ旅ネタ情報
現地発・おすすめ旅ネタ情報
このコーナーでは、旅好きライター・観光ナビゲーターが、ご当地ならではのおすすめスポットや旅ネタ情報をお届けします。
ここでは1300年以上にわたって続く、伊勢神宮の第63回神宮式年遷宮について、地元三重在住で、文筆家・皇學館大学非常勤講師の千種清美(ちくさきよみ)さんが、その関連行事と、最新の様子をお知らせします。
- ※トップ画像は古来の伝統、「とぶさ立て」
日本人と木のかかわりを感じるお祭り
伊勢神宮の御神体を納める木は木曽の山林から
新しく社殿を建て替える神宮式年遷宮では、私たち日本人と木のかかわりを改めて感じることができます。
2025年6月、遷宮のお祭りは、長野県と岐阜県の木曽の山中を祭場に行なわれました。遷宮で使用する最初のヒノキを伐り出すことを山の神に申し上げ、作業の安全を祈るもの。そして、内宮・外宮の御神体を納める御器になるヒノキ、「御樋代木(みひしろぎ)」を2本実際に伐り倒すのです。その山は、「御杣山(みそまやま)」と呼ばれます。
御杣山は、もともとは神宮周辺の山でしたが、育つのが遅いヒノキは鎌倉時代で大木がなくなりました。その後は宮川上流などに場所を変え、江戸時代からは尾張藩の木曽谷となり、今に至る歴史があります。
「杣(そま)」は、木を伐採する山という意味があり、中国から伝わった漢字ではなく、日本独自のことばである「国字」にあたります。日本では、木を伐る山を「杣」、木を伐る人を「杣夫(そまふ)」と呼ぶ、木の文化を持っていたのです。
木曽のヒノキを万葉の時代からの作法で伐る
三方から斧を入れる「三ツ緒伐り」
山の神様への敬意をもって2本のヒノキを伐り出します
御杣山で行なわれた「御杣始祭(みそまはじめさい)」(6月3日長野県上松町の木曽谷国有林)、「裏木曽御用材伐採式」(6月5日岐阜県中津川市の裏木曽国有林)では、地元の杣夫たちが内宮用を、神宮司庁営林部の職員が外宮用を伐採しました。
3人がかりで斧をふるう伝統的な伐採法「三ツ緒伐り(みつおぎり)」で1時間半ほどかけて、みごとに伐り倒しました。普段はもっぱらチェーンソーを用いますから、このお祭りがあるがゆえに「三ツ緒伐り」が継承されているのです。
取材では、杣夫たちに伝わる風習に触れることもできました。20年前の前回は、「とぶさ立て」という、伐採後の切り株に木の梢を挿し、山の神へ感謝を捧げているところを目の当たりにしました。これは『万葉集』の歌にも詠まれている杣夫の風習で、現代にも引き継がれていることに驚いたものです。
山の神への感謝をこめ、斧は「よき」と呼ばれる
立てかけられた斧には重要な意味がある線が入っていました
そして、今回は斧を「よき(与岐)」と呼ぶことを知りました。伐採前に木に立てかけられていた斧をよく見てみると、斧には、振り下ろす左側には3本線が、もう一方の右側には4本線が刻まれていました。これは諸説ありますが、3本線はお神酒という意味が、4本線は木が育つに必要な4つの気(太陽、土、水、空気)を表わしているといいます。この4本線が「よき」の由来となっているのです。
宮大工で知られる西岡常一さんは著書で、山中の作業では神に供える神饌を用意できないので、この線で表わしたと記しています。古くからの杣夫の山の神への敬いが、このようなところに残っていました。
雨が降る山深い森で早朝から過ごし、改めて、伊勢神宮の社殿は、日本の風土、自然の恵みから生まれたものであるとしみじみ思いました。また、森林は人が手を入れ、木を利用してこそ、人間と共生できる状態を維持していくことができることも、「杣」の字が物語っているようです。
20年に一度の神宮式年遷宮の歴史の中で築き上げられてきた社殿造営のためのシステム。社殿としてヒノキを伐採し、また植林して新たなヒノキを育てる御杣山の循環こそが、式年遷宮の持続可能を支えているのです。
9月には、御樋代を納める器、御船代(みふなしろ)のヒノキを伐採するお祭りが内宮と外宮で行なわれます。
- ※当ホームページでは三重県伊勢市を中心に予定されている遷宮行事の数々を、順次紹介していく予定です。お楽しみに。
第63回神宮式年遷宮の主なお祭り一覧
~御神木のお祭り~
令和7年(2025)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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5月 | 山口祭 (やまぐちさい) |
新宮(にいみや)の御用材を伐り出すに当たり、御杣山(みそまやま)の山の口に坐す神に伐採と搬出の安全を祈ります。御杣山は時代とともに変遷し、現在は木曽(長野県・岐阜県)に定められていますが、山口祭は現在でも神路山、高倉山の山麓で行なわれます。 | 済み |
5月 | 木本祭 (このもとさい) |
御正殿の御床下に奉建する心御柱(しんのみはしら)の御用材を伐採するにあたり、その木の本に坐す神を祀ります。古くより神秘の儀式とされ、真夜中に行なわれます。 | 済み |
6月 | 御杣始祭 (みそまはじめさい) |
御用材を木曽の御杣山で正式に伐り始めるお祭りです。最初に御樋代木(みひしろぎ)と呼ばれる、御神体をお納めする御器を奉製するための檜を伐採します。御樋代木は御杣山の山中で左右に並ぶ二本の檜を選び、「三ツ緒伐(みつおぎり)」という古式の作法で伐り倒します。 | 済み |
6月 | 御樋代木奉曳式 (みひしろぎほうえいしき) |
御杣山で伐採された御樋代(みひしろ)のための御料木を、内宮と外宮の域内の五丈殿(ごじょうでん)前に曳き入れる儀式です。伊勢に到着した御樋代木は、内宮・外宮とも古式のままに神域へ曳き入れられます。 | 済み |
9月 | 御船代祭 (みふなしろさい) |
御樋代をお納めする器である「御船代(みふなしろ)」の御料木を伐採するお祭りです。内宮と外宮の宮域内に設けられた宮山祭場(みややまさいじょう)で行なわれます。 | 〇 参道 |
令和8年(2026)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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4月 | 御木曳初式 (おきひきぞめしき) |
御杣山より伐り出された御用材を、内宮と外宮の両宮に曳き入れる伝統行事です。揃いの衣装を着た伊勢の住民(旧神領民)が、木遣歌も勇ましく奉仕します。両正宮や別宮の棟持柱(むなもちばしら)にあてられる「役木(やくぎ)」という代表的な御用材を神域に曳き込むため、「役木曳(やくぎびき)」とも呼ばれます。 | ◎ |
4月 | 木造始祭 (こづくりはじめさい) |
御造営の作業を始めるに際し、作業の安全を祈るお祭りです。御木曳初式(おきひきぞめしき)で奉曳された御木に小工(こだくみ)が忌斧(いみおの)を打ち入れる所作を行ないます。 | 〇 参道 |
5~7月 | 御木曳行事(第一次) (おきひきぎょうじ) |
伊勢の住民(旧神領民)と全国の崇敬者により、御用材を古式のままに両宮域内へ曳き入れる盛大な行事です。内宮は五十鈴川を川曳(かわびき)し、外宮は御木曳車で陸曳(おかびき)します。遷宮諸祭・行事の中でもっともにぎやかな行事です。 | ◎ |
5月 | 仮御樋代木伐採式 (かりみひしろぎばっさいしき) |
「遷御(せんぎょ)」の際に御神体を納める「仮御樋代(かりみひしろ)」の御用材を伐採するにあたり、木の本に坐す神をお祀りし、忌斧を入れる式です。 | × |
令和9年(2027)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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5~7月 | 御木曳行事(第二次) (おきひきぎょうじ) |
御木曳行事は地元の旧神領民の誇りとして奉仕されます。御遷宮に奉仕できる数少ない行事として旧神領民に加えて全国からも多くの特別神領民が御用材を奉曳し、伊勢の町は活気に満ち溢れます。 | ◎ |
~社殿建築のお祭り~
令和10年(2028)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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4月 | 鎮地祭 (ちんちさい) |
新宮を建てる新御敷地で行なわれる最初のお祭りです。造営作業の安全を祈り大宮処(おおみやどころ)に坐す神を祀ります。このお祭りを節目に遷宮諸祭は山作(やまづくり)から庭作(にわづくり)へと進められていきます。 | 〇 参道 |
令和11年(2029)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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11月 | 宇治橋渡始式 (うじばしわたりはじめしき) |
内宮の入口に架かる宇治橋は、遷宮の度に架け替えが行なわれ、古式ゆかしく渡り始めが行なわれます。「渡女(わたりめ)」を先頭に全国から選ばれた三世代そろった夫婦に続いて、関係者や市民などが新橋を渡ってお祝いします。 | ◎ |
令和12年(2030)
令和13年(2031)
令和14年(2032)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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3月 | 立柱祭 (りっちゅうさい) |
御正殿の建築はじめに際し、御柱(みはしら)を建てるお祭りです。建物の守り神として崇められる屋船大神(やふねのおおかみ)に平安を祈り、束柱(つかばしら)を貫き支える足堅(あしがため)と四間樌(よまぬき)の木口(きぐち)を小工(こだくみ)が木槌(きづち)で打ち固めます。 | 〇 参道 |
3月 | 御形祭 (ごぎょうさい) |
御正殿の東西の妻の束柱に円形の図様(ずよう)を穿(うが)つお祭りです。『皇太神宮儀式帳(こうたいじんぐうぎしきちょう)』には御正殿竣功後に奉仕する秘儀と記されています。 | × |
3月 | 上棟祭 (じょうとうさい) |
御正殿に棟木(むなぎ)を上げるお祭りです。古儀のとおりに測量をした後、神職と造営庁職員が棟木から伸ばされた綱を曳いて棟木をあげます。造営に関わる遷宮諸祭のなかでもひと際華やかなお祭りです。 | 〇 参道 |
5月 | 檐付祭 (のきつけさい) |
御正殿の御屋根の萱(かや)を葺(ふ)き始めるお祭りで、屋船大神(やふねのおおかみ)に祈りが捧げられます。 | 〇 参道 |
7月 | 甍祭 (いらかさい) |
御正殿の萱も葺きおわり、金物を打つお祭りです。代表的な金物が御正殿前に奉安され、小工が金槌で打つ所作をします。 | 〇 参道 |
令和15年(2033)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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7~8月 | 御白石持行事 (おしらいしもちぎょうじ) |
伊勢の住民(旧神領民)が新宮に御白石を奉献する行事です。全国から特別神領民も伊勢に集い、五十鈴川と伊勢街道には、木遣歌と「エンヤ―!」の掛け声がひびきます。 | ◎ |
9月 | 御戸祭 (みとさい) |
御正殿の御扉を立てるお祭りで、扉に鑰穴(かぎあな)を穿ちます。御扉が付くことは造営工事の完了を意味します。 | 〇 参道 |
9月 | 御船代奉納式 (みふなしろほうのうしき) |
御神体のお鎮まりになる「御船代」を刻み、御正殿に奉納します。 | 〇 参道 |
9月 | 洗清 (あらいきよめ) |
新殿の竣功にあたり殿内と殿外を洗い清める儀式です。 | 〇 参道 |
9月 | 心御柱奉建 (しんのみはしらほうけん) |
心御柱は正殿の御床下に建てられる特別な御柱で、忌柱(いみばしら)、天ノ御量柱(あめのみはかりのはしら)とも呼ばれます。心御柱の奉建は、遷宮諸祭のなかでもひと際重んじられる秘儀です。 | × |
9月 | 杵築祭 (こつきさい) |
新殿の竣功を祝し、大宮処(おおみやどころ)を撞(つ)き固めるお祭りです。祭儀に先立ち五丈殿で饗膳(きょうぜん)の儀を行ない、神職は白杖(びゃくじょう)を持ち新殿の周りをめぐり、古歌を歌いながら柱の根本を撞き固めます。 | 〇 参道 |
10月 | 後鎮祭 (ごちんさい) |
新宮の竣功に際し、御正殿の床下に天平瓮(あめのひらか)を奉居するお祭りです。大宮処の平安を祈った鎮地祭の対になるお祭りです。 | 〇 参道 |
~神遷しのお祭り~
令和15年(2033)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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10月 | 御装束神宝読合 (おんしょうぞくしんぽうとくごう) |
天皇陛下より大御神に献ぜられる御装束神宝を、新宮の四丈殿において、式目(しきもく)に照らし読み合わせる儀式です。 | 〇 参道 |
10月 | 川原大祓 (かわらおおはらい) |
遷御の前日、仮御樋代(かりみひしろ)・仮御船代(かりみふなしろ)や御装束神宝を始め、遷御に奉仕するすべての奉仕員を「川原祓所(かわらはらいしょ)」で祓い清める儀式です。 | 〇 参道 |
10月 | 御飾 (おかざり) |
遷御当日、新調された御装束で殿内を装飾し、大御神にお遷りいただく準備をする儀式です。 | × |
10月 | 遷御 (せんぎょ) |
大御神が本殿から新殿へとお遷りになる式年遷宮の中核をなすお祭りです。100名をこえる奉仕員は御装束神宝(おんしょうぞくしんぽう)を手に整列し、天皇陛下がお定めになられた時刻に大御神は本殿から出御(しゅつぎょ)され、新殿に入御(じゅぎょ)されます。 | × |
10月 | 大御饌 (おおみけ) |
遷御の翌日の早朝、新殿において初めて大御神に神饌(しんせん)を奉るお祭りです。 | 〇 参道 |
10月 | 奉幣 (ほうへい) |
古くは「一社奉幣(いっしゃほうへい)」と称され、遷御とともに一際重んじられてきたお祭りです。天皇陛下より奉られる幣帛(へいはく)を奉納し、その後五丈殿で饗膳の儀が行なわれます。 | 〇 参道 |
10月 | 古物渡 (こもつわたし) |
古殿内の神宝類を新宮の西宝殿に移す儀式です。大御神がお遷りになった後の古殿は昨日までと違った雰囲気が漂っています。 | 〇 参道 |
10月 | 御神楽御饌 (みかぐらみけ) |
御神楽を執り行なうに先立ち、大御神に神饌を奉るお祭りです。 | × |
10月 | 御神楽 (みかぐら) |
新宮の四丈殿において、天皇陛下がお遣わしになった宮内庁楽師(がくし)が御神楽を奉納します。遷宮諸祭の最後を飾るお祭りです。 | × |
令和16年(2034)
開催 | 行事名 | 概要 | ◎見学可 〇条件付き ×非公開 |
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順次 | 別宮の遷宮 | 内宮、外宮、荒祭宮(あらまつりのみや)、多賀宮(たかのみや)に続き、残りの12所の別宮でも遷宮が執り行なわれます。 | 〇 参道 |
- ※伊勢神宮「遷宮予定年表」より
この記事を書いた人
- ※記事中の情報は2025年8月時点のものです。
- ※写真はすべてイメージです。
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