トレたび JRグループ協力

2025.05.08ジパング俱楽部焼鯖そうめん【滋賀県】|知る・作る郷土料理

その土地の産物をうまく活用し、作られてきた “郷土料理”。
知って作って食べれば、彼の地へ行ってみたくなりそうです。

  • 会員誌「ジパング倶楽部」2020年5月号で掲載した記事を、再編集してお届けします。

焼鯖そうめん

みんなで食べればさらに美味。家族揃っていただきます!

滋賀県長浜市


焼鯖そうめんはハレの食。田植え後の慰労会では家族みなで味わいました 焼鯖そうめんはハレの食。田植え後の慰労会では家族みなで味わいました

海のない長浜に鯖食が根づいた理由

琵琶湖北側の湖北地方にある長浜は、豊臣秀吉が初めて居城として築いた近江(おうみ)長浜城の城下町。北陸と京阪神を結ぶ北国(ほっこく)街道沿いに、今も古い町並みが残ります。この地で食されてきた「焼鯖そうめん」には、どんな由来があるのでしょうか。

『忘れぬうちに伝えたい 湖北の伝統食・地産食』を編纂(へんさん)した郷土料理研究家の肥田文子(ひだあやこ)さん、嘉昭(よしあき)さんご夫婦に聞きました。


北陸の大名が往来し、多くの海産物も運ばれた北国街道 北陸の大名が往来し、多くの海産物も運ばれた北国街道

肥田邸は小谷伊部宿(おだにいべじゅく)本陣跡と呼ばれ、江戸時代に大名が宿泊した本陣の建物が残ります。本陣前を通る北国脇往還(わきおうかん)は参勤交代の大名たちが行き交う道でした。

「近年、鯖街道といえば小浜(おばま)から京都まで続く若狭(わかさ)街道が有名になりましたが、この道も多くの海産物が行き来し、昔から鯖や鰊(にしん)を食べていたんですよ」(嘉昭さん)

嫁入りした娘を思う五月(さつき)見舞いが起源

焼鯖そうめんの発祥には、湖北地方独特の風習「五月見舞い」もかかわっています。

「昔の田植えは重労働で、田植えが始まる5月は猫の手も借りたいほどの忙しさでした。そこで、農家へ嫁に行った娘を気遣った親が、親戚や隣り近所を廻(まわ)り、焼き鯖を配ったものです。私も、自分の父が『娘をよろしくお願いします。これを食べて栄養をつけてください』と言いながら、焼き鯖を配ってくれていたのを覚えています。

一方そうめんはいつでも台所にありましたから、身近な二つの食材を組み合わせて、焼鯖そうめんが生まれたのでしょう」(文子さん)

文子さんが焼き鯖を炊き始めると、台所に甘い香りが。大皿に盛り付け、みなでワイワイといただきます。鼈甲(べっこう)色のそうめんには、鯖の旨みと香ばしさが染み、これだけでごはんのおかずになるほど贅ぜい沢たくな旨みを含んでいます。

シンプルに見えて手間暇かかった焼鯖そうめんは、娘を思う親心から生まれた農家のご馳走でした。

材料と作り方


材料 【5人分】

  • 浜焼き鯖……1 尾
  • そうめん……4束
  • カツオと昆布のだし汁……5カップ
  • 砂糖……大3
  • しょうゆ……100mℓ
  • 酒……40mℓ
  • みりん……20mℓ
  • 青ねぎ……8本
  • ニンジン……40g
  • 竹皮(あれば)……1 枚
  • ニンジン……1/3 本
  • 南天の葉……適宜

作り方


丸焼きにして保存性を高め、若狭から運ばれた浜焼き鯖 丸焼きにして保存性を高め、若狭から運ばれた浜焼き鯖

  • 1. 浜焼き鯖を軽くあぶり、串を抜く。
  • 2. 大鍋にだし汁と調味料を入れ、火にかける。沸騰後、竹皮にのせた鯖を入れ、鯖に煮汁をかけながら10分煮る。
  • 3. 竹皮ごと鯖を引き上げ、煮汁を漉す。煮汁の一部を小鍋に移し、3cm大に切った青ねぎを煮る。そうめんを茹でて洗う。
  • 4. 再び煮汁を漉して大鍋に戻し、茹でたそうめんを入れて煮る(10分以内)。具材を盛り付け、茹でたニンジンと南天の葉を飾る。

そうめんを箸で巻き取り、日本海の荒波のように盛り付けます そうめんを箸で巻き取り、日本海の荒波のように盛り付けます

本場の味を求めて…… 翼果楼(よかろう)|長浜市

築150年以上の趣深い古民家で味わう長浜郷土料理の数々

北国街道沿いの呉服問屋の建物を改装した郷土料理店。名物の「焼鯖そうめん」1100円は、浜焼き鯖を3日かけて炊き上げた、骨までやわらかい鯖が絶品。煮汁が染みたつやつやのそうめんに、大きな鯖をのせ、木の芽をあしらった盛り付けも豪華です。お好みで粉山椒をふりかけてご賞味を。


「翼果楼」の店内 「翼果楼」の店内

汁気がないのが特徴。ごはんのおかずにも酒の肴にも相性よし 汁気がないのが特徴。ごはんのおかずにも酒の肴にも相性よし


翼果楼(よかろう)

問い合わせ先 0749・63・3663
時間 10時30分~15時(売り切れしだい終了)
定休日 月曜(祝日の場合は翌平日)・年末年始
交通アクセス 北陸本線長浜駅から徒歩約3分

2020年2月26・27日取材 文/吉野りり花 撮影/鈴木康史 イラスト/渡辺トモコ