2025.05.26ジパング俱楽部玉子ふわふわ【静岡県】|知る・作る郷土料理
その土地の産物をうまく活用し、作られてきた “郷土料理”。
知って作って食べれば、彼の地へ行ってみたくなりそうです。
- ※会員誌「ジパング倶楽部」2020年6月号で掲載した記事を、再編集してお届けします。
玉子ふわふわ
江戸時代の旅人に想いを馳(は)せる不思議なふわとろ食感
静岡県袋井市
「袋井宿たまごふわふわ」は、卵とだしだけで作るシンプルな料理
史料をもとに再現 袋井(ふくろい)宿の名物料理
「玉子ふわふわ」。なんともユニークな名を持つこの料理は、袋井宿ゆかりのご当地グルメです。
その歴史は江戸時代まで遡(さかのぼ)ります。袋井宿は東海道五十三次のちょうどど真ん中、27番目の宿場町。江戸と京の中間点として物資の往来や遠州三山(えんしゅうさんざん)詣での人々でにぎわいました。
袋井宿は初代歌川広重の『東海道五拾三次』にも描かれました
1813(文化10)年の『仙台下向(げこう)日記』には、大坂から来た豪商・升屋平右衛門(ますやへいえもん)が、袋井宿の大田脇本陣に泊まった際、朝食に玉子ふわふわを出されたことが記されています。
これをもとに、2006年より袋井市観光協会が中心となり、江戸時代の料理本を参考にしながら再現したのが、「袋井宿たまごふわふわ」です。
『仙台下向日記』には、「玉子ふわふわ」の文字が! 提供/袋井市観光協会
ふわふわから想像する江戸時代の食事情
今回は「居酒屋 どまん中」のご主人、髙橋信雄さんに話をうかがいました。
「玉子ふわふわは1626(寛永3)年に京都二条城でふるまわれた将軍家の饗応料理の献立にも登場します。今では卵は身近な食材ですが、江戸時代にはまだ貴重品でした。玉子ふわふわは武士や豪商などかぎられた人しか食べられない高級料理だったんでしょうね」
お待ちかねの「たまごふわふわ」が運ばれてきました。土鍋の蓋をくるくる回して、そっと取ると、ふんわり膨らむ玉子のドームが登場。だしのよい香りが広がります。かき混ぜずに底からすくって口に運びます。味からは茶碗蒸しを連想しますが、ふんわり溶ける食感はまるでメレンゲのよう。気持ちまでとろけてしまいそうな極上の舌触りです。
「ふわふわという言葉には『ふわふわしている』『ふわふわ浮いている』の二通りの意味があります。ひょっとしたら、だしの上に玉子がふわふわ浮いているような料理だった可能性もありますね」
と髙橋さんは語ります。江戸時代の食膳を想像しながら味わうなんて、またとないロマンですね。
材料と作り方
材料 【1人分】
- 卵……1個
- 砂糖……ひとつまみ
A
- かつおだし……200cc
- うす口醤油……大さじ1/4
- 塩……小さじ1/4
- コショウ……少々
作り方
上手に作るポイントはミキサーを使って卵をよく泡立てること
- 1. A を合わせ、少し濃いめのすまし汁を作る。1人用の鍋に入れ、火にかけ、沸騰させる。
- 2. 卵を割り、砂糖を入れ、ミキサーに約5 分かける。
- 3. 手順1の火を止め、うちわなどであおいで少し冷ます。
- 4. 手順3の鍋に手順2の卵液を一気に入れ、コショウを振りかけ、蓋をする。5~10秒ほど強火にかけ、蓋が持ち上がってきたら火を止める。
本場の味を求めて……居酒屋 どまん中|袋井市
旧東海道筋近くにあるアットホームな居酒屋
店主の髙橋さんが笑顔で歓迎。地元の人からも観光客からも愛される店
江戸時代の料理本『料理物語』を参考に再現した、「たまごふわふわ」550円(税込)が人気。 薬味には、原典に記されたコショウの代わりに、山椒と静岡産のお茶をブレンドしたものを使います。ほか、中国への留学経験があるご主人が漢方で煮込んだ豚足「骨まで愛して」など、名物料理が多数!
居酒屋 どまん中
問い合わせ先 | 0538・43・8858 |
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時間 | 17~24時 |
定休日 | 月・火曜 |
交通アクセス | 東海道本線袋井駅から徒歩約12分 |
2020年3月30日取材 文/吉野りり花 撮影/鈴木康史 イラスト/渡辺トモコ