トレたび JRグループ協力

2024.07.08ジパング俱楽部神島を舞台にした、三島由紀夫の恋愛小説『潮騒』三重県鳥羽市|名作の舞台へ

いつか、あの作品の舞台へ行ってみたい――。
小説、映画、ドラマ、音楽……名作にはそんな、人を引きつける力があります。ずっと心に残る、名作の舞台を紹介します。

  • 会員誌「ジパング倶楽部」2020年8月号で掲載した記事を、再編集してお届けします。

三島由紀夫『潮騒』

三重県鳥羽市 神島(かみしま)


作品情報

ギリシャの古典『ダフニスとクロエ』に触発された三島が、若い二人の清純でありながら生命力に満ちた姿を描き出す恋愛小説。

1954年、三島が29歳の時の作品。

 

価格 :649円(税込)
販売元 :新潮文庫


1910(明治43)年に点灯された神島灯台には「恋人の聖地」のプレートが設置されています 1910(明治43)年に点灯された神島灯台には「恋人の聖地」のプレートが設置されています

鳥羽港の北東に浮かぶ周囲約4キロの神島。この小島が多くの人に知られるきっかけとなったのが、三島由紀夫の小説『潮騒(しおさい)』です。

漁夫の新治(しんじ)と船主の娘・初江(はつえ)のみずみずしい恋の物語は大変な評判を呼び、神島は5回も本作映画化のロケ地になりました。小説では「歌島(うたじま)」とされましたが、伊勢湾を臨む漁業の島であり、作中に登場する場所は現実の風景そのままに描かれています。

実際に三島は執筆のため、1953(昭和28)年に神島を訪問。
川端康成への手紙の中に、島には「よごれた」ものは何もなく、本当の人間の生活がありそうです、とその印象を書き送っています。

小説ゆかりの島は、1周2時間ほどの遊歩道でめぐることができます。海神・綿津見命(わたつみのみこと)を祀(まつ)る八代(やつしろ)神社は、新治と初江が待ち合わせしたり折にふれてお参りした場所。

神社と並んで「眺めのもっとも美しい」神島灯台に上れば、伊良湖(いらご)水道が一望の下です。

そして嵐の日に、ずぶ濡れになった二人が焚火を挟んで向かい合った、監的哨跡(かんてきしょうあと)。三島は大波の日を選んで島に渡った体験をもとに、躍動感溢れる嵐の様子を描いたそうです。


戦時中、旧陸軍が伊良湖岬からの大砲の着弾点を確認した監的哨跡 戦時中、旧陸軍が伊良湖岬からの大砲の着弾点を確認した監的哨跡

今年は三島没後50年にあたる年。

センセーショナルな死や作品が話題に上ることの多い作家ですが、『潮騒』に表れた健やかな純粋さと力強い生命への憧れもまた、三島の一面なのでしょう。新治の血潮の中に響いていた潮騒は、その象徴であるかのようです。


神島

問い合わせ先 0599・25・1157(鳥羽市観光商工課)
交通アクセス 神島へは参宮線鳥羽駅下車、徒歩約7分の鳥羽マリンターミナルから神島行き市営定期船約40分
URL https://www.city.toba.mie.jp/soshiki/kikaku_keiei/gyomu/seisaku_keikaku/rito_shinko/3054.html

文/綿谷朗子 写真/しまステーション(神島灯台)、鳥羽市観光商工課(監的哨跡)