2024.08.29ジパング俱楽部生活の質の向上にもつながった、図書館をフル活用する読書| 定年後が楽しくなる新しい趣味
定年後が楽しくなる新しい趣味を紹介するこの連載。第2回のテーマは「読書」です。
大人の趣味といえばまず挙がり、本さえあればいつでもひとりでできる手軽さはいわずもがな。 図書館を活用し、ビブリオバトルや読書会などの読書イベントにも取り組みながら、自分のペースで読書ライフを満喫している笛木さんに話を聞きました。
笛木 隆雄さん
教養が深まり、エンターテインメントにもなる読書
自由に好きなだけ読書できた学生時代と比べて、社会人になるとすっかり時間がなくなったという笛木隆雄さん。いつから読書に打ち込むようになったのでしょう。
読みたい本は図書館を活用
笛木さん 銀行勤めから転職した20年ほど前、時間に余裕ができてからじっくり本を読めるようになりました。
書店へ新しい本を見に行くことはありますが、どちらかといえば、本は買うより借りる派。新聞の書評などをきっかけに読みたい本があれば、図書館のホームページで検索して予約して借りに行くことが多いです。図書館にない本もリクエストすると入手してくれるからありがたいです。
読書にも咀嚼(そしゃく)が大事
――読書の魅力とは?
笛木さん まず自分の教養を深められること、もうひとつは純粋に読んで「面白かった」、「感動した」と思えるエンターテインメントとしての魅力です。私にとって本はお米、読書は食事で、生活の一部です。そして栄養を吸収するには咀嚼も大事。読書にとっての咀嚼はアウトプットだと考えているので、1冊読み終えたらあらすじや感じたことを読書ノートに記しています。頭を整理でき、本の理解が深まります。また、ビブリオバトルや読書会に参加して、人に伝えることでアウトプットしています。
——現在はどんな読書を楽しんでいますか?
笛木さん 大学時代、「岩波文庫の100冊」という古今東西のさまざまな分野の本を紹介する冊子がありまして、それを選書の目安にしたんですね。最近、自分の読書の終活をと思い、またここから本を選んで読み直しをしています。一度読んだはずなのに新しい発見があり、本のよさを再び知ることができるのが楽しいですね。
イベント参加で読書ライフに深みや広がりが増す
ビブリオバトルで読書のアウトプット
笛木さんの大事なアウトプットの場のひとつが、2カ月に1回程度、地元の図書館で開かれる「みんなで楽しむビブリオバトル」です。
ビブリオバトルとは、各バトラー(発表者)が持ち時間に合わせて本を薦める紹介合戦。参加者との質疑応答を経て、どの本を一番読みたいか投票してチャンプ本を決めるというものです。
伝える楽しさ、反応や共感のうれしさ
ビブリオバトルを運営する「みよし読書愛好会」に所属し、笛木さんとともに会場の準備や時にバトラー役も務めている前島賢司さん、塩野輝之さんにも話を聞きました。
——ビブリオバトルはどんなところが楽しいですか?
前島さん 自分の好きな本を紹介できる楽しさ、また、みなさんがどういうところに興味を持ってくれたかという反応を知ることができたり質問を受けたりすることが楽しいですね。
笛木さん 本をきっかけにして交流の輪が広がるのもいいですよね。
塩野さん チャンプ本に選んでもらうことはもちろんうれしいですが、共感してくれる人がひとりでもいると分かるのがうれしいですね。 私は70代ですが、体力が落ちたり仕事を辞めたりと変化がある年代です。そんななかでも一番失ってはいけないものは好奇心だと思うんです。その好奇心を後押しして、自分を次へ進めてくれるのが本なんです。
読書はひとりでできますが、基本的に一方通行。人との対話を通して感想や情報を共有したり、自分の知らない分野の本を知ることができるイベントに参加することで、自分の読書にいっそう深みと広がりが持てるようになるのですね。
読書は生活の質の向上にも有効
旅のヒントが見つかることも
旅行も好きという笛木さん。ひとり旅ではなく同伴者がいることが多いので旅行中に本を携帯することはほぼないそうですが、読んだ本から旅につながることは多いとか。
笛木さん 定年になった60代の頃、たまたま書店で出合った『定年後はイギリスでリンクスゴルフを愉しもう』(山口信吾著)という本。ゴルフの発祥地であり、整備された現代のゴルフ場とは全く別物の“リンクス”へ、私と同じ定年を迎えた著者がゴルフをしに行くというものなのですが、これに触発されて、私も友達4人とレンタカーを借りて、5年間毎年スコットランドのリンクスコースを回りました。つい最近は、『板上に咲く』(原田マハ著)。ゴッホに憧れていた棟方志功(むなかたしこう)のことを奥さんの目線から描いた感動的な話で、ゴッホのものとそっくりな棟方志功のお墓を見たくて、棟方志功のコーナーのある「青森県立美術館」と併せて青森へ行ってきたんです。
旅のヒントが見つかるのも読書のいいところなのですね。
知的好奇心を持ち続けるために
——今後、読書ライフにおける目標は?
笛木さん 続けることですね。本を読むことも、ビブリオバトルもできるだけ長く続けたい。知的好奇心を持つことは老化の防止には必要不可欠。読書をして頭をいつも使うようにしていくことが高齢期の生活の質の向上にも大事だと思います。
楽しみながら役に立つ。笛木さんたちの話を通して、読書にもっと親しみたいと思えるのでした。
もっと読書が楽しくなる!笛木さんの考える「読書の3ステップ」
本の海は広大なので、まずは自分の好きなジャンルの本に取りかかってみましょう。本選びに迷ったらそのジャンルで名作と呼ばれる本や有名作家の作品から入るといいと思います。たとえば歴史小説が好きだとして、歴史そのものに興味があるなら司馬遼太郎や吉村昭、人情モノが好みなら山本周五郎や藤沢周平などと選んでみて。
読んでおもしろくなければ本じゃない。「一度読み始めたからには読破しなくては」と思う人もいるかもしれませんが、読んでも読んでも進まない本のせいで読書が止まってしまうくらいなら、見切りをつけて次の本を手に取ってみましょう。本は読んでみないと分からないものですが、定年後という時間のある今だから片っ端からチャレンジできますよ。
自分に合いそうか楽しそうかを事前に知るには、インターネットで見られる書評が便利。気になる本があれば、ネタバレにならない程度に書評を読んでみる。そのリアル版がまさにビブリオバトル。いろんな人が自分の言葉で愛を持って紹介する場に参加して、本を知るのは断然有効です。
文/下里康子 写真/田中仁志 取材協力/三芳町立中央図書館