トレたび JRグループ協力

2008.12.01鉄道JR北海道の札幌苗穂地区の工場群で明治から伝わる鉄道遺産を見てみませんか?

未来に伝えたい鉄道遺産

1872(明治5)年の新橋駅~横浜駅間開業以降、全国にその網を広げ続けてきたに日本の鉄道。厳しい地理的条件を克服するために、さまざまな技術が施された場所も少なくありません。できあがった当時の社会や先人たちの苦労を、無言で語っているかのような鉄道遺産。そんな、未来にも伝えていきたい名建築を訪ねる旅に出てみませんか。

札幌苗穂地区の工場群

北海道の鉄道を支えた産業遺産


苗穂工場内にある「北海道鉄道技術館」


昔懐かしい「腕木式信号機」。敷地内には貴重な鉄道遺産が随所に点在しています

札幌市の苗穂地区は、貨物輸送の利便性などにより、明治期から「産業の町」として栄えました。多くの工場が建てられ、鉄道の「苗穂工場」もそのひとつです。「苗穂工場」は1909(明治42)年12月、鉄道院札幌管理局札幌工場として設立され、1915(大正4)年に「苗穂工場」に改称された由緒ある工場です。20万平方メートル(甲子園球場の約5倍)の敷地に20棟のレンガ造りの建物が並び、1000台の工作機械が動きました。終戦までに400両に及ぶ車両を製造、戦後は車両の検修、改造、リゾート車両の製造などが行われ、高い技術力を持つ工場として知られています。

歴史ある建物が多い「苗穂工場」ですが、このうち機関車修理場(旧第一用品倉庫)が「北海道鉄道技術館」として一般公開されています。建築は1910(明治43)年のレンガ造りで、工場内で最古の建築物です。北海道遺産の一施設であり、「さっぽろ・ふるさと文化百選」に選定されています。

内部は改装され、鉄道に関する数多くの資料が展示してあります。北海道初の特急気動車「おおぞら」で使用されたキハ82系の先頭部、苗穂工場で改造、落成した名リゾート列車「アルファコンチネンタルエクスプレス」の先頭部など貴重な実物のほか、運転シミュレーターなどがあります。
 屋外には蒸気機関車C62 3が静態保存され、腕木式信号機も設けてあります。

●交通 函館本線・苗穂駅よりタクシー約5分

大日影トンネル遊歩道

先人の苦労が伝わる、鉄道構造物の傑作

大日影トンネルと深沢トンネルは、1903(明治36)年に貫通した歴史的なトンネルです。同時期の笹子トンネルの貫通とともに、中央本線の開通はこの地に大きな利益をもたらし、ブドウの輸送では馬で3〜6日かかったものが半日に短縮されるなど、鉄道輸送が大いに貢献しました。しかし、時代を生きたトンネルも、路線の高速化により新トンネルが掘られ、1997(平成9)年に廃線。トンネルは遊歩道やワインカーヴとして新たに活用されました。


続く旧深沢トンネルはワインを貯蔵するワインカーヴに。年間温度6〜14度でワインの熟成に最適です

トンネルを見てみましょう。昔のトンネルは貫禄がたっぷりです。入口は「坑門(こうもん)」と呼ばれ、レンガや石積みで造られました。ピラスターと呼ばれる「壁柱」が両側で支え、「迫石(せりいし)」のアーチがトンネルを形成し、最上部にはキーストーンと呼ばれる「要石(かなめいし)」が入れられ出来上がります。トンネルアーチ上には水切りの役割を果たす「帯石」「笠石」が飾られ、場合によってはトンネルの名称や完成の祝いの言葉を揮毫する「扁額」が設けられます。


大日影トンネルは全長1367.8メートル。坑門は切石積み、内部はレンガ積みで、ゆっくりと見学できます

これらトンネルの意匠は、構造上の役割以上に「装飾」の目的が大きかったようです。トンネルは建設に多大な苦労と人力、月日を要する鉄道構造物の傑作です。しかし、橋梁などと異なり暗い地中にあり地味な存在のため、たった2ヵ所の「坑門」は建設者たちが「主張」をできるせめてもの場所だったのです。そんな先人たちの労苦と英知を、現存のトンネルから感じとってみてはいかがでしょう?

●交通 中央本線・勝沼ぶどう郷駅下車

多度津駅給水塔

蒸気機関車が休息したレンガの遺構


多度津駅の駅舎の隣にたたずむ重厚な給水塔。駅を出て数分の跨線橋(写真左)がビュースポット

蒸気機関車のボイラーに水を汲むための給水塔です。機関車より高い位置に貯水槽があり、上から下へ、重力を利用して水を供給します。多度津駅の給水塔は塔部がレンガ造り、貯水槽はコンクリート製で構成されています。直径は4.96メートル、高さが7.35メートル。塔部には窓があり、さらに花崗岩の「迫石」「要石」が見られ、じつに優雅な仕上がりです。建造は1913(大正2)年頃と言われています。多度津駅は四国鉄道発祥の地。多くの機関車たちがこの給水塔で一息ついて活躍をしました。


塔部の窓には「迫石」「要石」が設けられ、「イギリス積み」のレンガ構造も眺めることができます

給水塔のレンガは「イギリス積み」と呼ばれる、レンガの長手面の段と小口面の段を交互に積み上げたものです。強度的に優れ推奨されたため、日本で広く普及しました。

レンガの積み方には様々な種類があり、「イギリス積み」も端部の処理によって「オランダ積み」と呼ばれます。また、同じ段に長手面と小口面を交互に配置した積み方に「フランス積み」があります。美観に優れ、この積み方の建築物などは大変に瀟洒なのですが、構造的には「イギリス積み」などより若干劣ります。

レンガは粘土を直方体にし、乾燥させて焼き上げたもので、建築材料として活躍してきました。レンガが日本にやって来たのは幕末の長崎が最初といわれ、鉄道ではあらゆる建築物、トンネル、ホーム、橋脚などに多数利用され、現役のものも少なくありません。

●交通 土讃線・多度津駅下車

  • 写真協力:JR北海道(札幌苗穂地区の工場群)/JR四国(多度津駅給水塔)
  • 掲載されているデータは2008年12月現在の情報です。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。
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