次の旅は寝台特急で
東北新幹線や九州新幹線(鹿児島ルート)が全線開業して、日本はどこへ行くにも速くて快適な旅ができるようになってきました。こうしてますます便利になっていくなかで、だんだんと運転本数が少なくなってきているのが、寝台列車です。夜遅くに出発して朝には目的地へと着くことができるという、ビジネスにも観光にも、実は大変便利な列車でありながら、長距離移動の主役の座を新幹線や飛行機に奪われてしまったのは残念です。
漆黒の闇の中に流れ去っていく町の灯を眺めながら、仕事や学校のこと、家族や愛する人のことなど……、じっくりと時間をかけて見つめ直してみる、なんてことも夜汽車ならではの醍醐味かもしれません。
今度の旅は、いつもとはちょっと趣向を変えて、寝台特急で出かけてみませんか。
寝台特急に乗るには、どんなきっぷが必要なの?
寝台列車といっても、きっぷの買い方は新幹線などとさほど変わるものではありません。「サンライズ出雲・瀬戸」の場合は、「○月○日の東京から出雲市まで、シングルで大人○人」みたいに駅のきっぷ売り場で言えばいいだけです。
ここでちょっと、基本的なきっぷの仕組みをおさらいしてみましょう。例えば新幹線で東京から新大阪まで行く場合、必要なきっぷは東京~新大阪間の乗車券(運賃)と新幹線特急券(特急料金)の2枚となります。これが窓口や自動券売機で買うと1枚のきっぷで出てくることもありますので、合計金額が運賃と特急料金を合わせたものだと意識することも少ないかもしれません。むしろ大事なのは窓側か通路側かとか、グリーン車か自由席か、といったことでしょう。
では、寝台特急の場合はどうでしょうか。これも新幹線の場合と同じように、乗車する区間の乗車券と特急券が必要になります。そして、寝台列車の場合はさらに寝台券も必要です。つまり、寝台特急に乗る場合には、乗車券+特急券+寝台券が必要というわけです。
そこで大切なのは、寝台券です。寝台列車の場合は、窓側・通路側といった区別はなく、代わりに、寝台の上段・下段、個室のタイプなどといった選択肢があります。
寝台は大きく分けて、A寝台とB寝台に分かれます。昼行の特急列車と比較してみると、A寝台はグリーン車、B寝台は普通車ということになりますが、B寝台が窮屈なものかといえば、いまの寝台列車はそんなことは全くないのです。
多彩な寝台プランがある「サンライズ号」
では、特急「サンライズ出雲・瀬戸」の寝台を選んでみましょう。
オール2階建て車両のこの列車は、「出雲」は下りが8~14号車、上りが1~7号車、「瀬戸」が下りが1~7号車、上りが8~14号車となり、東京~岡山間では2本の列車が連結して走ります。
そして、寝台の種類は、A寝台が1人用個室のシングルデラックス、B寝台の1人用個室がシングル、シングルツイン、ソロの3タイプ。B寝台の2人用個室がサンライズツイン、さらには格安料金のノビノビ座席までと、多彩なタイプが用意されています。
そこで肝心なのが、どの寝台を選ぶのかということ。簡単に各タイプの寝台を見てみましょう。
A寝台「シングルデラックス」
「サンライズ出雲・瀬戸」でもっとも贅沢な旅が楽しめる寝台です。1人用個室となった室内には、1960mm×850mmの広いベッドと、洗面台にデスクも完備(現在、液晶テレビは撤去)。
サンライズ号のロゴマークが入ったアメニティキットにシャワールーム(シングルデラックス専用)が使えるシャワーカードもプレゼントされます。出雲号・瀬戸号それぞれに6室のみのプレミアムルームとして人気も絶大ですので、ご予約はお早めに。
B寝台「シングル」
編成中もっとも多く用意されているのが、コンパクトな空間にベッドやテーブル、オーディオのコントロールパネルなどが使いやすくまとめられた1人用個室のシングルです。ベッドの大きさは1960mm × 700mmでシングルデラックスにも肉薄。1・2階とも十分な天井高も確保され、快適な一夜を過ごせます。
2階建てではない車端部の部屋(1・8号車1番、2・6・9・13号車13・14番、5・12号車11・12番、7・14号車11番)は、さらに天井も高く同じ料金でお得です。また、上段の部屋では窓が天井側へとカーブを描いていて、星空を眺めることができます。
B寝台「ソロ」
なんといっても格安に寝台の旅が楽しめる1人用個室です。部屋いっぱいがベッドとなり、天井も低いですが、子どもの頃に夢見た秘密基地のような雰囲気もあって、これが意外に楽しめたりもします。
上段の部屋には通路からの階段が室内にあり、そこを利用すれば体格にもよりますが立ち上がることもできるでしょう(上段部屋が偶数番号、下段部屋が奇数番号)。
B寝台「シングルツイン」
シングルとほぼ同じタイプの室内ですが、2階建てではない天井の高い部屋になっています。
上段には跳ね上げ式の補助ベッドがあって、2人での利用もOK。下段のベッドは折りたたんでソファにもなります。
B寝台「サンライズツイン」
シングルデラックス車両の1階部分にある2人用個室で、1960mm × 750mmの広いベッドが2つ並んだ部屋です。
シティホテルのツインルームのような雰囲気は、夫婦や恋人、友達同士の旅に最適です。
ノビノビ座席
寝台料金いらずの指定席料金だけで利用できる超格安座席です。室内は長距離フェリーなどの座敷(カーペット)席のような雰囲気で、上下段の2段構造になっており、隣の区画とは素通しですが、頭の部分だけは区切られています。自分専用のカーペット空間は若者たちにも人気です。
きっぷの買い方&ちょっとした狙い目
寝台のタイプを決めたところで、いよいよきっぷを購入しましょう。
きっぷの購入には、みどりの窓口などの駅のきっぷ売り場や旅行センターなどを利用します。インターネットを利用した予約(e5489)の方法もあります。
駅の窓口で並んでいる人が多い場合には、お隣の旅行センターにも目を向けてみましょう。案外空いていたりすることも多いので狙い目です。このほか、日本旅行やJTBなどの旅行会社では、窓口や電話での予約も可能。お持ちのクレジットカードにトラベルデスクなどがあれば、それらを利用するのも一案です。
旅情満点、実は便利!「サンライズ出雲・瀬戸」の旅
「サンライズ出雲・瀬戸」は、下り列車が東京21時50分発→出雲市10時00分着・高松7時27分着。上りが出雲市18時57分発・高松21時26分発→東京7時08分着。下り列車で見てみれば、岡山には翌朝6時27分、倉敷には6時46分、米子には9時05分、松江には9時33分に到着します。
羽田からの飛行機の最終便のずっと後に東京駅を出発して、翌朝の新幹線や飛行機の初便到着の前には岡山や高松に着くことができるのです。米子や出雲へは翌日の飛行機でちょっとだけ先に着くこともできますが、なにより早朝の6~7時台に羽田空港へ行くのは大変ですし、さらには搭乗前後の余裕時間も必要です。実は「サンライズ出雲・瀬戸」は観光にもビジネスにも時間を有効に使うことができる、とても便利な列車なのです。
深夜でも町の灯りが絶えない東海道沿線を走り抜け、目覚めれば「サンライズ出雲」は中国山地の山あいを抜けて、宍道湖畔の美しい風景が車窓を彩ります。「サンライズ瀬戸」はなんといっても瀬戸大橋を渡る雄大な風景が圧巻です。フリースペースのミニロビー(3・10号車)から車窓を楽しむのもいいですね。
A寝台のシングルデラックス(4・11号車)はもちろん、B寝台でもシャワーカード(有料)を購入すれば、シャワー(3・10号車)の利用もOK。気持ちよく旅をスタートできるでしょう。
さあ、次こそはぜひ寝台特急「サンライズ出雲・瀬戸」で旅に出てみませんか。
- ※文=坂本達也 写真協力=結解学
- ※初掲載2011年9月(2020年2月更新)